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19話 飛んだ鷹は帰らない

 雷鎚の狩りを終えて一週間が経った。

 狩りを終えた後、俺は殿堂入りした事による表彰があるのではと、少々緊張していたのだが、俺のもか専のページが更新されただけで、それ以上の事は無かった。

 そんな訳で、俺はいつもと変わらない日常を送り、今日は猫に射撃の訓練を見て貰っていた。


「ぱすーん……ぱすーん」


 早朝の校庭に、成章の発砲音が木霊する。

 いや、木霊すると言うより、吸い込まれて行くの方が正しいか。

 成章が生成するオリジナルの弾は良い発砲音がするのだが、練習用に作って貰った弾は、まるでサイレンサーを付けているかの如く、何故か発砲音が響かなかった。


「うーん……」


 校庭の対面にある的を眺めながら、小さく唸る。

 この一週間、毎日の様に射撃の訓練をしているのに、一度も的に当たった事が無い。

 これに関しては、射撃を教えてくれていた猫も、うんざりとした表情を見せて居た。


「……狼さん」

「何ですか」

「真面目にやっているのですか?」

「真面目にやってます」

「では、逆に奇跡です」

「誉められた!?」


 俺の冗談に猫がため息を吐く。


「毎日何十発も撃っているのに、一度も的に当たらないなんて、普通では考えられません」

「そうは言っても、この銃スコープとか付いてないし、狙いが定められないんですよ」

「そうですか。では、私に成章を一度お貸しください」


 言われるままに成章を手渡す。

 猫が的に狙いを定めて発砲すると、弾は一直線の弾道を描き、的の中心を貫いた。


「違う。これは実力の差だ」

「それは否めませんが、狙いが定まらないと言う事は、否定されたみたいですね」

「何か俺の時は弾道変わってませんか? 山なりと言うか……」

「言い訳は男を下げますよ?」

「ぐぬっ」


 手痛い正論。

 しかし、あくまでも感覚では有るのだが、猫が成章を撃つ時と、俺が成章を撃つ時では、何かが違うように見える。

 もしかして、成章は持ち主によって、その特性を変えるのか?


「うーん」


 次弾を装填しながら、俺の撃ち方について考える。


「……良く考えてみたら、俺が今までに撃った弾は、一度も獲物に当たった事が無いな」

「龍と戦った時は当たりませんでしたか?」

「あれは的が近かったので、誰でも当たります」

「雷鎚の時は?」

「無我夢中に撃っただけで、狙いは定めてません」


 そこから考えられる結論。


「成程! 適当に撃てば当たるのか!」

「却下ですね」

「いや、きっとそうだ! それなら……!」


 クルリと回転した後、適当に銃弾を放つ。

 弧を描いて飛ぶ銃弾。

 弾は見事に的の横を通り抜けて、姫山へと消えて行った。


「……良し」

「予想通りの結果ですね」

「はい、済みません」


 素直に頭を下げると、猫がふうとため息を吐いた。


「あのですね、これは未来さんに口止めされて居たのですが……」


 猫が真っ直ぐにこちらに向く。


「狼さんは、この弾を一発作るのに、どれだけの手間が掛かるのか、知っていますか?」

「……え?」

「成章の口径は特殊です。それに、火薬も一般的な物では無く、姫山で取れた物を使わなくてはなりません」

「それは、つまり……」


 その先を敢えて濁す猫。

 それを見て、ゴクリと息を飲む俺。

 どうやら俺は、とんでもなく高価な物を、何も考えずに撃ちまくって居た様だ。


「い、胃が……胃がぁぁ……」

「そう言う冗談はもう結構なので、もっと真剣にやって頂けませんか?」

「いや、真剣にはやってたんですけど……」


 足の力が抜けてその場に倒れる。

 この一週間で、俺は一体幾らの弾を消費していたんだ?

 それ以前に、俺は何も考えずに、当たり前の様に未来から弾を貰っていたぞ?


