最終話 新たな冒険へ
風が海の香りを運び、穏やかな波が船の側面を静かに打ち付ける。
ミサキは甲板に立ち、広大な海を眺めながら深く息を吸った。
「……あれから、もう20年か」
ぽつりと呟くと、隣にいたリーナが小さく微笑んだ。
「早いものですね……」
「本当にな……」
――ミサキがこの世界にやってきて早20年。
ミサキは冒険の旅を終えた後、魔王ラプラスのもとで世界調査員となった。
世界の各地を巡り、各国の文化や環境を調査し、時には未踏の地を開拓する。
元々、冒険好きな彼女にとっては、冒険の延長のような仕事だった。
リーナもまた冒険の旅を終えた後、ミサキと別れ、故郷であるサーショ村に戻り、その腕をエルメスに買われてセントル騎士団の一員となった。
戦士としての強さだけではなく、治癒魔法の使い手としても評価され、今では騎士団の治療師として多くの戦士を支えている。
エルメスは騎士団長に昇進し、セントル騎士団をさらに強化。
リーナの加入もあり、セントル騎士団は歴代最強と称されるほどになった。
ジャンゴは砂漠の国エジェトで立派な墓守となった。
今や墓荒らしや盗賊たちから「地獄の番人」と恐れられる存在になっている。
アクアは海底都市アトラントで、親友マリンとともにツアーガイドを続けている。
今や彼女の案内は観光客に大人気で、アトラントの名物になっていた。
ツバキは和の国ヤマトで、 大将軍となったクロガネの右腕として仕えていた。
今では「ヤマトの剣鬼」と称されるほどの実力者になっている。
そして――
ラプラスは世界各地を巡り、魔族が普通に暮らせる社会を作るため尽力した。
かつては恐れられ、迫害されていた魔族たちも、少しづつ受け入れられるようになり、だんだんと世界は変わり始めていた。
――そして今、ミサキとリーナは船で地下帝国パンデラへと向かっていた。
「師匠から『大事な用事がある』って言われたけれど、何でしょうね?」
リーナが少し首を傾げる。
「さぁ……リーナも呼ばれるなんて初めてだな」
ミサキは肩をすくめた。
「邪神が復活したー!とか言われなければいいけど」
「怖いこと言わないでくださいよ……」
リーナは苦笑しながらも、どこか自信に満ちた表情で続ける。
「でも、私たちならもう問題ないですよね!」
ミサキは彼女の言葉に頷き、拳を軽く突き合わせた。
「――ああ!」
新たな冒険の扉が、今、開かれようとしていた。
***
地下帝国パンデラ。
いや、もはや地上にまで進出した巨大都市となったその姿は、ミサキの知る現代日本すら凌駕していた。
天空を縫うように飛行船が行き交い、地上では魔法と科学の融合したエネルギー自動車が走る。
高層ビルとマンションが立ち並び、空中には立体魔法映像が映し出されていた。
リーナは目の前の光景に圧倒されながら呟く。
「すごいですね……こんなに発展しているなんて……」
「そういえばリーナはここに来るのは10数年ぶりだっけ」
この10数年間で、パンデラは地下の都市から地上にまでその影響力を広げ、更に発展を遂げていた。
魔族と人間の垣根が取り払われ、ここに移住してくる人も少なくない。
10数年前は人もまばらだったこの都市も、今となっては大勢の人でにぎわっている。
そんな都市の中心にそびえ立つ最も高いビル、二人はその最上階へと向かった。
ドアが開くと、そこにはラプラスが立っていた。
「来たか」
「師匠!用事って何ですか?」
「まずは、これを見てくれ」
ラプラスが指差した先には、一枚の扉があった。
それは、見覚えのあるものだった。
「この扉って……天界で見たのと同じだ」
ミサキは目を見開く。
リーナも息をのむ。
「一体どこに繋がっているんですか?」
ミサキが問いかけると、ラプラスはゆっくりと告げた。
「それはだ……ミサキ、お前の国、日本だ」
「――日本!?」
ミサキは驚きのあまり、一歩後ずさる。
「どうして!?私の世界には繋げられないはずじゃ……!」
かつてラプラスと初めて会った時、元の世界に戻る術はないと突きつけられた事は、今でも強く覚えている。
「お前の世界に繋げられなかったのは、そのゲートの情報が全く無かったからだ。
だが、俺は一度お前の世界にゲートを繋げている」
「――そうか!」
ミサキはすぐに理解した。
邪神ベルゼゴルとの戦いの後、ミサキがこの世界に戻る際、一度ラプラスは日本とゲートを繋いでいる。
あの瞬間にラプラスがミサキの世界の空間情報を解析し、それを元に新たなゲートを開いたのだ。
「それで、こうしてゲートを繋げることができた」
ラプラスは誇らしげに笑う。
「これでもう、いつでも行き来は可能だ」
「この扉を通れば、いつでも帰ることができる……!」
夢のような話だった。
あの時は、日本に戻ることはもう二度とできないと思っていた。
それが、今こうして、好きな時に行って、帰ってくることができる。
「――そこでだ」
ラプラスは改めてミサキを見据えた。
「お前たちを呼んだのは、他でもない。俺にこの世界を案内してほしい」
「……えっ?」
予想外の言葉に、ミサキは目を瞬かせた。
「師匠も行くんですか?」
「もちろんだ。俺が行かなくて誰が行く」
「な、なるほど……」
異世界の魔王が、現代日本に降り立つ――
想像するだけで、なんだか大変なことになりそうだ。
すると、リーナが少し困惑した顔で口を開く。
「あの……私はどうして呼ばれたんですか?私はミサキの故郷の事、何も知りませんよ?」
「何」
ラプラスはにやりと笑い、こう言った。
「その方がミサキも嬉しいだろうと思ってな」
「……!」
ミサキの心が、一瞬で温かくなるのを感じた。
「どうした?嬉しくないのか?」
「……嬉しいに決まってますよ!!」
ミサキは思わず叫んでいた。
「私の故郷に、リーナを連れて行けるなんて……!」
リーナも瞳を輝かせる。
「私も嬉しいです!ミサキの故郷に行けるだなんて……!」
ラプラスは満足げに頷いた。
「そうか、なら決まりだな。行くぞ!新しい世界に!」
「はい!!」
ミサキは扉に手を伸ばし、一歩を踏み出す。
リーナも、ラプラスも、それに続いた。
――こうして、ミサキたちは新たな冒険へと踏み出したのだった。
ここまで読んでくださって 本当にありがとうございました
これにて未知なる世界の歩き方 完結になります
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