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61話 姫山演舞 開演

 午後二時。姫山中央部の大広間。

 地響きにも近い足音が止まり、二つの勢力が上下に向き合う。

 上の陣営は元神村、半落ちの狩人一団。

 下の陣営は姫神村、狩人協会精鋭部隊。

 季節は春。風景は林。

 気候による有利不利は無く、対等なフィールドでの対面となった。


「よう、未来」


 狩人協会の狩人達の一番前に居る、代表狩人。

 姫山の守人、姫神未来。


「一狼、久しぶりだね」


 桜柄の浴衣に新しい装飾銃。今日は完全装備だ。


「少し逞しくなった?」

「姫山を離れて一週間くらいしか経ってないのに、逞しくなる訳無いだろ」

「それもそうだね」


 俺の顔を見てフフッと笑う未来。


「それにしても、まさかこんな事になるなんて思って無かったよ」

「俺だって、こんな事をしたかった訳じゃ無い」

「だよね。果たし状を持って来た先生、目がキラキラして居たし」


 未来の笑顔に合わせて一緒に笑う。

 久しぶりの幼馴染との再会に、俺の表情が緩んでしまう。

 ああ、何と和やかな状況だろうか。


「……所で未来」


 そんな中、俺は未来の後ろをちらりと見る。


「幾らなんても、それは無いんじゃないだろうか」


 未来の後ろに居る狩人達。

 ざっと見て、三十人位だろうか。

 その全員が、もか専の上位で見た事のある狩人だった。


「俺は狩人になって三ヶ月だぞ? どう考えたって戦力過多だろ」

「それは、こっちのセリフだと思うんだけどね……」


 未来が俺の後ろに居る狩人達を見る。


「狩人になって三か月の人間が、半落ちの狩人七人引き連れて戻って来るなんて、普通はありえないんだけど」

「ここは霊山だからな。人間界の常識は通用しないさ」

「本当の意味で常識が通用しないのは、一狼だけだと思うんだけど」


 ふむ、それは自分でも若干感じては居ます。

 しかし、成り行きでこうなってしまったんだから、仕方が無いじゃ無いか。


「それで、未来が先頭に居るって事は、未来がそっちの大将って事で良いのか?」

「うん、不本意だけどね」

「不本意? 妥当だろ。部隊は姫山で、未来が姫山の守人なんだから」

「それは、そうなんだけどさ……」


 顔を引きつらせて何かを訴えて来る未来。

 まあ、言わんとしたい事は分かる。

 未来の後ろには、明らかに俺に所縁のある狩人が何人か居るからな。


「ああ……もう嫌な予感しかしない」

「それは俺のセリフだろ」

「何で一狼はいつも厄介事を抱えて来るのかなあ」

「俺のせいじゃ無いだろ」

「一狼のせいだよ!!」


 未来が頬を膨らませる。


「私は必死に一狼の無実を証明しようと頑張ってたのに! 一狼の周りの人達のせいで全部がパア! もう! 兵子さんは本当に楽しそうだし! 小夜子さんも後ろの方でワクワクしてるし!!」