「不味いな……未来に謝らないと」

「土下座でも足りませんよ?」

「ならば、ローリング土下座で」

「私がそれをやられたら、間違いなく夜乃雫を抜くと思います」


 そう言うと、猫はホルスターから銃を抜き、クルクルと回して見せる。

 中々に格好良い姿なのだが、彼女の顔はほんわかお姉さん風なので、逆に狂気を感じてしまう。

 もしかしなくても、猫に対して冗談を言うのは、得策では無いのかもしれない。


(うん、気を付けよう……)


 俺は地面に倒れ込んだまま、その事を心に刻み付けた。


「おはよう、二人とも。今日も朝から頑張って居るようだな」

 

 頭の上から声が聞こえて来たので、体を仰向けに捩る。

 そこに見えたのは、紺のパンツスーツを着ている兵子だった。


「ふむ、一狼君は芋虫の練習中か」

「どんな練習ですか」

「冗談だ。それよりも、問題が一つ発生してな」


 ポケットから煙草と携帯灰皿を取り出し、吸い始める兵子。


「強化訓練に出て居た鷹子が、霊山で遭難したそうだ」


 それを聞いて、俺は目を丸める。

 しかし、猫と兵子はその事態に動じず、むしろやれやれと溜め息を吐いていた。


「もしかして、結構ある事なんですか?」

「まあ、そうではあるのだが、今回は少々場所が悪い」


 兵子が煙草の煙を吐く。


「今回の合宿所は不死之山だ。あそこは兎に角広くて迷い安い。しかも、他の霊山にも繋がり安いから、鷹子が本気で潜伏すれば、見付けるのは困難を極める」

「ん? 遭難って言ってませんでしたか?」

「ああ、それは建前だ。鷹子が霊山で遭難する訳無いからな」

「じゃあ、何か理由があって?」

「ふむ、そうなるだろうな」


 言った後、煙草を揉み消す。


「そういう事だから、一狼君。迎えに行ってやってくれ」

「その流れで、まさかの俺指名ですか」

「仕方が無いだろう? 姫山は人手不足で、猫や未来君を出す訳には行かないのだから」

「人材不足?」


 その問いに対して、今度は猫が口を開く。


「私達狩人が霊山に入るのは、上階層に居る強いもののけを、下山させない為です」

「……? それは、どういう意味ですか?」

「霊山と外の世界は、もののけも自由に出入りが出来ます。ですから、狩人が入り口付近の資源を狩る事によって、もののけが入り口まで来ない様にして居るのです」

「成程。つまり、それを怠ると……」

「主クラスのもののけが外の世界に降りて来て、それはもう、大変な事になります」


 狂気の笑顔で猫が語る。


「去年の夜叉大量発生事件は凄かったな」

「そうですね。姫山の狩人が総出で狩猟しましたから」

「猫は一昨年の群衆主(ガネージャ)強襲事件は知っているか?」

「石之山の件ですね。多くの狩人を蹂躙した後、楽しそうに帰って行ったと聞きました」

「私も現場に居たのだが、あれは本当に凄かったよ。幻獣クラスのもののけが暴れたら、最早災害が起きた事と同じだ」


 俺の知らない話で盛り上がる。

 二人は笑顔で話しているが、何も知らない俺からすれば、外の世界がもののけに荒らされそうになった大惨事だ。

 それでも外の世界が平穏に過ごせているのは、一重に狩人達の努力があってこそだと、改めて思い知らされた。


「そう言う事なので、一狼君。よろしく頼む」

「はあ……」

「折角不死之山に行くんだ。ついでに龍治君に取られた成章も、取り戻して来てはどうだ?」

「いやぁ、実力的に厳しいですよ」

「そうか? 私から見れば、彼もまだヒョッ子なのだが」


 豪快に笑う兵子。

 良く考えて見たら、俺は兵子がもののけを狩る姿を、まだ一度も見た事が無い。

 もしかして、物凄い実力を持つ狩人なのだろうか。


「良し。とりあえず話は終わりだ」


 そう言って、兵子がクルリと振り返る。


「一狼君の遠征に伴って、本日の入山は無しとする。二人は未来君と合流して、一狼君の遠征の準備をする事」

「了解しました」

「では解散」


 後ろ向きに手を振りながら、兵子が校舎へと帰って行く。

 俺達はそれを見届けた後、お互いに無言で頷き、未来が居るであろう加工場へと足を運んだ。

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