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7 リアル王子とご対面でして。

ようやく書き上げられた……。

さていよいよやってきてしまいました誕生会。



ご覧ください、溢れんばかりの人人人。女性の皆さんはかなーり頭を盛ってますねー。フリルだらけのドレスには気合いが見られます。一体何を狙っているのでしょうか、目付きが肉食動物のそれですよ? 男性の皆さんはちょーっと怯えていますねー、知り合い同士で固まっている感じです。おっと、イケメンもちらほら。



……ああそうだよ現実逃避だよ! あのなかに入って紹介されるなんて…おまけにそのあと挨拶回りしなきゃならないし、ハァ……幻の胃痛がっ!



「かおり、そろそろ行くけどダメだと思ったら抜けるんだよ? かおりは身体が弱いし…」

「大丈夫だよお父様。無理はしないし…それよりダンスが怖いんだけどな」



オレはどうやらダンスを踊らされるらしい。お相手は秀斗だからまだマシなんだがさ…不安だ不安すぎる!!

ダンスなんて踊ったことねーんだよぉ…病弱もやしっこお嬢様だったからまともに練習してなかった、というか出来なかった。習い始めたのは二ヶ月前。ないわー。



「よし行こう!」

「はい。お兄様、エスコートをお願いします」

「喜んで」



いよいよ会場に出ると視線が集まる集まる。やだもうおうちに帰りたい。…ここがお家でした。

秀斗は緊張でガチガチのオレを安心させるようにゆっくりと歩いてくれる。中央に到着したとき父上がにこやかに微笑んで声を張り上げた。



「皆さまお待たせ致しました。紹介します、我が涼宮家の一人娘のかおりです」

「…涼宮香、です。以後お見知り置きを」



ドレスの裾を摘まんで小さく頭を下げる。髪を切ったオレのために急遽発注されたドレスは淡い水色。フリルは少なめで大人っぽい雰囲気を纏っている。間に合ってよかった、前のドレスはこてっこてのお姫様ドレスだったからショートヘアーに全然似合わなかったんだよ。

案の定ざわめきが起こる。



「あれが香様?」「薫様にそっくりですわね…」「令嬢だというのに短髪とは…」「礼儀はいいがね」「少しキツそうな方ね」「病弱だと聞いているのだが…」



るせえな。ほっとけや。特に三人目、ショートヘアーで何が悪いよ? ドリルより何十倍もいいだろうが。

笑顔がひきつる。思わず力をこめたその手に秀斗は握り返してくれる。


嫌なざわめきを遮るようにまもなく音楽が流れ始めて、オレは秀斗に身体を預けてステップを踏む。さっすが、涼宮香の運動能力の高さには目を見張るね。なかなか巧く踊れてんじゃない?



一曲が終わった頃にはオレが現れる前の雰囲気に戻っていて安堵する。ここからは挨拶回りという名の婚約者候補とのご対面タイムだな。

父上の傍に寄ると賛辞の言葉を寄せられた。



「よく踊れたねかおり。たった二週間で凄いじゃないか。お客様も関心していたよ」

「いえいえ。褒められるほどの腕前ではありません。お兄様のエスコートがお上手だったのですよ」

「そうだね、秀斗も巧かった。でもかおりの努力の成果もあるさ。そういえば、昨日から何か練習していただろう?」



え、あれバレてたの!? 昨日から『いかに上手く婚約者候補とその親をあしらい、婚約せずに済ませるか』って必死にシュミレーションしてたこと。

背中に冷や汗が…父上、なかなかに鋭い。



「ご存知だったのですね…」

「初めてのパーティーでいきなりのお披露目だから完璧を目指したいのは分からなくもない話だけど、ダンスの練習も身体を気遣ってほどほどにしなさい」



違った。鋭いどころかかすってもなかった。



雑談を交わして緊張をほぐす。奮い立てオレの足! 負けるなオレのメンタル! 強張るなオレの表情筋!

父上が連れていったのは一人の美男子の前。どこかで見たその顔は、オレが前世を思い出すきっかけになった第二王子。



「ご機嫌麗しゅう、殿下。この度は娘の誕生祝いにお越しいただき光栄の至りでございます」

「いえこちらこそ、お招きいただきありがとうございます」



礼儀正しく返答する第二王子。あれ? 名前何だっけ。記録ノート兼日記を見ないと分からん。取り敢えず殿下と呼んでおこう。



「涼宮香様、本日はおめでとうございます」

「ありがとうございます、殿下。お久しぶりにございます」

「殿下だなんて止めてください。是非玲哉とお呼びください」

「…名前で呼ばせていただくなどもったいなきお言葉。大変に名誉ではございますが遠慮させていただきたいです」



フレンドリーだな。ってか玲哉って名前だったね。分かってよかったー。

ところがそう言った直後、殿下は美しい顔に冷笑を浮かべた。声も幾分か冷えている。



「そうですか。残念です。………………コイツも同じか…」

「はい?」

「何でもありません。では失礼します」



呆気にとられるオレに構わず、父上は玲哉の後を追っていった。殿下は怒ったのか…? 解せぬ。



にしても困った。父上がいなくなったのは構わないんだけどこのあとどうすればいいんだ? 秀斗の奴は他のご令嬢相手に忙しそうだし。



あー部屋に戻りたい。

誰かが寄って来る前に逃げよ。



息抜きに庭園に出る。庭に咲く白薔薇に月光が当たって幻想的な風景になっている。うちの庭師さんはハイスペックだしな。土魔法、水魔法、風魔法、光魔法と各魔法を使える庭師が四人いるんだよね。おかげでこの庭園は貴族の皆さんに大人気なんだって。



