497 ヤマノ領の開発 1
「ボーゼス領の観光地化計画は、健康ランドの完成で一段落だな。
あとは、サトウキビと、新造船と……、って、違うううぅっ!!
何で全力で他領の開発に専念せなアカンねん! 開発するなら、自領が先だろうがああぁっ!」
「……あ、ようやく気付いた?」
「分かってたなら早く忠告してよ、サビーネちゃん……」
ガックリだよ……。
でも、ヤマノ領には大規模な新規事業を立ち上げるだけの予算も労働力もない。
借金はしたくないし、大勢の無法者やハイエナ、寄生虫が流入するのも避けたいからなぁ……。
うちの領地は、ボーゼス領とは違い、王都や他領から人が流入するのは歓迎しないのだ。
元々ここに住んでいた領民達が幸せになり、結婚して子供をつくって自然に増殖してゆくのを目指すのであって、カネの匂いを嗅ぎ付けた連中が土足で踏み荒らしに来るのは、許容しない。
王都の下層民や孤児とかは、王都から出て行くのに許可はいらないらしいけれど、うちの領地に住み着く、つまりうちの領民になるには、勿論領主である私の許可が必要だ。
まあ、うちは小さな領地だから、私の許可を得ていない不法移民なんか、すぐにバレるからね。
うちの領民は、完全な戸籍が作ってあるのだ。
高々数百人なんだ。持ち込んだノートパソコンで、簡単にデータ化できたよ。
うちが認める移民は、能力があり、現在住んでいるところの領主が移民の許可を出した者だけだ。
どうしても欲しい人材なら、私が直接頭を下げて貰いに行くからね、向こうの領主様のところへ。
不法移民者は別に悪いことをしているわけではないから、差別せずに受け入れろ、って?
うん、いいよ。
犯罪を犯していないなら、受け入れよう。
……じゃあ、正式な許可を得ていない『不法移民』、『不法滞在』は犯罪行為だから、全員アウトね。
他国から来た? 密入国、重罪だよね? アウトオォ!
他領から来た? 領主やその配下が発行した移住許可証は? ない? はい、アウトオォ!!
ちゃんと住民登録して、税金、払ってる? 無登録で税金払っていない? アウトオォ!!
うん、旅行や商売で来たのならいいけれど、無許可の勝手な移住は犯罪だよ!
まあ、そういうわけで、ヤマノ領では、私の赴任より前から住んでいた住民とその子孫、それと私がスカウトした人達で回していける産業を育成するのだ。
無法者とかハイエナ、寄生虫、そして公害を撒き散らす自然破壊産業は求めていない。
現在うちの領地で進めているのは、既存の業種へのテコ入れ以外には、ゲーム盤の製作、製紙の更なる技術向上、水あめの製造、そして養蚕から製糸、紡績、裁縫の全ルート確立。
あと、爆裂種のトウモロコシ……ポップコーン用……や稲の栽培とか、新大陸から仕入れたものの王都商人への販売とかか……。
製塩もやっているけれど、それは自領で使う分……塩漬けとかの加工製品に使うのがメイン……くらいであり、塩をそのまま他領に売るのは、ほんの少量だ。
塩は重要物資だから、あまりうちが市場占有率を増やすのは良くないからね。
他に売るものがないのであればともかく、うちが塩に固執する必要はないし……。
……と、まあ、そんな感じで、あまり無茶をせず、領内の環境や治安の悪化を招かず、儲け過ぎず、他領との間に軋轢を生むことなく、領民の収入と領地の予算と私の個人資産を増やすべく、色々と頑張っているのだけど……。
もう少し、稼ぎたいと思うんだよね。
そして、全てをうちの領地で独占するのではなく、他領にも儲けさせてあげたいのだ。
他領とはいっても同じ国の国民なんだし、あまり領地間に差ができると揉め事の元だからね。
まあ、うちのやり方を真似る前、つまり最初のうちは、他領のお金がうちに集まっちゃうことになるだろうけれど、うちから買ったもので生活が豊かになったり、模倣商品を作ったりして、そのうち他領も儲かるようになるだろう。
