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厄介払いされた寒村で幼馴染と武器庫を育てたら、手柄を狙う本家が手出しできない近代要塞都市になっていた  作者: わわわ


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第16話 大鬼の骨と試作の弓

五十歩先の枯れ木から、白い煙が細く立ち上っていた。

太い幹を鋼鉄のボルトが貫き、裏側に大きな穴を穿っている。

肩に残る反動はごくわずかだった。連動式クロスボウの頑丈な銃床が、射出の衝撃を綺麗に逃がしている。


「おいおい……本当に大木に穴を開けやがったぞ」


後ろに立つボルドが、太い顎髭を震わせて呟いた。

土塁の盛り土をしていた村人たちも、手を止めて枯れ木を見つめている。


「クラウス、すごい音……本当に届いたんだね」


土手の下から、シェリーが小走りで上がってきた。

抱えていた作業用の縄を抱え直し、目を丸くして枯れ木を見ている。


「ああ、問題なく作動している」


「遠くから狙えるのは心強いね。……一人で飛び込まないで済むし」


シェリーは小さく息を吐いて言った。

俺は頷き、クロスボウを意識の奥へ戻した。


続けて、武器庫の第2階層からもう一つの武器を手繰り寄せる。

現れたのは、黒光りする一張りの弓だった。

鋼鉄の狩猟弓。

薄い鋼の板を幾重にも重ね合わせた剛弓だ。

意識を集中させると、魔力を吸い上げて指の間に鋼鉄の矢が現れた。

クロスボウと同じく、矢の補給に困ることはない。


矢をつがえ、弦を引く。

だが、指先に凄まじい抵抗がかかった。

重ね合わされた鋼板の反発力は、木製の弓の反発力とは比べものにならないほど重かった。

腕に力を込め、ようやく半分ほど弦が後退した。


「そっちは普通の弓か。だが、とんでもねえ剛弓じゃな」


ボルドが弓のしなりを凝視して言った。


「並の男じゃ弦を引くことすらできんわい。毎日引いてたら腕を痛めちまうぞ」


「ああ、その通りだな」


弦を戻し、矢と弓を武器庫へ戻した。

凄まじい威力だが、これを扱うには強靭な筋力と熟練の技術が要る。

自警団や村人がすぐに使える代物ではない。


俺は再び連動式クロスボウを呼び出した。


「ボルドさん、これを受け取ってみてくれ」


「ん? ワシにか?」


ボルドは怪訝そうに眉をひそめつつ、太い両手で銃床を受け取った。

手元を離れても、クロスボウは消えない。

溝には鋼鉄ボルトが装填されたままだ。

俺が意識を向けている限り、実体と魔力供給は維持されている。


「ずっしり重いが、構えやすい形をしとるな」


ボルドが肩に当て、木立へ狙いをつける。

俺はあえて視線を逸らし、足元の土塁の盛り土へ意識を切り替えた。


カチリ、と小さな音が響いた。


「ぬ……? おい坊主、矢が消えたぞ」


ボルドの声に顔を上げる。

溝のボルトが煙のように消え去っていた。


「ワイヤーを引こうとしても、びくとも動かんぞ」


俺が再びクロスボウへ意識を向けると、カシャリと金属音が鳴り、瞬時にボルトが再生成された。


「……なるほどな」


「どういうことじゃ?」


「この武器の自動装填と矢の生成は、俺の魔力と意識が繋がっている間しか働かない。俺が別のことに集中したり意識を外したりすると、機構そのものが止まる」


「ということは……」


シェリーが眉を寄せた。


「クラウス以外の人は使えないってこと?」


「ああ。実戦で複数の人間が連射することはできない」


クロスボウを受け取り、消去した。


一人で防壁全体の死角を埋めることはできない。

冬になれば、飢えた魔獣が群れをなして複数の境界から押し寄せてくる。

