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円満に婚約解消した悪役令嬢ですが、巫女姫様が言いがかりをつけてきます!?  作者: 7E


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17/21

そうそう!

すみません、カードの説明間違ってました!修正します(4/29)


 冷たい風が窓を揺らします。揺れる梢、ざわめく茂み。今にも雨が降りそうな―――いえ、この気温なら雪かしら―――低く垂れこめた雲を見上げ、わたくしは思わずため息をつきました。


 ぐずついた天気のせいでしょうか。

 頭の芯が重く痺れるようで……少し寒気がします。いくら贅を尽くした王宮とはいえやはり窓の傍は冷え込むのですね。風邪をひかぬうちにもう少し暖炉の傍へ寄ったほうがよさそうですわ。


 そう思って、サロンの中ほどへ足を進めようとした時。


 「おや……これはこれはアリアドネ嬢。いつ見てもお美しい」

 「あら、モンテナ伯爵様。お久しぶりですわ」

 ちょうどサロンへ入ってきた紳士に声を掛けられ、わたくしは丁寧に淑女の礼をとりました。


 「今日は王妃教育の日ではなかったと思うが……王妃様へのご機嫌伺いですかな?」

 「まあ、お詳しいのですね。モンテナ伯」


 まるで品定めをするように人をじろじろと眺め、嫌味たっぷりに笑うこのかたは、ジャン=ピエール・モンテナ伯爵。巫女様のお世話係に名乗りを上げた、出世欲の強い……いわゆる俗物ですわね。

 上昇志向が強いのは悪いことではないのでしょうけど……なんというか、一方的にお父様に敵対心を燃やしているようで、王族や上級貴族の目のないところではお兄様やわたくしに対してもこういう慇懃無礼な態度をとります。

 先ほどの挨拶も、要約すれば『用もないのに王妃様に媚びを売りに来たのか』といったところでしょうか。


 「今日は、王妃様にお茶会へのお招きをいただきましたの」

 普段なら氷の微笑(表情筋の死滅したわたくしが口許だけに笑みを浮かべると、恐ろしく冷たく見えるそうなのです)でやり過ごすところですが、いろいろ鬱憤の溜まっていたわたくしは、できるだけにこやかに微笑んでそう返しました。

 だって、不気味なドロレス様の動向といい、妙な噂といい、最近繰り返し見るようになった不思議な夢といい……気が滅入ることが続いているのですもの!


 「そ……そうですか。お茶会に……」

 わたくしの返事を聞いて、モンテナ伯はうっと言葉に詰まったようでした。

 『王妃教育以外でもお茶に招かれるくらい、わたくしは()()()()()()()ですのよ?』というわたくしの意向は正しく受け取っていただけたようです。


 「そういえば、王妃教育のご褒美に王妃様がお茶会を開いてくださるそうですな。様々な貴族の奥方やご令嬢をお招きしているとか」

 (意訳:けっこう大勢の貴族令嬢が招かれるお茶会だろうが!自分だけ特別扱いされているとは思うなよ!)


 「いいえ、今日はそれとは別……王妃様の、ごくごく内輪の、特別なお茶会ですの。ベアトリス様からきいていらっしゃいません?」

 (意訳:()()()()()()()()()()()()のお茶会だって言ってるでしょう?ご令嬢のベアトリス様が招かれていない段階で察してくださいな)


 「う…うちのベアトリスはいたって慎み深い性質でしてな……。そうですか、内輪の……まあ、先日の殴打事件のこともありますし。王妃様もいろいろとご心痛なのでしょう」

 (意訳:ベアトリスはたとえ誘われてもそう何度もお茶会にお邪魔したりはしないんだよ!どうせ、あの馬鹿王子の不始末の尻拭いのために招かれただけだろう!)


