夢見たのは、きっとそんな世界だ。
『タイトル未定』
海の底はそれはそれは果てしないものだった。だから僕は、深い愛情を空に求めたんだ。そうしたら、さながら雲は白い時針のように思えた。一刻一刻を刻む雲たち、その瞬間が過ぎてしまえば、もうその時針を二度と見ることはない。そこらに転がっている時計の針は、何度も何度も同じ軌道を巡るだろう。だけれど僕の時計の針は永遠に一つの方向に流れ続けるんだ。僕は頑張って雲の群れを追いかける。
昼には星屑が零れ落ちて、夜には煌く太陽が――ああそうだった、これは僕の「悪い」癖だ。昼と夜を逆に考えてしまうんだ。理屈ではわかっているけど、僕の体感を否定したくはない。ねぇ君、やはり恋人というのはいいものだよ。僕がこんなことを言ったって、微笑んで受け止めてくれるんだから。でも僕は、いつか彼女を置いていくことになる。そのときは君、彼女を頼むよ。
何てことはない空の下、何てことはない海のそば、談笑する少年が二人。その立ち姿は高校生の盛りか、これからの未来を彷彿とさせる希望に包まれていた。君、と呼びかけられた少年が答える。
「そうは言ったって、クレイン。君はまだまだ若いじゃないか。どこに行くって言うんだ」
「場所が分かれば苦労はしないんだよ、透。僕はこの頃道に迷う夢を見る。一人でね。道案内を頼もうにも誰もいないし、本当に知らない場所なんだ。だから僕自身にも未来のことはわからない」
「それなら、彼女も一緒に連れていくといいじゃないか」
「……」
「クレイン?」
「考えなかったことはない。けど、非現実的じゃないか」
「君ほどファンタジーに生きているような奴、知らないんだけどな」
これといって嫌そうな顔を見せるまでもなく、クレインという名の少年はくすくすと声を漏らしながら笑う。彼らの間には棘という棘は生まれ得なかった。それは恐らく、彼らの見ている世界の側面が交わることがないからに違いなかった。例えばクレインが空を見上げる時、透の方では海を、といった具合に。交差することもないから、お互いがお互いを居心地悪く思うことはなく、むしろ害のないものとして安心感すら抱けるのだ。
「ねぇ透。全てを投げ出してしまえば、生きるのは楽になるかな」
「苦しいのか?」
「うーん……息苦しい?」
「多少の息苦しさがなければ、呼吸ができる素晴らしさを実感することもない。与えられた環境でどうメリハリつけて生きていくかが僕らの課題じゃないかな」
「わからないでもないけど、もう少しわかりやすく言ってよ」
「死ぬことを知れば生きるのは楽になる」
やはり彼らの世界は交わることはなかった。このとき透は精神的な死を指していたのに対し、クレインは物理的な死を思い描いた。透は一時的に何か――大切な人やもの、地位、名誉、権利を失う状況のことを例として言葉に含んだつもりであったのに対し、クレインは自身の肉体が朽ち果てたのちの次なる生について思考を巡らせていたのだった。




