第158話 帰って来た故郷
「ん……」
ゆっくりと意識が浮上し、ミサキは薄く目を開けた。
目の前に広がるのは、青々と生い茂る木々の隙間からこぼれる日差し。
心地よい風が頬をなで、鳥のさえずりがどこか遠くで聞こえる。
「ここは……?」
ぼんやりとした頭で起き上がる。
ふと地面に手をつくと、湿った土の感触が指先に伝わる。
確かに、自分はベルゼゴルを倒したはずだった。
光に包まれ、仲間たちが勝利の喜びに満ちた表情を浮かべていた。
その時、突然、ベルゼゴルが消滅した場所に空間の裂け目が生じた。
次の瞬間には、強烈な引力に飲み込まれ……
「そうか……私は、あのまま……」
辺りを見渡す。
そこは深い森の中だった。
柔らかな木漏れ日が地面に落ち、風が枝葉を揺らしている。
どこか懐かしさを感じる光景。
しかし、それがどこなのかはっきりしない。
「どこだ、ここ……?」
ミサキは立ち上がり、ゆっくりと歩き出した。
木々の間を縫うように進みながら、違和感を覚える。
「なんだろう……この感じ……」
見たことがある気がする。
でも、思い出せない。
ただ、妙な安心感があった。
知らないはずなのに、怖くない。
むしろ懐かしささえ感じる。
森の中を進むうちに、視界が開けてきた。
そして、木々の切れ間から見えたのは、舗装された道路。
「……えっ?」
ミサキは足を止め、目を凝らした。
そこには見慣れたものがあった。
自動販売機、ベンチ、木造の休憩所。
パーキングエリアだった。
「嘘……だろ……?」
思わず口をついて出た言葉。
確かに見覚えがある。
この場所は、何度も訪れたことがある。
それに、思い出した。
異世界に行く直前、ここに立ち寄った。
登山道の入り口にある、このパーキングエリアに。
「そんな……」
混乱する頭を整理しようとする。
本当に戻ってきたのか?
それともまた幻術か?
ミサキはすぐに幻術解きの方法を試した。
「意識を集中して……」
これは夢だ、幻だ……だから、消えろ。
もし幻なら、身体が水中に沈むような感覚に襲われるはず。
しかし……何も変わらない。
目の前の景色は消えないし、空気の匂いもそのまま。
「まさか、本物……?」
辺りを見回す。
見上げれば、電線が走る空。
道路の脇には、案内板が立っている。
すべてが、"いつもの世界" だった。
「私……帰ってきた……?」
現実感が、じわじわと胸を満たしていく。
異世界ではなく、元の世界に。
見慣れた道、電柱、コンビニ、通学路。
異世界での街並みとは異なる、無機質なアスファルトの感触。
住宅街の静けさ、行き交う人々の服装、電線が走る空、遠くに見える山々。
どれも覚えがある。
「本当に……帰ってきたんだ……?」
泣きたくなるぐらいの懐かしい風景。
ああ……本当に帰って来たんだ……と。
しかし
「……リーナたちは、どうしてるんだろう……?」
ふと、胸が締め付けられる。
無事だろうか。
自分が消えた後、彼女たちはどうなったのか?
あの世界は、もう遠くなってしまったのか?
考えても答えは出ない。
けれど、今はとにかく、帰らなければならなかった。
***
やがて、住宅街へと足を踏み入れる。
見覚えのある家が見えてきた。
「ついに……帰ってきた……」
懐かしい家。
何も変わっていない。
心臓が高鳴る。
震える手で、ドアノブに触れる。
ガチャリ。
ゆっくりと扉を開ける。
その瞬間。
「……!?」
家の奥から、足音が聞こえた。
急いで駆け寄ってくるような音。
そして、現れたのはミサキの母親だった。
「シュン……!?シュンなの!?」
驚愕した表情。
目を大きく見開き、信じられないものを見るような顔。
「お母さん……」
ミサキがそう言った瞬間、母親が駆け寄り、思わずミサキの頬を両手で包み込む。
まるで幽霊を見るような、でも信じたくて仕方がないような、そんな表情。
「一体どこに行ってたのよ……!?」
母親の声は、震えていた。
「あなた6年も行方不明だったのよ!?」
「……」
6年、それはミサキが異世界に居た時間と同じだった。
「警察にも届け出て……探しても探しても、どこにもいなくて……!」
「お母さん……」
母親は言葉を詰まらせ、ぎゅっとミサキを抱きしめた。
「とにかく、無事でよかった……!」
母親の温もりが、確かに現実のものだった。
ミサキの胸が、ぎゅっと締め付けられる。
「ごめんね、お母さん……」
「もう……いいのよ……」
母の言葉が胸にしみた。
帰ってきたのだ。
本当に。
***
ミサキはゆっくりと湯舟に浸かる。
じわっと全身が温まる感覚が心地よい。
久しぶりの自宅の風呂。
温かい湯が、戦いの疲れをゆっくりと癒していく。
湯気がふわりと広がる中、じわじわと実感が押し寄せる。
「本当に帰ってきたんだな……」
改めて考えると、現実味が無さすぎて、異世界に行ったことがもはや夢とすら感じる。
指先に意識を集中させると、炎が付いた。
魔法が使える、夢ではない、異世界の事は全て現実だ。
そうなると
「リーナ……みんな……」
仲間たちはどうしているのだろう?
無事だろうか?
私が消えたあと、異世界はどうなったんだろう?
本当に、もう会えないのか?
湯船に沈みながら、考える。
「会いたいな……」
その時だった。
『ミサキ!聞こえますか!?』
突然、頭の中に響く声。
「……え?」
聞き間違いじゃない。
『ミサキ!私!リーナ!聞こえたら返事して!』
リーナの声が聞こえて来たのだった。
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