447 お嬢様からの依頼 3
「……では、それを何とかしたいと?」
お嬢様……ミレイシャ嬢の話は、こんな感じだった。
将来、上級貴族か王族に嫁ぐであろうミレイシャ嬢は、侍女やお付きの者達を連れてこの国へ留学してきた。
そして自分の言動がこの国の者達からの自国の評価に繋がるということを自覚し、勉学に、交友にと努力し、自分でも『かなり上手くやれている』と思っていたところ……。
自分に関する悪質なデマが流されていることに気付いた。
曰く、『王族や上級貴族の子息を狙った、ハニトラ要員である』、『金持ちに片っ端から声を掛ける、ビッチである』等々……。
勿論、そのような事実はない。
しかし、身近な友人達は分かってくれているものの、あまり交流のない者達の中にはそれを信じたり、ミレイシャ嬢がそういう女性だと思って馴れ馴れしく声を掛けてくるナンパ男が湧いたりと、色々な実害が出ている。
そして一番問題なのが、将来自国の貴族か王族と結婚した後に、夫を支えてこの国との交流を助けるという目的のために留学しているというのに、この国で自分の悪名が広がれば逆に夫の足を引っ張ることになる上、この国で知己を増やしておくという現在の目的にも大きな障害となる。
なので、どうしようかと悩み、デマを流される原因や犯人の究明を考えていたところ……。
「直接危害を加えられるようになった、と?」
「そうですわ……。
更に、私を貶めようとして、色々と罠が仕掛けられるようになりましたの。
私が行きました場所で窃盗事件が起きるとかの……」
「「あ〜……」」
思わず漏れる、私とサビーネちゃんの唸り声。
うん、勿論私もサビーネちゃんも、悪役令嬢婚約破棄ざまぁ物くらい読んでるよ。
サビーネちゃんは、かなりハマってる。
「あの、婚約者がいる殿方にコナを掛けたりは……」
「しませんよっ! 人を何だと思っているのですかっっ!!」
お嬢様、激おこだ……。
まあ、貴族令嬢として、そりゃ聞き捨てならないか。
「とにかく、何とかせねばと思うのですが、他国の者である私がこの国の者、おそらく貴族家の者を相手に色々と動くのに、この国の方達を巻き込むわけには行かず、かといって、私と供の者だけでは、味方もおらず勝手も分からぬこの国では調査のしようもなく……」
「それで、自分と同じく他国の者であり、顔が広くて色々と伝手のある私に、ということかな?」
「そっ、その通りですわ……」
急に砕けた口調になった私に、少し怪訝そうな顔をしながらも、肯定の返事をしたお嬢様。
私の口調が変わったのを、フレンドリーな感じになったと感じて、協力してくれると思ったのか、張り詰めた表情が少し緩んだみたいだ。
……でも、ざ~んね~ん……。
「……この件に関わるのは、辞退させていただきます」
「え?」
私の返事が予想外だったのか、目を見開いて驚いた様子の、お嬢様。
ふたりの護衛も、驚いているみたいだな。
……いや、どうしてこんな厄介事を、無関係の私がふたつ返事で引き受けるなんて思えるんだよ!
「ど、どうして……」
「いや、だって、他国の貴族間の揉め事に巻き込まれれば、私と母国にとって大きな被害が出るかもしれないじゃないの! 下手すると、私が全責任を取らされて打ち首だよっ!」
「い、いえ、さすがにこの国も他国の貴族にそのような真似は……」
「この国じゃないよ! 帰国後に、私の母国で『他国と揉め事を起こして、国交に多大な悪影響をもたらした』ってことで処罰される、って言ってるの!」
「あ……」
砕けた口調に変えたのは、こういう台詞を言うためだ。
丁寧語で罵倒するのは、難しいからねぇ……。
別に、親密さを増すためじゃない。
「貴様! お嬢様に対して、何という無礼な口の利き方かっ!
子爵家の娘の分際で……。
黙って、お嬢様に従え!!」
護衛のひとりが、いきなり吠え始めたぞ。
……ほほぅ。
ほほぅ……。
「あなたの国では、貴族は配下の者の教育もできないの?」
「なっ……」
「雇い主の娘が、他国の貴族と大事な話をしているというのに、交渉の内容には無関係の護衛が勝手に話に割り込んで、相手を侮辱して、恫喝。
それを止めることもできず、謝罪もしない。
……つまり、これはあなたが、話が上手く行かなかった場合にはそう言うようにと命じていたか、あなたよりこの護衛の方が偉い、っていうことだよね?
それも、他国の貴族を怒鳴りつけて高圧的に命令できるくらいお偉い、と……。
この方、侯爵様? それとも、公爵様かな?」
「……あ、いえ、決してそういうわけでは……」
お嬢様が、慌ててそう言ったけれど……。
いや、もう遅いよ。
護衛が喋り終えるまで止めもせず、そして私が反論するまで、何も言わなかった時点でね。
「じゃあ、どういうわけだったのかな?
どうして、すぐに護衛を叱ってその言葉を否定しなかったの?
これじゃあ、護衛の言葉が私に効くのを期待して反応を待っていた、と取られても仕方ないよね。
他国の貴族の護衛如きに命令されて、それを受けたなどということが国元に知られれば、私は祖国の貴族の立場と名誉を貶めた恥さらしだと弾劾され、貴族の資格なしとして国外追放、いや、斬首刑かな?
それは嫌だから、もう、私はあなた方には絶対に協力できなくなっちゃいましたね。
その、皆さんの中で一番お偉いらしい、護衛の方の命令のせいで……」
「あう……」
お嬢様が悲痛な声を漏らし、護衛のふたりは蒼白。
片方は何も言っていないけれど、相方の行動を止めなかったし、私が護衛の個別認識なんかせずに『レリスデル伯爵家の護衛がやったこと』としか認識しないであろうことは当然分かるだろう。
……つまり、護衛のふたりは一蓮托生、ってことだ。
「そもそも、他国の貴族に頼み事をしに行くのに、護衛の者と打ち合わせをして行動指針を決めておく、という初歩的なことすらしていないとは……。
そして、他国の貴族に対する最低限の礼儀すら弁えていない者を同行させる。
……初めから、私を馬鹿にしていましたよね、ミレイシャ・ド・レリスデル伯爵令嬢?」
「ううっ……」
お嬢様……ミレイシャ嬢は、もはや半泣き状態。
間もなく、全泣きになるだろうな……。
「……そこまで!」
ああっ、サビーネちゃんの『そこまで!』が出たよ!
「姉様、苛め過ぎ!
……どうせ、アレなくせに……」
うん、まあ、そうなんだけどね……。
サビーネちゃんに、分からないはずがないよね。
私が、そんなのを見過ごすはずがない、ってコトを……。
そして、この後のこっちの優位性を保つために、言葉をボカしてくれた。
私が引き受ける気満々だと知れば、向こうが強気になる可能性があるからねぇ。
うむ、さすがサビーネちゃん。
さすサビ!!