 「まあ!いやですわ、モンテナ伯。そんな話を蒸し返したりなさって!その件でしたら、とっくに済んでおりますのよ?殿下からも過分なほどの謝罪をいただきましたし。今日はとても珍しい東方のお茶が手に入ったとかでお誘いいただきましたの。とっても王妃様がお気に召したそうで」

 (意訳:とっくに済んだ話ですのに、そんなこともご存知ないの?今日は王妃様お気に入りの、とっておきのお茶を振舞っていただきますのよ)


 「ああ、それはきっと私のお土産のお茶ですね」

 そこで、表面上はにこやかに、バチバチ火花を散らすわたくしたちに、横から救いの手が差し伸べられました。


 「マースデン卿……」

 「先日、陛下と王妃様に帰国の挨拶に伺いましてね。その時、東方のお茶を献上したのです。そうですか、お口に合って良かった」

 モンテナの()()()様の横から進み出た銀髪瘦身の紳士は、にこやかにそう微笑みながら貴族の礼をなさいました。


 「初にお目にかかります。エドワルド・マースデンと申します。どうぞお見知りおきを」

 「これはご丁寧に。アリアドネ・フィーネ・ランバウムと申します。こちらこそ、どうぞお見知りおきくださいませ」


 そういえばこの方、モンテナ伯がサロンに入ってきたときからご一緒でしたわね。狸親父様のお相手ですっかり失念しておりましたわ。


 急いで淑女の礼を返し………聞き覚えのあるその名前に、わたくしはん?と首を捻りました。

 「エドワルド・マースデン様……もしや、マースデン伯ですの?東方漫遊記……シンシナ帝国放浪記を書かれた?」

 「おお!ご存知でしたか!!」

 わたくしの問いに、マースデン伯はぱっと顔を輝かせます。

 「もちろんですわ!!2冊とも、とても興味深く読ませていただきました!東方諸国の文化に関する考察や、モルゲン高原遊牧民の文化論も!」

 「なんと!そのような学術資料まで!」


 なんてことでしょう!

 信じられないような幸運に、わたくしはこれまでの鬱憤が一気に晴れる思いでした。目の前にいるこの方は、わたくしたちが夢中になって読んだ、東方への冒険旅行記の筆者その人なのです!


 「これは嬉しい驚きですな!あなたのような美しいご令嬢が私の本をご存知とは……」

 「最初は友人に勧められて漫遊記の方を読みましたの。それがとても面白かったものですから、帝国放浪記も。2冊ともわたくしたち、特にフェアリントン辺境伯のご息女、リディア様の愛読書ですわ!」

 「おお!それはそれは……」

 マースデン伯は、日に焼けた顔を綻ばせ、照れたように鼻の頭を擦ります。

 「嬉しい限りですな。実は、近いうちにイグネシア学園で講演会を頼まれているのです。よろしかったらぜひお友達も一緒に」

 「まあ!ぜひ!喜んで拝聴させていただきますわ!」

 「……アリアドネ嬢はずいぶんと博学なのですな」

 思わずマースデン伯と盛り上がっていると、放置されていたモンテナ伯がごほんと咳払いをなさいました。


 「ですが……()()()()()()いささか……いえ、勉強熱心なのは良いことですよ?しかし……女性があまり賢しいというのも……」


 まあ!なんて失礼なことをおっしゃるの!

 嫌味たっぷりに片眉を吊り上げ、せせら笑うようなモンテナ伯に言い返すより早く、マースデン伯が静かに口を挟みました。


 「何をおっしゃる、モンテナ伯」

 見れば、マースデン伯は先ほどまでの少年のような笑顔を引っ込め、眉を潜めて狸親父様を見ておられます。

 「今時、女性が賢しいからなんだというのです。学術的好奇心に女性も男性もあるものか。しかも、ランバウム嬢と言えば王太子殿下の婚約者、次期王妃であらせられる。そのような立場の方が、諸外国の見識を深めて何の不都合があるというのです。現に、陛下に報告を奉った時も、陛下より王妃殿下の方が東方の話に興味を示されたというのに」


 そうそう!言ってやってくださいまし!!