防壁を守るには、ダンたち自警団や村人自身が遠距離から戦える武器が必要だ。


「普通の弓は何ヶ月も訓練がいる。だが、クロスボウなら引き金を引くだけで真っ直ぐ飛ぶ。村人でもすぐに戦力になれる」


「村人用のクロスボウか」


ボルドは太い腕を組み、渋い顔をした。


「行商人のロバートが地金を運んでくるまで、金具を叩く鉄すら足りん。全員分のクロスボウを鉄で作るなんて無理じゃぞ」


「地金がないなら、別の素材を使えばいい」


俺は土手脇の作業場へ視線を向けた。

今朝からボルドが削っていた大鬼の骨が山積みになっている。

土塁の盛り土を固定する杭にするため、先を尖らせていた素材だ。


「これを使う」


「大鬼の骨か」


「三メートルを超える巨躯を支えていた骨だ。丸太棍棒を振るっても折れなかった。骨特有の粘りと、強い衝撃を受け止める硬さがある。杭にする分を回して、まずは弓の幹に転用しよう。木と骨を組み合わせれば、鉄を使わずに作れるはずだ」


「よし、乗ったわい! 鉄がねえなら骨を削るまでじゃ!」


ボルドが作業場へ歩き、ノコギリとタガネを掴み取った。


俺は平らな木板を拾い、炭の棒で図面を描き始めた。

魔力自動装填には頼らない。

村人の腕力でも素早く弦を引ける構造が必要だった。


「まず、弓の幹には大鬼の肋骨を使う。左右が均等にしなるよう削り、先端に大鬼の腱を撚った弦を張る」


「腱か、引きちぎれる心配はねえな」


「弦を引くために、銃床の下にテコとなる木製レバーを取り付ける。レバーを倒して戻すテコの力なら、子供や老人でも強い弦を引けるはずだ」


「テコの原理じゃな。腕力がいらん!」


「引いた弦は、大腿骨から削り出した回転爪で受ける。引き金を引くと爪が半回転して弦を放す。部品を減らし、摩耗に強い骨で組む」


ボルドは図面を凝視し、太い指でなぞった。


「鉄のバネも使わずに、木と骨だけで仕組みが完成しとる。これならワシの手で削り出せるぞ!」


「シェリー、広場の解体跡から大鬼の腱を集めてきてくれないか」


「分かった、すぐ持ってくるね!」


シェリーが広場へ走る。


「よし、始めるぞ坊主!」


ボルドが大腿骨を固定し、タガネと金槌を振るい始めた。

カン、カン、と硬い骨を削る乾いた音が響く。

白い粉が舞い、骨が滑らかな円柱と爪の形へ削り出されていく。


俺も乾燥した樫の木材を手に取り、ナイフで銃床を削り出した。

肩に当てる窪み、テコレバーを収める溝、回転爪を埋め込む穴。

無駄のない形状を木肌に刻む。


「ボルドさん、回転爪の軸穴は少し遊びを持たせてくれ。湿気で木が膨らんでも動くようにしたい」


「心得とるわい。溝も深めにしておくぞ」


息を切らせたシェリーが戻り、水で洗って泥を落とした腱を器用に裂いて弦を撚り始めた。


骨を削る金属音と、木を削る音、腱が擦れ合う音が重なり合う。

日差しが高くなり、朝の冷気が薄らいでいく。


「よし……形になったぞ!」


ボルドが腕で額の汗を拭い、声を上げた。


作業台の上に、削り出した部品を仮組みした骨組みが置かれていた。

銃床は硬い樫の木。

先端には大鬼の肋骨が左右へ力強く広がり、しなやかな弓幹となっている。

中央の機関部には、大腿骨から削り出された白い回転爪が狂いなく収まっていた。


大鬼の骨を削る作業場に、試作クロスボウの骨組みが現れていた。


鉄の地金は使われていない。

だが、荒削りな骨と木を組み合わせたその姿は、頑丈で狂いのない実用の形をしていた。


手にとると、ずしりとした手応えが伝わってくる。

自分一人の力に頼るのではなく、村人全員でこの村を守り抜くための、最初の一歩がここにあった。


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