448 お嬢様からの依頼 4
「あ、そうそう、ひとつ言っておきたいんだけど……」
「は、はひ……」
だいぶピヨってるなぁ、ミレイシャ嬢……。
「私、子爵家の娘だけど、子爵の娘じゃないからね?」
「……え?」
うん、意味が分かっていないみたいだな。
「つまり、私はヤマノ子爵の娘じゃなくて、爵位貴族、ヤマノ女子爵本人、ってこと!
……子爵家の娘ではあるけれど、子爵の娘じゃない、ってことだよ」
「……え?」
「「えええ?」」
「「「えええええええ〜〜っっ!!」」」
まあ、驚くか……。
ミレイシャ嬢とは国が違うから、私とは貴族としての直接の上下関係はないけれど、伯爵令嬢である自分の方が、子爵令嬢である私より格上だと思っていたのだろう。
でも、実際には、伯爵家の者ではあるけれど自身は無爵、ただ貴族の娘であるというだけのミレイシャ嬢と、子爵家ではあるけれど爵位貴族本人である、私。
明らかに、私の方が格上だ。
……向こうの親が出てこない限りは。
このネタは、後に取っておいても良かったけれど、味方同士になるのなら、正直に言っておいた方がいいと思ったのだ。
味方、それも利害関係的に絶対に裏切られる心配のない者には、大したことのない隠し事は、しない方がいいからね。相手からの信用を得るためには。
……勿論、大事なことは教えない。当たり前だよね。
それと、わざわざ過剰なまでにマウントを取ったのは、アレだ。
上下関係をハッキリさせておかないと、これから先、私がやることにいちいち文句を言われたり反対されたり、そしておかしなことを強要されたりしては堪らないからだ。
護衛に怒鳴りつけられたり脅されたりするのも嫌だしね。
だから、決定権を持っているのは私の方だということ、そして護衛は自分の任務以外のことには口出しするな、って釘を刺しておいたわけだ。
……まあ、そういうわけで、作戦開始!!
* *
「では、とりあえず、敵の同定と攻撃を受ける理由を確認しようか」
「……え? は、はい……」
ミレイシャ嬢が、きょとんとした顔をしている。
……うん、まあ、さっきまでの話では、完全に拒絶、って流れだったものねぇ……。
話の急展開に、とまどうのも無理はないか。
でも、しっかりと食い付いてきた。
理由は分からなくとも、状況が好転したということは理解したらしい。
好機は絶対逃さない。
それが、淑女の嗜みだ、うむ。
「ミレイシャ嬢は他国からの留学生だから、知り合いが全くいない場所にいきなり放り込まれたわけだよね。他のみんなは、既に知り合い同士になっている中へ……。
でも、それは状況的に当然のことだし、それがミレイシャ嬢を攻撃する理由にはならないよね。
この国の貴族女性にとっても、将来の他国との交流を考えれば、仲良くなっておいた方がメリットが多いから。
……なのに、なぜ陰湿な攻撃が加えられるのか……。
ミレイシャ嬢、既に自国の王太子殿下と婚約していたりは?」
「と、ととと、とんでもないですわ! そんな、畏れ多い……。
そりゃ、王族と婚約できる可能性はありますが、それは第四王子殿下とか、王弟殿下の御子息とかのお話ですわ。それも、確率はかなり低いですわよ。
私程度ですと、公爵家か侯爵家の三男か四男あたりと婚約できれば上出来、というところですわよ……」
ぷるぷるぷる、と首を横に振る、ミレイシャ嬢。
まあ、男子がいなくて自分が爵位を継ぐ長女でもなければ、侯爵家以上の子息と婚約できる令嬢は少ないか……。
伯爵家か子爵家あたりの跡取りと婚約できれば大勝利、ってところかな。
それもあって、少しでも自分の価値を上げるための留学なのだろうなぁ。
「まだ、婚約者はいないのか……。
それじゃあ、ミレイシャ嬢の婚約者を狙った自国のライバル令嬢の手の者が、って可能性はないか……。
そして、この国の令嬢が、自分の婚約者に手出しするミレイシャ嬢を排除するため、という線も薄いとなると……」
うん、こういう時には……。
「サビーネちゃん、お願い!」
そう、困った時のサビーネちゃん頼み、だ。
「う~ん、もう……。しょうがないなぁ、ミツ太くんは……」
呆れ顔のサビーネちゃんだけど、何やかや言いながらも、いつも何とかしてくれるんだよねぇ。
……さすサビ!