 マースデン伯の諫言に心の中でエールを送りつつ、わたくしはちょっぴり後ろめたくもありました。

 だって、わたくしの興味は純粋に好奇心によるもの。次期王妃だから、なんて考えはこれっぽっちもなかったんですもの。


 「ふ……ふん。まあ、そういう考え方もあるでしょうな」

 形勢不利と見たのでしょうか。モンテナ伯はそう言って、そそくさとその場を離れました。

 その背を見送ってひとつ息をつき、マースデン伯はもう一度わたくしに向き直ります。


 「やれやれ……あの方も悪い方ではないのだが……ご不快な思いをさせて申し訳ありません、ランバウム嬢……いや、アリアドネ嬢とお呼びしても?」

 「いいえ、とんでもありませんわ。どうぞ、アリアドネとお呼びください」

 いや、じゅうぶん()()()悪い方ですわ、とは言えなくてそう返すと、マースデン伯は何故かしみじみとわたくしを見つめました。


 「………あの……?」

 「ああ……いや、失礼。やはりお母上……エナリア様によく似ていらっしゃるな、と……」

 「まあ!」

 その言葉に、思わずわたくしは息を飲みました。

 「お母さま……母を、ご存知ですの?」

 「ええ、もちろん。私は、お母上とは1学年しか違いませんから。エナリア・セレジェイラ・ウィンストール伯爵令嬢と言えば、学園中の憧れの的でしたよ」

 「そう……でしたの……」


 考えてみれば、当然の話です。

 イグネシアは貴族学園。子爵以上の家柄ならほぼ間違いなく同じ学園の出身となるのですから。


 「では、マースデン伯は学園時代に母と親交がございましたの?」

 「とんでもない!私なんか、遠くから眺めるだけで精一杯でしたよ!でも……そうですね、冬祭りの2週間前に恒例のリキエシタがあるでしょう?」

 「ええ、ありますわね。まさに来週からですわ」


 リキエシタとは、1年生の男子が全学年の女子に対し、冬祭りでのダンスの申し込みをする学園の恒例行事です。この時ばかりは1年男子ならば、身分の差、婚約者の有無にかかわらず、どなたにでも申し込みをすることができます。

 対する女性のほうは各自5枚の青カード、8枚の赤カード、10枚の白カードを持ち、合格なら青、保留なら白、不合格なら赤のカードを申し込んで来た相手に渡すのです。ただし、これはあくまでも()()()()()()()()()()()であって、女性側はその申し込みの採点をしなければなりません。けっこう面倒な行事なのです。


 「1年の時、憧れの先輩に声をかけられる、最初で最後のチャンスだと、それこそ千尋の谷へ飛び込むつもりでエナリア様に申し込んだんです。それはもう、しどろもどろで右足と右手が一緒に出てるような状態で……酷いものでした。でもあのかたは………」

 

 

 『緊張し過ぎよ、エドワルドくん』

 声をかけるだけでいっぱいいっぱいで、名乗ったかも定かではない自分に、彼女はそう言って笑った。

 『まず、声をかけるまでに時間かけすぎ。声をかけてからも、言い出すまでが長い。どもったのも、手順すっ飛ばしたのも減点、かな。………でも』

 白い指先がカードを選び、さらさらと点数を書きつける。

 『一生懸命さと、誠実さはじゅうぶんに伝わりました』

 優しい笑みとともに渡されたカードの色は鮮やかな青だった。

 

 

 「採点は厳しいものでしたが、青のカードをいただきました」

 「では、母とダンスを?」

 「ええ。ラストダンスではなかったですけどね。……私の、一生の思い出です」

 胸に手を当て、目を閉じてマースデン伯はおっしゃいます。


 「エナリア様……『イグネシアの()()()』の名にふさわしい、本当に素晴らしいお方でした……」

 「え……?」


 すこし寂しげな呟きを聞き咎めて、わたくしは目を瞠りました。


 お母さまと王妃リリアーナ様が「イグネシアの名花」と並び称されていたのは知っています。

 でも……3名花……?

