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それは急な出会いで、あまりに突飛な提案で

初めましての方は初めまして、雨空涼夏です。

第一話は導入で、実質的な本編は次回からとなります。



突然だけど、『もしも』の話をしない?

そう、「もし明日世界が滅ぶとしたら」みたいな『もしも』の事だよ。妄想、想像、if、数学とかで言うなら仮定。

よかったら私と、そんな話をしようよ、君。


___


僕はそこに一歩、足を踏み入れた。綺麗に清掃された木の床を踏みしめる度、殆ど人のいない図書館に靴音が響き渡る。


そんじょそこらに一つはある私立高校の入学式を終え放課後を散策に充て、校内の敷地を歩き回っていると校舎とは別にやけに大きい建物があった。

意味もなく周りに誰もいないことを確認して来てみれば図書館だった。隣には食堂が併設してあるそうで、頻繁に出入りしているのを昼間に目視している。


その近くなので人がいるかと思ったが、思い違いのようだ。司書の先生二人を除いて人の姿は全くない。十進分類法に従って整然と仕舞われた本は埃を被り、再び手に取られるその時をただ待ち続けている。二階は小説のみを置いていて、それ以外は全て一階に置いてあると司書の先生が言っていた。


取り分けて趣味のない僕は読書か勉強以外することがない。だからこそ勉強場所になる図書館に興味を持ち踏み込んだのだが、この寂れようには少し驚くものがある。


「最近の高校生は読書をしない人が多いですからね。若者の読書離れなんてよく言いますが、延々とスマートフォンを操作し続ける時代に変わってきているのかもしれません。やがて紙は廃れ、文字のデータとしてありもしないのにそこにあるように扱われるのでしょうか」


なんて難しいことを司書の先生は言っていたが、確かに中学校でも本を読む人は少なかった。放課後になれば大体どこかに集まってスマートフォンを取り出しゲームを始めている。

ランキング等に固執しゲームを止められない人もちらほらと見受けられた。確かに便利なツールではあるが、手放せなくなるほど依存してしまうのはどうにかならないものだろうか。


若者の紙離れを嘆く若者も変な物だ。一階の探索を済ませた僕は小説が並べられているらしい二階へ向かう。

ちなみに二階には勉強用、読書用に机が用意されているらしい。飲食も可能だが、その際は図書館の本をその周辺に置いてはいけないとのことだ。


確かに上がってみると、もう一人の司書がいるカウンターの隣にそのスペースがある。気になった事と言えば、その机は余すことなく山積みの本で埋め尽くされ、勉強スペースとしての役割を果たせていない。


丁度その中から誰かが立ち上がり、一冊の本を抱え通路へ出てきた。制服からして女子生徒だ。彼女は辺りをきょろきょろと見回し、こちらを見て静止した。


「「あ」」


目が合った、僕がそう気づいた時には既にこちらへ向かって女子生徒が駆け出していた。こちらが身を隠す暇も無い。予想に反して速い足であっさりと彼女は僕の目の前に立ち、本と一緒に僕の手を握った。


「もしかして君、新入生!?」


弾んだ声。期待と興味と興奮に満ち溢れた声だ。


「そ、そうですけど」

「ねえねえ、どうしてここに来たの!? テスト期間以外はだーれも来ないところに入学式早々来るなんて本が好きなの!? 二階に上がってきたから小説を読みに来たのかな!? 私のお薦めは「雷鳴」っていう小説で―――」


ちょっと待て、なんだこの女子生徒(恐らく先輩であろう)は。突然エンカウントしたかと思えば一方的に話題を放り込んでくる上返答の隙すら与えてくれない。たまりかねた僕は一度大きく咳払いをした。


「あっ、ごめんなさい!」

「あうっ……」


女子生徒は一方的に話し続けていたことに気付いたのか謝りながら頭を下げた。しかしいかんせん距離が近い、頭を下げる前で顔が触れそうなくらい近付いているのだ。そんな状態で頭を下げられた故、鳩尾の辺りに加速によって威力の増した頭を叩きつけられることとなった。痛みに少しうずくまりながらも僕は最初の問いに答えることにした。


「ああっ! ほんとにごめんなさい!」

「い、いえ、僕は敷地内を散策しに、来たんです。ここに立ち寄ったのも、たまたまで、」

「ごめんね、痛い思いさせちゃって。立てる?」

「は、はい、立てます」


手を貸してもらい何とか立ち上がると、女子生徒に促され山のように積み重なる本の目の前に座った。横に女子生徒も腰掛ける。


「湿布とか要る?」

「気にしないでください、大したことはないですから」

「そっかあ、よかった。私ね、ここで司書さん以外に人を見たのが久しぶりで興奮しちゃったの。去年も2~3回くらいしか見てないし」

「てことは、やっぱり先輩でしたか」


そーだよ、と女子生徒は胸を張る。個人的には身体が比較的小さいのも相まって、先輩はとても愛らしく見える。手が頭に伸びかけたが、流石に失礼だと思い手を引っ込めた。


「ねえ君、これから暇な時間はあるかな?」


先輩が足をぶらつかせながら言う。


「一応、暇と言えば暇です」

「じゃあさ、突然だけど、『もしも』の話をしない?」


……驚いた、本当に突拍子もない話だ。


「もし、ですか?」

「そう、『もし明日世界が滅ぶとしたら』みたいな『もしも」』の事だよ。妄想、想像、if、数学とかで言うなら仮定。女子が好きそうな話題でしょ?」

「ええ、まあ」


先輩も女子なのですが、と考えつつ相槌を打つ。


「今日じゃなくてもいい、放課後ここに立ち寄ってくれるだけでいいの。その時君に時間があったなら、


  よかったら私と、そんな話をしようよ。君」


僕は先輩の顔を見る。断られるなんて思ってもいない、無邪気な笑顔。まあ、断る理由も特にない。勉強しにくるついでに話すくらいなら問題ないだろう。


「……分かりました。毎日はできませんがなるべく立ち寄ることにします」

「本当!? やったあ!」


喜ぶ先輩と同時に、ポケットで僕のスマートフォンが震える。「すいません」と断りを入れてメールを見ると、妹からだった。


件名などは無く、「早くご飯支度して\(*`Д´*)/」とだけの短い文章。


「あの、先輩。家で妹が待っているので、今日は帰ります」

「うーん、じゃあお礼に良いことを君に教えてしんぜよう! 良ーく聞くのだ!」


尊大な声で言い先輩は僕に向かって身体を寄せた。肩と肩が触れ、先輩の口元が耳に近付いて。


「明日の放課後には気を付けて」

「放課後……?」

「ふふっ、どうなるかは明日になってからのお楽しみだよ。帰り道は気を付けてね」


よく分からない良いことを教えられ、困惑しながらも僕は先輩にお辞儀をして図書館を出た。

外は茜に染まり、闇と朱で彩られた建物が光の陰影を生み出して帰り道を形作る。もう学校に人の姿はなく、職員室だけが明るかった。


「退屈することは、なさそうかな」


冷蔵庫には何が残っていたっけ。メールを送って一応スーパーに寄っておこう。財布を取り出しながら校門を抜けた時。


「待ってるよ。後輩君」

「……先輩?」


先輩の声が聞こえた気がして後ろを振り向くが、影も形も見当たらない。気のせいだろうか?  

もう一度視線を巡らせて誰もいないことを確認して僕は近所のスーパーへと向かった。


__


「……待ってるよ、後輩君。今日と同じ、図書館の中で」


柱の影から出て、新しく入学してきた男子生徒の背を見送りながら私はそう言った。


これから始まる、今までとは違う新学期に期待を抱きながら。

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