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33話 姫山防衛戦

 姫山。正確に言えば統べての霊山は、時間の経過や狩人の死亡で、その風景を大きく変化させる。

 俺はもののけの狩人になった事で、その変化を何度も目にして来た。

 しかし、今回の変化は、今までの変化とは明らかに異質な変化だった。


(……これは)


 草原。

 横幅はおおよそ50メートル程だろうか。綺麗に切り取られた芝がスラリと伸び、その左右を深い森が覆っている。

 この変化は今までの変化とは違い、明らかに姫山の意思を強く感じた。


「まるで、この先から敵が来ますよ。って感じですね」

「うむ。まあしかし、これも全部一狼君のせいなんだがな」

「まさかの俺!?」


 予想外の言葉に目を見開くと、今度は又吉が口を開く。


「桧山君。君は先日不死之山に行った時、沢山の狩人を殺しただろう」

「殺したと言うか、戦闘不能にして、町に帰しただけですが」

「つまりは、そう言う事さ」


 成程、全く分からんぞ。


「桧山君が多くの狩人を戦闘不能にした事で、霊山は何度も変化を繰り返した。その結果、ルーティーンが乱れてしまい、今の状況が出来上がった訳さ」

「つまり、バグみたいなものですか?」

「そうとも言えるかな」


 その言葉を聞いて、俺の脳裏に嫌な予感が過る。


「もしかして、他の霊山でも同じ様な事が起こって居るんですか?」

「全ての霊山がそうなっては居ないだろうけど、姫山の様に変化の頻度が高い山は、同じ事が起こって居るだろうね」


 と、言う事は。


「一狼はまた敵を増やしたね」

「いや! 俺のせいとはバレて無いはず!」

「残念だけど、不死之山連続殺人事件は、もか専のトップ記事になってます」

「なん……だと」

「犯人は桧山一狼……君だ!!」


 ビシッと指を指して来る未来。

 報連相がしっかりしている事は悪い事ではないが、実名を挙げて吊し上げる所は、中々にえげつないな。

 今までも思っては居たが、もか専は俺にとって、百害あって一理無しだ。


「不死之山の件は、イチローのせいじゃなくて、ワシが……」


 鷹子が困った表情で呟く。


「……あーうん。不死之山の件は、全部俺がやりました。俺が犯人です」

「イ、イチロー……」

「俺のせいで姫山の皆が嫌われるのは嫌ですから。ここは俺のせいにしておきましょう」

「だガ……」

「うむ、全て一狼君のせいだ」

「狼さんのせいですね」

「一狼が悪い」

「お、おう……」


 皆からそう言われて、少しだけへこむ。

 しかし、姫山の悪評が広がっているのは、間違いなく俺のせいだ。ここは俺が全てを背負わなくてはならない。

 むしろ、俺のせいで他の皆まで狙われるなど、絶対にあってはならない。


「姫山の極悪道化師(ダークピエロ)か。中々に良い響きじゃないか」

「一狼はたまに中二病だよね」

「黙れ小娘」

「でもまあ、一狼らしいよ」


 そう言って、未来が優しく微笑む。

 いつも無邪気に笑う彼女の珍しい表情を見て、俺は少し恥ずかしくなってしまった。


「さて、お喋りはここまでにしておこうか」


 列の端に居る兵子が呟く。


「一応先程渡した簡易無線で指示は出すが、緊急時は各々が最善の手を考えて、自ら動く事。良いな?」

「了解です」

「良し。では……」


 少しの静寂。

 やがて、足元が静かに震え出し、その振動元がこちらに近付いて来る。


「迎撃準備!」


 全員が一斉に怪物を構える。

 遥か前方に見え始めた異形の姿。

 その形は動物の『狐』を型どって居るが、狐の様に黄色い毛皮は纏っていない。

 その体を形成しているのは『木』。

 大小様々な木材が体を形成して、ゴツゴツと音を立てながら突進して来た。


「ふむ、予想以上の数だな」

「そうですね。軽く見積もっても、30匹以上は居るように見えます」


 猫と兵子がそれらを見据える。

 先の尖った木材で形成されたそれらが、群れで一斉に襲って来る姿は、まるで炎がこちらに近付いて来るかの様だ。


「良し、未来」

「はーい」


 兵子が声を掛けると、未来は袖から赤い筒状の弾を取り出し、シロポンに装填する。

 そして。


「発射ぁ!」


 放たれる弾丸。

 宙を跳ねた筒状の弾は、群れの10メートル手程前に落ち、小さな煙を上げる。

 そして、群れがその上を通過した瞬間。


「どかーん!」


 大爆発。

 群れは爆風に巻き込まれて四方八方に飛び、その場に残った炎木も、炎に包まれて悶絶した。


「良し、距離を詰めるぞ」


 兵子の号令で皆が前進を始める。

 俺は少しの間呆気に取られて居たが、直ぐに我を取り戻し、慌てて皆に追い付いた。


「な、なあ未来」