「まず、ミレイシャは『陥れようとされている』というだけで、直接危害を加えられたり、命を狙われたりしているわけじゃないよね?
普通、何かの都合でミレイシャが邪魔だとか存在が危険だとかなら、さっさと殺すよね?
裏の組織の者を雇えば、ナイフでひと刺し、弓矢で狙撃、馬車の事故に見せかけて、毒物の使用、その他諸々で、国から連れて来た僅かな人数の護衛しかいない無力な少女なんて、簡単に排除できるのだから……」
サビーネちゃんの怖い説明に、顔色が悪くなっているミレイシャ嬢。
……うん、無理もない。そりゃ、怖いわ……。
「敵対行為をされながら、身体的には手出しされていない。
それには、3つの理由が考えられるよね?
ひとつ、そこまでやるつもりはない。……犯人に、そこまでの勇気はない場合。
ふたつ、ミレイシャにそこまでするだけの価値がない、もしくは興味がなく、どうでもいいと考えている場合。
……みっつ、ミレイシャに直接危害が加えられるのは、自分にとって都合が悪いという場合……」
「なる程! さすがサビーネちゃん。さすサビ!!」
ふふん、と無い胸を反らせてドヤ顔のサビーネちゃん。
そして、ここに至ってようやくサビーネちゃんがここにいる意味を、そして私とサビーネちゃんの力関係を悟ったらしきミレイシャ嬢が、目を見開いてサビーネちゃんを見詰めている。
まあ、サビーネちゃんはミレイシャ嬢のことを呼び捨てにしているもんね。私は、『ミレイシャ嬢』って呼んでいるのに……。
私の方が年下に見えるし、まだお友達というわけじゃないから、『ちゃん呼び』とかはできないし、こっちがマウントを取る必要性から、『様呼び』もできないからね。
でも、サビーネちゃんはここでは最年少なのに、ミレイシャ嬢のことは呼び捨てだ。私のことは、姉様と呼んでいるのに……。
そして、私はサビーネちゃんの呼び捨てを窘めたりはしていない。
更に、私の外見は、明らかにサビーネちゃんとは異なっている。
平たい顔の平民っぽい私と違って、サビーネちゃんは高貴なお方オーラを放出しているし、普段着だけど着ている服のモノの良さから、下級貴族なんかじゃないということは丸分かりだ。
……それを見れば、きちんと教育を受けた令嬢であれば、色々と察してくれるだろう。
高貴なお方と、その友人である、少し年上の下級貴族。
正妃の娘と、仲の良い、異国から嫁いだ側妃か愛人の娘。
私とサビーネちゃんの関係は、色々と想像できるだろう。
そして、決してソレを口に出して確認したりしちゃいけないということも……。
……まあ、とにかく、サビーネちゃんが『機嫌を損ねちゃ駄目なやつ』だということは、理解してくれただろう。
「それで、今回のはその3つのケースのうち、どれになるの? 動機と、犯人の目星は?」
うん、それを聞かなくちゃあ、始まらない。
私とミレイシャ嬢の、期待に満ちた視線がサビーネちゃんに注がれて……。
「……それは、自分で調査してよ」
「あ、やっぱり?」
いくら天才小悪魔サビーネちゃんでも、情報量が少なければどうしようもないか……。