「あの人達は何だかんだで殺りたがりだからな」

「他の人達だって、頼んで居ないのに勝手に集まって来たんだから!」

「いやあ、未来の人望って凄いんだなあ」

「一狼の悪評のせいでしょ!!」


 感情のままに叫び続ける未来。

 しかし。


「……全く」


 直ぐにため息を吐き、やれやれと微笑んだ。


「まさかこんな事になるなんて、思わなかったよ」

「それは俺も同じだ」

「正直に言うとさ、狩人協会の人達、喜んでたよ。新人が好き勝手暴れたおかげで、多くの狩人の訓練が出来るって」

「まあ、上位の狩人達からすれば、半落ちの人達はこの上ない好敵手だからな」

「全く……本当に……」


 未来がクスクスと声を出して笑い始める。

 それに合わせて、辺りに漂っていた緊張が解け始めた。


「言っておくけど、私達は手加減しないよ。と言うか、出来ない」

「残念だけど、それは俺達も同じだよ」


 今ここに居る集団は、俺と未来が狙って集めた狩人達では無い。

 合戦と聞いて暴れたかっただけの暴徒達だ。

 恐らく、戦が始まったら勝手に暴れ回るだろう。


「それじゃあ、ここからお互いに少し引いた後、姫山の麓から発光弾が上がるから、それが開始の合図と言う事で良いね?」

「分かった。それで」


 未来が見詰める中、黙って背中を向ける。

 未来も俺に声を掛けずに、狩人達と下がって行く。

 どうやら、和やかに会話が出来たのは、最初だけだった様だ。


「ふむ、顔見知りと戦うと言うのは、少しばつが悪いな」


 俺の横を歩く兵子がため息混じりに言う。


「ワシは小夜子と戦って見たかったガ」


 反対側を歩く鷹子が嬉しそうに笑う。

 他の半落ちの狩人達も、上位の狩人達と何らかの関係を持って居たようで、それぞれが嬉しそうに相手の事を語って居た。


(やれやれ……)


 皆の前を歩きながら、小さくため息を吐く。

 これはもう、俺の家族を取り戻す戦いだと言う事を忘れて居るな。

 だけど、それならそれで良い。

 どうせ戦いは乱戦になるだろうから、その隙に俺が未来を倒してしまえば、それで終わりだ。


「そう簡単にはいかんと思うぞ?」


 心を読んだかのようにそう言ったのは、兵子。


「一狼君と関りの少ない上位狩人は半落ち達を狙うと思うが、一狼君に因縁のある人間達は、絶対に一狼君だけを狙うだろうからな」

「……ですよねえ」


 俺に因縁のある面子を頭に思い描き、苦悩する。

 俺も昔よりは強くなったと思うが、あの面子には絶対に勝てる気がしないぞ?


「兵子さん。正直な所、俺達の勝率ってどれ位ありますかね?」

「そうだな。一狼君の耐久力次第と言った所か」

「成程、結局いつも通りか」


 もののけの狩人になった時からずっとなのだが、どうやら俺の狩り方は、『防御』を基本にした受け身の戦い方が合って居る様だ。

 しかし、俺としては、その戦い方は『狩り』としては優れて居ないと感じている。

 そんな狩り方をしていれば、いつか自分の身が持たなくなってしまうからだ。


(だけど、今はそれしか出来ない……)


 元より自分より強い相手を狩る事が多いのだ。多少の無理をしなくては、狩り自体が成功するはずも無い。

 リスクは承知の上。それでも、守りたい者が居る。

 だからこそ、俺は出来る事をする。


「さて、所定の位置に到着しましたね」


 元神村寄りの大広間に半落ちを含む十人の狩人が集まる。

 その中の三人が、俺達姫山の亡霊だ。


「一狼君、我々の作戦はどうする?」

「え? 俺が決めて良いんですか?」

「総大将だからな。どうせ皆聞かないと思うが一応決めておこう」


 それって、作戦を決める意味があるんですかね?

 でも、聞かれた事だから、一応答えておこう。


(ええと、皆が好きそうな作戦は……)


 全員がそれに納得して、自分にも理がある戦い方。

 恐らく、これが一番有効だろう。


「俺達の作戦は……」


 全員がゴクリと息を飲む。


「全員自由行動だ!!」


 一瞬の沈黙。


『ウオオオオオオオ!!!!』


 次の瞬間、全員が獲物を空に掲げて咆哮する。

 やはり、ここに居る半落ち達を制御するなど、到底無理な様ですな。


「うん、凄い気合の入りようですね」

「イチロー。中々やるガ」

「そうだな。皆は好きに暴れさせて、その隙に自分は相手側の大将を狙う。一狼君らしいコソコソとした作戦だな」

「よし、バレている」


 この二人には隠し事は出来ないようだな。

 だけど、この面子であれば、この作戦が一番有効だろう。


「ワシはイチローに着いて行くガ」

「無論、私もだ。バディだからな」


 二人の言葉に深く頷く。

 俺は弱い。

 だけど、彼女達の力を借りれば、きっと負けない。


「それじゃあ……」


 俺の声で皆が静まり、ゆっくりと空を見上げる。

 少しの静寂。

 やがて、姫山の麓から眩い発光弾が空へと延びる。

 さあ、戦いの開幕だ。


「行くぞぉぉぉぉ!!!!」

『オオオオオオオオォォォォ!!!!』


 俺の掛け声で半落ち達が走り出す。

 それに少し遅れて、俺達もゆっくりと姫山の麓を目指し始めた。

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