498 ヤマノ領の開発 2
そういうわけで、お酒造りを始めることにした。
新大陸で売っている『ヤマノ領産のお酒』というのは地球から持ってくるやつのことだけど、純ヤマノ領産のものを新大陸で売ることはない……多分、あまり売れない……から、問題ないか。
こっちの大陸じゃあ、私が売っている地球産のお酒は、私の母国から運ばれてきたもの、ということになっているからね。
あ、サトウキビの栽培が本格化してボーゼス領でラム酒の生産が始まったら、顧客を食われちゃうかも……。
でも、まあ、それくらいはいいか。
別に、酒飲みの全てがラム酒しか飲まなくなるわけじゃないし、いくらヤマノ領産が新米酒造メーカーで腕が悪いとはいえ、私はネットでいくらでもやり方や問題点の解決方法を調べられるし、専門家に聞きに行くこともできる。それに、酒造用の器具とか酵母とかも入手できるのだ。
なので、地球産のに較べればショボくても、この世界では最初からある程度の品質は保てるだろう。
また、廃業する小規模醸造所の設備を丸々買い取る、とかいう方法もあるし。
いざとなれば、引退した杜氏や蒸留工程の責任者とかを一時的に連れてきてもいいし……。
あの、『造船三銃士』みたいな感じでね。
今は、クラフトブルワリーや小規模醸造所用の小型の酒造設備が色々と売られているから、最初はそういうのを買ってスタートして、その後こっちでそれを真似て製作してもいいし……。
特許? 実用新案?
ん~、何のことかな~。
知らんな~。聞こえんな~……。
特許とかの効力範囲は、異世界にまでは及ばないだろう。
あれは国ごとの申請だから、こっちの世界ではどの国にも申請も登録もされていないからね。
だから、タンク形状を始め、設備をコピーしても問題ない。
……そもそも、模倣した事実を知られることすらないから、安心だ。
でも、まあ、タンクの製造加工や溶接その他ができるようになるのは、ずっと先のことだろうな。
金属材料の精製、耐圧構造、その他諸々の技術は、地球から資料を持ってきただけでおいそれと真似ができるようなものじゃない。
それまでは地球産のものや木製の樽、桶とかを使い、金属製のものはいつの日にか、という感じかな。
まあ、それまではコピー元の製品を買って、少しは還元に努めよう。
最初に地球から持ち込む醸造設備は10年以上保つし、大事に使えば20年以上も可能だろう。
簡単な修理くらいならこっちでもできるし、壊れればその部分だけこっちの技術でカバーすることもできるだろうし。
金属製のタンクの代わりに木製の大樽とかが使えないわけじゃないし。
紀元前4000年頃には、既にビールやワインの原型が存在していたのだ。今のここの技術力でできないはずが……、って、事実、造ってるじゃん、売ってるじゃん、エールやワイン!
そして、酒場があるじゃん!!
そういうのを造っている人がいるなら、ゼロから始めるのじゃなくて、ここの技術力で造られているものに、地球の設備と知識をプラスするだけじゃん。
地球の技術が使えるヤマノ領で、今ここで造られているお酒を上回るものが造れないはずがないし、もし私がいなくなった後で持ち込んだ設備が壊れても、それまでに培った知識と技術があれば、新しい酒造法は失われることなく続いていくだろう。
そう、ヤマノ領で作られるお酒が、他領や他国のものに負けるはずがない!!
……ハァハァ……。
「姉様、ひとりでアツくなりすぎ! 自分は食前酒か少量のワインくらいしか飲めないくせに……」
「うるさいわっ! 領地の増収のためだから、私が飲める飲めないは関係ないよ!
そして、心を読んで突っ込むな!!」
サビーネちゃんの突っ込みに正論で返し、紅茶で喉を潤した。
飲んでいる紅茶は、勿論地球から持ってきた、正論ティー。
「いや、全部口に出してたじゃないの……」
また、それか~いっ!
「とにかく! お酒で儲けるのだだだ!!」
* *
まずは、ビールとブランデーとウイスキーを造ろう!
ビールの利点は、その製造期間の短さだよ。
種類や発酵方法によるけれど、3~4週間で造れるのは魅力的だよね。
日本酒は2~4カ月掛かるし、造るのが難しいんだよ……。温度管理とかもシビアだし、失敗すると腐らせちゃうからね。『腐造』って言うらしいけど。
腐ったのを造っちゃった、って意味かな、『腐造』って……。
ウイスキーやブランデーは、蒸留までは15日くらいだけど、その後、木樽で数年から数十年の熟成が必要だからなぁ……。
今、造っても、売り物になるのは3年以上経ってからだ。
高級品の長期熟成ウイスキーだと、オーク樽で12年とか18年、25年、そして30年以上と、気の遠くなるような熟成期間が必要だ。
……待ってられるか、そんなの!!
はぁはぁはぁ……。
うちのは、最短期間の3年でいいよ、3年で!!
泡盛だって、3年熟成させれば古酒を名乗れるのだから! 奴樽蔵とかね……。
まあ、泡盛はインディカ米が必要だし、美味しくするためには熟成期間が必要だから、当面はパスだよなぁ。日本酒も、酒造米がないし。
お米は、食用のジャポニカ米の試験栽培を始めたばかりだし……。
やはり、当座はビールとウイスキー、ブランデーだな。
ビールは大麦と小麦(ヴァイツェン用)、ウイスキーは大麦、トウモロコシ、ライ麦、小麦とかの穀物があればいいし、ブランデーはブドウがあればいい。ブドウがなけりゃ、白ワインから造ってもいい。
ブドウから造る場合は、ブドウの搾りかすを原料として造るかすとりブランデー、グラッパとかも造れるか……。
ここで造った場合、『グラッパ』とは名乗れないか? いや、まあ、文句言う者はいないだろうから、いいか。
試験醸造用の原料は、地球で調達するかな。
領民のみんなが汗水垂らして作った作物を使って失敗したら、申し訳なさすぎるよ……。
酒造用の穀物は、先に予約して押さえておかないと、急に言われても困るだろうし。
……あ、ビール用のホップがあるか、調べておかなくちゃ。
もしなければ、地球から苗を持ち込むか……。
「よし、やったるぞう!!」
「え? あわもりとかいうお酒はまだ造らない、って言ってたよね?」
「『奴樽蔵』とは違うわ~い! そして、私の独り言で1回聞いただけなのに、商品名まで完全に記憶しとるんか~い!
さすサビ!!」
よし、酒造計画、発動!!
……但し、あまり急がない。
酒造設備は急には手に入らないし、中古が出回っていれば、新品ではなくそっちを入手したいしね。
それに、原材料は安く入手できる時期とか色々とあるだろうし、専門的なことを調べて勉強する時間も欲しい。
急いては事をし損じる、って言うしね。
ま、ボチボチ行こう、ボチボチと……。