「ん? 何?」

「物凄く燃えてるんだけど、山火事とかは大丈夫なのか?」

「大丈夫だよ。霊山の草木は火に強いから、ガソリンを撒いても火事にはならない」

「……それはそれで大丈夫なのか?」


 大きな疑問は残ったが、それ以上は考えない事にしておく。

 それよりも、次のウェーブだ。


「来るぞ!」


 兵子の号令共に、燃える野原を掻き分けて炎木が突っ込んで来る。

 今度は未来のシロポンが間に合わず、各々が怪物を駆使して炎木を蹴散らした。


「第二波クリア! 各人補給と回復!」


 兵子の号令と共に、各自が次のウェーブの準備を始める。

 そんな中で、俺は又吉の成章の特殊な使い方を、呆然と眺めていた。


「又吉さん、それは……」

「ああ、これかい?」


 又吉の手には糸がぶら下がっていて、その先に成章を取り付けて、ブンブンと振り回して敵を倒していた。


「これが私の成章。『衛星成章』さ」


 又吉が糸を引っ張り、成章を手元に戻す。


「巨大猫のもののけ、『火車』の毛を編んで作った糸で、一定まで伸びて戻ると言う特性があるんだ」


 言った後、又吉は楽しそうに成章でヨーヨー遊びを始めた。


「うちの家系は猫のもののけに特性が合ってね。小夜の装備にも、『猫又』と言う猫のもののけの素材が織り込んである。そして、その特性は……」

 

 次の瞬間、倒れて居た炎木が数匹立ち上がり、再び突進を始めようとする。

 しかし、それよりも先に、猫の夜乃雫が火を吹き、炎木を撃ち落としてしまった。


「とまあ、瞬発力とステルス性能の向上だね。これによって、猫柳家は屋敷名を頂いたんだ」


 俺達が話している隙に、別の場所から炎木が突っ込んでくる。

 それに対しては、鷹子が刀の刃を鞭の様に伸ばして、一掃してしまった。


「あれは、果夏君が師匠から貰った銀尾刀。見ての通り、刃が自在に伸びる」

「……もしかして、姫山の狩人って、普通の武器を持ってる人が居ない?」

「そんな事はないさ」


 又吉が兵子に視線を送る。

 俺もそれに合わせて見ると、兵子が小さなナイフを持って、迫り来る炎木をバッサバッサと斬り倒していた。


「名刀『サバサキ』。名刀などと言っても、形はただの鯖を裂く為のナイフさ。特性も、ただ良く切れるだけ」


 話をして居る間にも、兵子は次々と炎木を屠っている。

 流れるようにナイフを操るその姿は、まるで踊っている様だ。


「ハハハ! 死ね死ねぇ!」


 ……まあ、言動には難があるのだが。


「僕は一応兵子君の師匠ではあるけど、単純な戦闘力ならば彼女の方が上だろう。と、言うより……」


 又吉が目を細める。


「……兵子君は、単体で既に化物だ」


 言った後、苦笑する。

 一通り皆の装備について聞いた後、俺は改めて思う。

 やはり、この姫山に住む狩人達は、普通の狩人では無いようだ。


「もうこれ、炎木を凌げてしまうのでは無いでしょうか」

「そうだね。でも、姫山には最終防壁が無いから、一匹も逃す訳にはいかない」

「……え?」


 俺の疑問に対して、又吉は迫って来た炎木を倒してから口を開く。


「他の霊山にはもののけが下界に降りないように、最終防壁があるんだけど、姫山にはそれが無いんだ」

「何で姫山だけ?」

「まあ、色々な理由はあるのだけれど、一番の理由は『姫』が怒るからかな」 

「ひめ?」

「この山に住むもののけの総大将さ。姿を拝んだ狩人は3人しか居ないけど、頑張って居れば、いつか会えるかも知れないね」

「ちなみに、又吉さんは?」

「会った事が無いよ」


 伝説とまで言われている又吉さえ会った事の無い、姫山の総大将。

 名前こそ可愛いが、もののけなのだから絶対に危険な生物なのだろう。


「話を聞く度に、姫山は特殊な山って感じですね。総大将とか本当に会いたくない」

「うん、今のはフラグだね」

「勘弁してください」


 そう言って、二人で小さく笑う。

 いつの間にか炎木の進軍も散り散りになり、辺りには穏やかな空気が流れている。

 どうやら、今回の防戦はこれで終わりのようだ。


「……!!」


 などと、余計な事を考えたのが、いけなかったのかも知れない。

 俺が気を抜いてしまった直後、急に辺りが少し暗くなり、山の奥から不自然な霧が漂い始めた。


「又吉さん!」

「ああ、現れてしまったね」


 霧の奥にフワリと姿を現し、八本の尾を大きく開くもののけ。

 その姿は、金色に輝く大狐。


「妲木だ」


 咆哮。


『ギィィィィ!!!!』


 高周波にも似た音が山に響き、周囲の草木をざわつかせる。

 圧倒的な存在感。

 その神々しい姿を見て、俺はただ立ち尽くす事しか出来なかった。

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