 では、あとおひとり……同じように称されたかたがいらしたのでしょうか?


 「あの、マースデン伯……」

 それを聞こうと、顔を上げた瞬間。


 「アリアドネ?」

 不意に耳を打った少し緊張したような声に、わたくしははっとサロンの入り口を振り向きました。

 「まあ!ソフィア様!」

 そこに立っていたのは、オレイアス殿下のお母上……ソフィア側妃様だったのです。


 「待たせてごめんなさいね。リリアーナ様のお茶会でしょう?お迎えに来ましたの」

 「わざわざ申し訳ありません!では今日はソフィア様もご一緒なのですね?」

 「ええ。……お久しぶりですわ、マースデン伯」

 部屋の向こう側で礼をするモンテナ伯を綺麗に無視して、ソフィア側妃様はマースデン伯に向き直ります。

 「今日のお茶はマースデン伯がお持ちくださったものだとか。わたくしも堪能させていただきますわね。……さ、アリアドネ。リリアーナ様をお待たせしてはいけないわ」

 「は……はい。では、マースデン伯、モンテナ伯、失礼いたしますわ」

 いつになく急いでいるようなソフィア様に促され、わたくしは慌ててお二人に挨拶しサロンを後にしました。


 「ごめんなさいね、アリアドネ。急かしてしまって」

 少し困ったように微笑むソフィア様に首を振りつつも、いつもおっとりしたソフィア様らしくない振る舞いに、わたくしはなんとなく腑に落ちないものを感じていたのでした。

 



      ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 そのお茶会は、王妃様の私的な居間で行われました。


 内輪の集まりというだけあって、集まったのは王妃様とソフィア様、宮廷の生き字引と言われるヨハンナ・ランバッハ伯爵夫人。それに何故かわたくしの母方の祖母であるマリエラ・ウィンストール伯爵夫人。

 気の置けない……というにはあまりに微妙な人選に、『もしや殿下の婚約破棄についてでは!?』と内心身構えたわたくしでしたが。


 「まあ!あのふてぶてしいモンテナ伯が?」

 「ええ、リリアーナ様。侍女が知らせに来てくれましたの。それでわたくしがアリアドネを迎えに」

 「助かりましたわ!ソフィア様!あの男ったら、いまだにあの()()()()をデミトリオの嫁にする野望を諦めていないようなんですの!」

 「まあそれで!侍女が言うには、アリアドネに対して嫌味たっぷりだったそうですわ!」

 「おお、嫌だ!アリアドネ、まさか学園であの猫撫で声になにか嫌がらせをされていたりはしないでしょうね?」

 「え……ええ。もちろんですわ。王妃様。ベアトリス様は高飛車なようでいて常識のある方(小心者)ですもの。面と向って何かを言って来たりなさいませんわ」

 「そう?ならいいけれど……」

 「何かされたらすぐにお言いなさいね?」

 「……痛み入ります」


 ……などと、モンテナ伯とそのご令嬢であるベアトリス様への文句で盛り上がる王妃様とソフィア側妃様。

 ちなみに、お二人が「猫撫で声」と称しているのは、やたら猫撫で声で媚びるベアトリス様のことだったりします。

 王太子の座を巡って家同士の確執が噂されているものの、当のリリアーナ様とソフィア様の仲は至って良好で、内輪のお茶会というと大概ソフィア様が招かれているくらい。

 そして、ヨハンナ様はと言えば。


 「そうよぉ、これこれ。このお茶が飲みたかったのよぉ~。シンシナ駐留時代にすっかり癖になってしまってねえ~」

 「あらまあ!確かにちょっと変わったお味ですわね!でもお砂糖を入れたら美味しいこと!アリアや、あなたもいただいてみなさいな」

 「はい、おばあ様」

 「亡くなった主人もこのお茶が大好きでねえ~」


 東方のお茶に相好を崩し、おばあさまと二人で娘のようにはしゃいでおられます。………純粋にお茶を飲みに来ただけなのかしら。このかた。

 なんだか緊張しているのも馬鹿らしくなってしまって、わたくしも素直にお茶をいただきました。


 「あら………」

 そのお茶を一口飲むと、柔らかな甘みと独特の風味が鼻に抜けます。でもそれは嫌な感じではなく……少しスパイスのような……そして、ぽっと身体の芯が暖かくなるような後味。

