君の見た夢の続きを教えて。⑤
すっかり自分は外の人間になってしまった。そのように澪は感じた。二人の会話は自分なしでも進みに進み、周りの雑音に同化していく。
止まって欲しいと思う現実。繋ぎとめておきたい現実。でも……と澪は心の内で小さく思う。そう思う時点で過去のものになってしまっていることに圭は気が付いているのかと。これ以上話しても理解が進むわけではないことを圭も感じ取ったのだろう、「それでは僕はこの辺で」といつもの無表情で席を立つ。
「澪、お前も来るか」
「……はい」
◇
圭の方から誘ってくるのは初めてで、いつも強引に約束を取り付けていた澪からすれば嬉しい反面素直に喜んでよいものかわかりかねていた。空はどこまでも青く、雲は千切れては揺れ、揺れては消える。
「雲に流れる時間は雲のみぞ知る、か……」
「どうしたんだ、澪」
「いえ、篠原さんがそう言っていたので。西崎さんには西崎さんの、クレインにはクレインの時間があるって」
「あの人がそう言ったのか?」
「そうです。篠原さん、いつもはああじゃないんですよ。何か心配事でもあったのかな」
「俺が何か言う度に否定してきやがる。俺が言ったことはそんなにおかしかったか?」
「篠原さんの考えはよくわかりません……」
「あの人じゃなくて、お前の考えを聞いてるんだよ」
最初はクレインに似た人物、クレインの何かしらの要素を持ち合わせている人物として興味を持ったのだった。物珍しさであり、西崎圭本人を見ていたかというと決してそうは言い難いのである。
「おかしいことではないと思いますが、現実的ではないと思います。だって西崎さんが言っているのって、いつまでも子供心を忘れないとか、そういうことですよね?」
「現実的じゃない、か。夢の話ばっかだもんな。俺もそう思う」
澪に対しては警戒を解いているのか、圭は静かに苦笑した。それは自嘲しているようにも見えたし、他者への嘲笑ともとれた。
「西崎さんの夢がかつての現実だったのかどうかはわかりませんが、私は西崎さんがいなくなってしまうと悲しいです」
「俺がいなくなるっていうのはどういうことなんだ?」
「……」
「澪?」
「どう言ったらいいのかわかりませんが、今私を見てくれている西崎さんが、いなくなってしまうのは嫌です」
おいおい、と呆気にとられた様子で圭は視線を逸らす。それだと俺の言っていることと同じじゃないか……と。それでも二人の間ではほぼ共通に近い認識が生まれていたことは確かであり、それが双方の望むことであったのも事実だった。
「ねぇ西崎さん。どうして私たちが変わっていってしまうのかを教えましょうか」
「ああ。教えてくれ」
「それはね、死んでしまうからなんです」