とことこと庭の隅にある木の方へ行く。いつもオレが走るときのスタート位置だ。高さはわりかし低めだから登れるし落ちても大して痛くないため、よく厳しいマナーレッスンの休憩時間に太い枝の上で休んでいる。見つかりにくいし今登っても平気だろ。



浅いヒールの靴を揃えて幹のこぶに足をかける。するする登る様子を前世ではコザルとからかわれたもんだ。いや、山猿だったか。



木に寄りかかり空を眺める。月…この世界に月はふたつある。赤い月と青い月で、赤い月だけが見える夜は不吉だと言われているそうだ。今日は両方昇っている上に満月。これはいいことあるのかね?



ボーッとしていて、オレは誰かが来ていることに気づけなかった。



「…そこに誰がいる」

「!?」

「誰かいるんだろう?」



息を呑み恐る恐る視線を向けると、先程不機嫌になってどこかへ行ったはずの殿下がいた。



「…あぁ殿下か」

「僕を知っているのか」

「……。知ってるも何も…この国の王族くらい、全国民が知らないわけがないだろ」



殿下は涼宮香だと分かっていないっぽい。思わず本来の喋り方をしてしまったけどまあいいか。気づいてないし。



「第二王子がこんなところにいて駄目じゃない?」

「いい…僕は婚約者候補を視察しにきた。その候補がいなくなったから」

「……そ、そう」



はははははは……全ク、ドコニ行ッタノカナァ不思議ダナァ(棒)。



「お前は誰だ?」

「……ちょーっと言えない」

「なぜ?」

「……人にはそれぞれ、色々な事情があるのだよ。詮索はほどほどにしないと円滑な人間関係は築けないのさ」

「そういうものか?」

「そういうものだよ」



名前を教えると嫌な予感がするから誤魔化すために即席ででっち上げる。納得してくれ頼むから。



「でもそれなら、僕はお前を何て呼べばいい」

「呼ぶ必要がないだろ」

「僕はお前と話したい」

「それこそ"なぜ"だって」

「人と話したいと思うのに理由はいるのか?」

「…いるんじゃない?」

「僕にはちゃんと理由もある」



真剣な顔でオレを見上げる殿下。



「ふぅーん」

「…聞かないのか」

「やだよめんどくさい」

「……つまらないからだ」

「ん?」

「大抵の人間は僕が第二王子だと知ると同じ態度をとる。変に敬ってよそよそしく接してくる。王家と繋がりをもとうとする連中ばかり寄って来るようになる。それが…つまらない。僕は対等に会話できる人間が欲しい」



俯く殿下はどこか悲壮感を漂わせている。なるほどなるほど。ふむ、つまりは…



「友達が欲しいのか」

「…そうだ。気軽に話せるような、立場を気にせず心から笑いかけられるような友達が欲しい。……お前は僕に敬語も遣わないし王子だと知っているのに『理由を聞くのが面倒』とまで言いきった。だから話してみたい」

「同じようなやついると思うよ? ほら例えば…宰相さんの息子とか、他の国の王子もそうだろ。今はいなくてもいつかできるんじゃないかな」



このゲームの攻略キャラを挙げてみる。同学年での入学だし同い年だと思うんだけど…。



「お前がいい。今のところはお前しかいない」

「…オレがお前を殺しにきた暗殺者だったらどうする? 殺されることになるけど」

「お前はそんなやつではない。暗殺者なら話しかけた時点で殺されているはずだから」

「……賢いことで」

「それでお前は何と言う?」

「……本名は言えない。言ったら確実に面倒なことになるからな。まあ…コウとでも呼べば?」

「…コウ。分かった。話してくれるのか?」

「今だけなー。特別だからありがたく思いたまえよ?」



空気が動いて殿下…玲哉が笑ったのが伝わる。



「そんな口を利くのはコウが初めてだ」

「王子さんとしては不快かな?」

「いいや。寧ろ嬉しく感じる」

「太っ腹だねぇ。王族ってもっと堅苦しいもんだと思っていたけど違うのか。てか、王子さん。向こうが騒がしいみたいだよ。戻ったほうがいいんじゃない?」

「……せっかく話せたのに」



むくれる玲哉。いやマジで戻らんと警備隊が動き出しているんですが。



「諦めなって。オレもそろそろ連れ戻される頃だろうからね。どこかで会うこともあるだろうさ」

「会場にいるのか? もしかしてもう会った人の誰かなのか?」

「ひみつ。…そんなに正体が知りたいわけ?」

「ダメか?」

「ダメ。君はさ、仮にオレが女だったとしたら婚約しようとしないか? 男だったとしたら側近に置いたりしないか?」

「するかもしれない」



をいをい。素直すぎないかこの王子。



「じゃあ教えない。会いたいならここに来れば会えるかもしれないと言っておこう」

「本当だな?」

「たぶんね。変装して会ってやろう」

「…そうか。約束だぞ」

「ヘイヘイ、了解ですよー」



手をひらひら振る。玲哉は名残惜しそうに戻って行った。



さってとオレも戻るとしますか。

あー。早くお開きにならないかなー。









恐らくこれから十日間は投稿できないのですが、これからもどうぞよろしくお願いします。

感想、誤字脱字報告がありましたらどうぞご遠慮なく。

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