 「美味しい……」

 「そうでしょう~?さ、蜂蜜を垂らしてみると良いわ。また少し風味が変わるのよ~」

 思わず呟くと、わが意を得たりとばかりにヨハンナ様がお代わりを用意してくださいます。


 「マリエラおばさま、こちらのケーキはいかが?」

 「まあ!ありがとうございます王妃殿下」

 「いやですわ、他人行儀な。私的な内輪のお茶会、いわば無礼講ですのよ?学生時代のようにリリーとお呼びくださいな」

 「まあ、そんな………でも、そう……ね。ではいただくわ。()()()()()()


 なにやら王妃様とおばあ様もすっかり打ち解けていらっしゃいます。

 最初の緊張もどこへやら、わたくしもすっかりリラックスしてふわふわと夢見心地になってしまいました。


 「……ねえ、アリアドネ?何やら学園で不穏な動きがあると、オレイアスが心配していたのだけれど……あなたは大丈夫?身の回りに何も起こっていない?」

 「オレイアス殿下が?……まあ……お優しい方ですのね。でも大丈夫……お兄様やリディア様やマリナ様や……デミトリオ殿下もいらっしゃいますもの……わたくしは大丈夫ですわ」

 「ほんとうに……?何か、悪い噂を立てられているのではない?」

 「さあ……どうでしょう……ドロレス様をやたら持ち上げる動きがあるのは気になりますけど……表立ってなにかをされるわけではないし……噂って、当人の耳には入りづらいもので……ああ、そう、それよりもあの夢の方が気になりますわ……」

 「夢?どんな夢なの?」

 「ゆめ……そう……わたくし、夢の中では子供ですの……4歳か……5歳くらいの……そして、どこか綺麗な庭園で遊んでいますの。雪の中で……白と銀と水色の…綺麗な花が咲いてて……それから……もうふたり……女の子と…男の子…………」


 そう、それはあの蛇騒動のあと……巫女様が家に来てくださったあたりから見るようになった夢。

 繰り返し訪れるその夢の中、何処とも知れぬ美しい花の咲き乱れる雪の庭園で、わたくしは顔の判らぬ男の子と女の子と、一緒に遊んでいるのです。

 「・・・姉さま!」

 わたくしをそう呼ぶ女の子。

 「・・・!」

 わたくしに手を差し伸べる男の子。

 その手を取りたいのに……せめて、名を呼び返したいのに、わたくしにはその二人の顔が判らない……()()()()()()()()()のです!

 

 「……アリア……」

 ぽつりぽつりと話すわたくしの目を、優しい手が塞ぎました。


 「あとひとつだけ教えてちょうだい。あなたがデミトリオとの婚約を破棄したいのは……その、男の子のためなの?それとも……他に理由が?」

 「いいえ……いいえ……違いますわ……だって……殿下は……お兄様……殿下を愛していないわたくしより……お兄様の方が……わたし……おふたりに……」


 その手は優しくて。ただただ暖かくて。

 わたくしの体から、だんだんと力が抜けていきました。


 「……おふたり…に………しあわせ……なってもら……た………」


 一生懸命に伝えようとした言葉は、通じたでしょうか。

 



 「……やはり……この子は……」

 「ええ……多分、もうすぐ……」

 「可哀想に……」

 



 どこか遠くで、そんな囁きが聞こえて。

 わたくしの意識は、闇に沈んだのでございます。





お読みいただきありがとうございます。

少しでも楽しんでいただけたら嬉しいのですが。

また、評価やリアクションなどいただけると励みになります!

よろしくお願いいたします!

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