君の見た夢の続きを教えて。④
西崎圭は意を決したように話を始めた。まるで僕でない誰かに乗り移ったように、夢の光景を眺めているんです。何かに感動するときや、幸福、悲しみ、愛着、未練、あらゆる情の動きがぱっと流れ込んできて、意識する前にそれらに同化しているんです。夢の中で僕は人を殺したこともあります。殺意を覚えるその瞬間まで僕はその人のことなんて知らないのに、感覚が流れてきてしまえばそれは抑えがたい衝動になってしまうんです。感じるはずのない後悔の波が来て、気付けば慟哭している自分がいます。客観的に自分の姿を見ることはできませんが、冷静に自分を捉えることはできるんです。その手の後悔は、自殺未遂をしたときにもありました。ああ、僕自身はしていませんよ? 夢の中での話です。本当に本当に辛かったんです。いつまで経っても先の見えない不安やら圧迫感やらで窒息する寸前で……僕が怖いのは、僕自身だと決してしないようなことをしてしまうのに、何の抵抗もできないことなんです。僕は正直どこまで僕でいられるのかわかりません。多重人格だとかそういったことを疑わずに済むのは、夢で同化する「僕でない誰か」が今の僕とは全く違う世界に生きているからです。見たこともない、会ったこともない土地で初対面の人間と日常を送っている。自分でこうして判断できるのが、僕にとっては何よりの救いなんです。
「言いたいことは何となくわかるけどね、圭くん。もし僕が、澪ちゃんと君は前世で既に会っているということを無理やり事実のように君に押し付けたら、君はきっと信じるだろう」
「それは……」
「君の存在はそのくらい脆い。夢の内容が事実かどうかも突き詰めるのが怖いんだろう」
「怖いし、突き詰めようとは思いません。僕には関係のないことですから」
「君は夢の話でいっぱいいっぱいの様子だね」
やや警戒の姿勢に入りつつある圭と、いつもの穏やかな雰囲気がすっかり失せた祐の二人の顔を交互に見ながら、澪はその間に立つこともできずにいた。圭の夢に対する見方を聞いたのは澪にとって初めてで、やはり圭のことなど何も知らなかったのだという事実を突きつけられるばかりであった。
「僕自身、こんなことは馬鹿げていると思います。眠ってしまう以上、夢を見ないようにすることはできません。むしろ僕は――」
「前世の記憶をもたない人間の方がおかしいと思う、かな?」
「……っ」
「クレインを主人公とした小説を書くにあたって、僕は一つの仮説を立てたんだ」
こちらからも話をさせてもらおう、祐のそのような意思の表れだった。澪に話して聞かせたときのように、クレインにはモデルがいたこと、灯台での様子、モデルの少年から祐が感じたこと、その一つ一つを隠すことなく祐は伝えた。圭はどこまで話を飲み込んで良いのかわかりかねる様子で、神妙な面持ちを崩すことはない。
「灯台での彼との出会いから、僕は考えた。同じ人間として何度も生死を繰り返している人間がいるとしたらどうだろうってね。そうして作り出したのがクレインだ」
「僕は物語の人間じゃありません」
「大抵の人間なら物語に惹かれるものだと思うよ? 自分が主人公の物語なら、尚更」
「同じ人間が何度も人生を送るなんて、どうかしてますよ! 一度死んだ時点で、その人間は終わりです」
「でも君は死んでも死にきれていないみたいじゃないか。夢の君、前世の君が自分とは別の人間だとどうして言いきれるのかな?」
またしても答えに窮している圭を横に見ながら、澪は何とか祐に反論できないものかと考えていた。確かに圭は夢での感覚について些か寛容なところがあるものの、その全てを受け入れることまではしていない。圭が圭であろうとしている限り、夢は夢で終わるはずだと、澪はそこまで主張が固まっているにも関わらずどう伝えれば良いのかわからずにいた。色々と言葉が足りない気がしてならないのだ。澪が心の内で主張をどうにか形にしようと奮闘している中、澪の隣で圭が苦し紛れに言葉を発した。
「……終わってしまったものは、どうしようもないと思います。ただ、止まって欲しいと思うような現実を、ずっと繋ぎとめておきたいだけなんだと……僕は思います」




