一対一で話すのって緊張する…え、しない?
「サーシャさん、前に ヒト になってしまいそうだ、って言ってたじゃないですか。」
「そうですね。そんなこと言った気がします。」
「そのことに関して、俺ずっと気になってて。」
「そうですか。」
言葉を選びながら慎重に言う俺とは反対にサーシャさんはグラスを持ってくるくる回しながら淡々と他人事のように相槌をうつ。
固く閉ざされた目と相まっていよいよ彼女の感情を読み取ることができない。
なんだか尻込みしてしまう。
「どうして、そんな諦めたような感じなんですか。」
本当は、「目が見えないということを考慮されるならばそんな差し迫ってヒトにされてしまうなんてことはないだろうに、何か理由でもあるんですか?」と聞こうとしたのだが、この雰囲気に頭が一瞬真っ白になり、気がついたら思わず思っていたことをそのまま口に出してしまった。
するとサーシャさんにとってこの質問は少し予想外だったらしく、彼女のグラスを持つ手が一瞬動きを止めた。
そしてゆっくりグラスを置くとテーブルに肘をつき俺の方に顔を向けながらイタズラが失敗した時の子供のような顔で言った。
「てっきり、障害者支援を受けていないことについて言われるかと思って解答を考えていたのですがその質問は少し予想外でした。」
本来ならばそう聞こうと思っていたので、またもや胸中を当てられた気がして彼女に再び驚かされる。
目が見えないからこその鋭さ…というやつなのだろうか。
それとも、彼女に関心を持った他の人がこのような質問を彼女にしたのだろうか。
「それももちろんある。けれどそれにしたって君にあんな寂しそうな顔で未来を語って欲しくないんだ、。」
動揺している心のうちを悟られないよう落ち着いた雰囲気を醸し出しながら(?)言うように努める。
「そうですねー…。ハルさんのその質問に答えるのにも私がどうして障害者支援を受けていないのか話す必要があります。」
「ハルさんに話すために自分の中でもう一度考えてみたことなんです。半ば…独り言のようなものでしょうか。ふふ。でも誰かに聞いてもらいたくて。」とサーシャさんは言うともう片方の肘もテーブルにつき、落ち着いた声で話し始めた。
ーーーーーー
ーーーー
ーー
「ハルさんは“エイリアス問題”というのをご存知でしょうか?…簡単に説明すると、“自分の脳の全てをコピーして、新しい身体に移すことができたとしたらそれは同じ人間と言ってかどうか”という問題です。」
「…同じなんじゃないのか?」
「本当に?」と笑顔でつっこまれてしまい少し自信が無くなる…。
「記憶をそのままに意思、感情などを全て引き継ぐことができているのならそれは同じ人間と言っていいと思う。人間の本体は脳だ。…身近な人がそうなったとして、俺はきっと同じ人と思うことができる…と思う。」
俺の意見をふむふむと面白そうに聞いている彼女の様子に俺は自信を無くし、なんだか最後は尻すぼみになってしまった…。
そんな俺の様子を感じたのか、
「別にこれ正解とか不正解とかがある問題では無いと思います。ハルさんはそう思うんですね。」
とフォローするように言うサーシャさん。
こう言うってことは彼女の考えは俺と異なっているのだろう。
俺がそう思うのなんてお見通しだ…と言わんばかりにサーシャさんは言った。
「私は…そうは思わないんです。」
沼男問題とごっちゃにしがちですが調べてみたら違うようです……。この作品では沼男よりもこっちのほうが合ってる気がします。
6/2 改訂 エイリアス問題についての説明が誤ってました……すみません……大分違いました…