そしてうちは、模倣されれば、次々と新しい事業を始めればいい。
そうやって、国全体の生産レベルを引き上げるんだよ。
商売のネタは、地球で調べればいくらでも見つかるだろう。
というわけで、とりあえずうちの領民を儲けさせる方法だけど……。
無茶な新技術導入とかに頼らず、あまり不自然ではなく、安全に手っ取り早く儲けるのは、……隣領、ボーゼス侯爵領を相手に商売をすることだ。
ボーゼス領はうちと違い、それまで所属していた領地から不法に逃げ出してきた者も、王都から流れてきた者も、全て受け入れている。
それだけ、人員が不足しているのだろう。
造船自体もだけど、造船所の建設、船乗り養成学校、増えた人口の生活を支えるための施設やお店、食糧増産のための開墾や農作業……。人手は、いくらでも必要だろう。
そして、一攫千金を夢見てやってきた連中が、地味な開墾や農作業をやりたがるはずもなく、高給で技術が身に付く造船要員や、稼いだ連中からお金をいただく商店、娼館、そして犯罪者とかが人気職業だ。
……犯罪者というのが職業名なのかどうかは知らないけれど……。
うちはそういう連中は要らないけれど、そういう連中からお金を頂くのは大歓迎だ。
勿論、悪事やおかしな方法ではなく、まともな商売でね。
「よし、農産物の増産と、お酒造り。それと、飲酒の時に食べる、おつまみや肴だけでなく食事も含めた……、ええと、『酒肴』って言うのかな、そういうのを開発しよう。
荒くれ者達は、高級なお酒なんか求めておらず、安くて手っ取り早く酔えるアルコール分の高いお酒と、それに合う食べ物があれば満足するだろうから……」
「新規参入で味が洗練されていないヤマノ領産のお酒でも、安くて酒精が強ければ売れる、と?」
「うん。それに、ヤマノ領には地の利があるからね」
「ああ……」
そうなのだ。サビーネちゃんが察している通り、ヤマノ領には圧倒的な強みがある。
それは、ボーゼス領と隣接している上、港があるということだ。
ショボい漁村だけど、割と立派な浮き桟橋があるし、試作した小型帆船という輸送手段がある。
お酒は、重いし輸送中に容器が破損する可能性もある。また、盗賊に狙われるし、護衛の人件費も馬鹿にならない。……陸路の長距離輸送だと。
でも、ヤマノ領は近いし、船で簡単に大量輸送できるし、生産地も消費地も共に沿岸部だ。馬車に積み替えて陸路輸送、という手間もかからない。
……他領から運ぶのに較べて、圧倒的に有利!!
輸送費があまりかからないということは、それが価格にも反映できるということだしね。
それに、農業の効率化を図った今、ヤマノ領には余剰作物がある。
……お酒を造るには、穀物や果実が必要なのだ。
つまり、税として納める分、自分達の食用として必要な分、他領や他国に売る分とかを除いた、余剰分の穀物や果実がなければならない。
……それと、酒造作業のための労働力もね。
これらは、余裕のない領地ではできないことだ。
つまり、お酒造りは、贅沢なことなんだよ。
畜産で1キロの肉を生産するには、その数倍から数十倍の穀物が必要だ。
つまり、肉食は贅沢だと言える。
でも、肉は食べ物だし、健康のためには必要だ。それに較べて、お酒は完全な嗜好品であり、なくても全く構わない……、いや、ない方が不幸になる人が減るという、完全に貧乏人の敵だ。
食用に回せば、価格が下がって平民の生活が楽になるのに。
でも、そこを敢えて酒造用に回す!
そう、お酒を造るということは、すごく贅沢なことなんだよ。
……うん、金儲けにはもってこいの商品だよね!
「鬼かっ!!」
「いや、サビーネちゃん、そんなに褒めてくれなくても……」
「褒めてないよっ!」




