11話 ギギギ
「はぁああ!? 投射機を壊すだって?」
スリィードの大口と大声。
クナイシィとリンファムも驚き、目を見開いている。
「ああ、衛星アスサイルにある電磁式投射機をぶち壊す」
ガイサがこともなげに答えた。
「そんなことして許されるわけが無いだろう!」
「仕方ねーだろ、浄化の技術を手に入れるためだ。それに」
「投射機を壊すことを決めたのには、ちゃんと理由があるよ」
ガイサの言葉に繋げるカランディ。
博士も繋げる。
「そもそも投射機は軍のものでは無い。宇宙開発局ものだぞ。もっと言えばアクスリアのものとすら言えまいて。宇宙開発は、今は無き大国ハウズールやイルクードとの共同で始めたことであり、国は無くなったが、その国の科学者が今もアスサイルで働いている」
「ああ、そうね。ほんとそうだわ」
リンファムの驚きながらも納得した顔。
「宇宙開発に携わる者が、投射機を兵器として使用するという考えに嫌悪を抱いているのは有名な話じゃ。大昔の空想科学小説による風評被害じゃな。アクスリアの勝手で投射機の兵器転用など簡単には出来るわけがない」
「いや、使うか使わないかじゃねーだろ。投射機の存在は敵国に対して……」
スリィートが割って入る。
「脅しとなっていると言いたいのかね?」
苦笑気味に答える博士。
投射機を兵器として使わずとも、存在するだけで意味を成しているということはクナイシィにもわかる。誰もが本来の使用目的では無いことを承知しているにも関わらず、兵器としての脅威を見出して恐れてしまうのだ。
「ああ、敵国の不用意な侵攻を許さないための、やっと手に入れた念願の抑止力だろ。それをこわすなんてとんでもない」
「昔は核兵器が抑止力と言われていたのにな」
スリィードの言葉に呼応し、クナイシィが左下に視線を落としながら小さくつぶやいた。
「核と違いアクスリアが一方的に持っている強大な力じゃな。しかしそれがどうにも強過ぎるようでな」
「強過ぎる?」
スリィードの疑問。眉間にしわが寄る。
それにはカランディが答えた。
「トルアーリ連合は、実質ツァンクアスが実権を握っている。ツァンクアスの粗暴な国のありように対して僕たちが昔から嫌悪感を抱いているように、トルアーリやシルクークスでもツァンクアスを支持するような人は、決して多くはない。あくまでも地勢の不利や、貿易関係上の判断でツァンクアスと結び、僕たちの敵となっただけなんだ」
「トルアーリは突然の農地壊滅による絶望的な食糧難で、ツァンクアスの言いなりにならざるを得なかったという話を私は聞いたわ」
リンファムが胸元で組んだ手の右手人差し指を振って言う。
「だからこの戦争にも積極的ではないし、終わりにしようという動きもあるとトルアーリの科学者とのやりとりで聞いたんだ。そしてその勢力はどうしても投射機の存在が問題にされて突き上げられ、沈黙せざるを得ないということもね」
「頭の上から一方的に攻撃出来る脅しをかけられているんじゃ、それは大きな重圧を感じて不愉快じゃろうて」
「不愉快はやがて嫌悪や憎悪に変わる。投射機はそういう存在なんだよ」
博士の言葉に、カランディが上目気味に首を傾げて言い放った。
「しかし、投射機が無くなったのをいいことに、敵国に侵攻されたらどうするんだよ」
「おいおい、あんたは少し前に、敵国は無人機に勝てないと言ってただろ」
ガイサが苦笑しながら、スリィードに指摘した。
「まあ不安になるのは仕方ない。絶対など無いのじゃからな。しかし投射機の兵器転用に対する反発が強いのは政府も理解しているから、別のことも考えてあるんじゃよ」
「あー、確か博士言ってましたね、アスサイルにも無人機の工場があるって」
「さすがおリンちゃん。そう、アスサイルの表側に無人機の工場がある。万が一の場合などに、アスサイルから無人機の詰め合わせを送り込めるようにするという計画で作られた工場じゃ。そして私がここでしたように、完全に自律化させた。アスサイルの工場も自律化した無人機に守られる。そしてこちらの無人機全体に何か不都合が生じた場合に、上から無人機が送られるようになっておる」
「そこまでしてるんですか」
さすがにクナイシィも驚いた。
「ちゃんと角度とかも考えてあると言ったじゃろ。そしてその動きがあれば上の連中も降下して対応することを考えるじゃろう、領土を守るためにな」
「う~ん、でもそういう話以前に、投射機が無ければ宇宙居住地の建設が困るんじゃないんですか?」
リンファムの高い声が通る。
「ああそうか、知らぬのか。今現在投射機が使われていないということを」
博士が驚いた顔を上げた後、納得した様子で何度も下ろした。
「え、使われてないんですか? だって居住地用の建材はアスサイルで作っていますよね」
「今は投射機は使われていない。何故なら、今はとにかく宇宙居住地の建造を急ぐことが最優先されているからじゃよ」
そう首を振りながら言い、続ける博士。
「アスサイルの重力はアスシアの1/3。そして昔と違い、常時重量軽減装置や、瞬間斥力発生装置がある。いちいち投射機まで運んで設置する手間を省いて、建造の速度を上げているんじゃ。動力資源には別段困ってはいないしのう」
「だから投射機が無くなっても、ことさら困ることは無いのさ。浄化の技術を得る為と言われれば、開発者も投射機の破壊に反対はしないだろう。聞くことは出来ないけどな」
ガイサが両手を広げながら言い、更に言葉を続ける。
「で、壊すのを始めようとしていたんだが、ちょっと困ったことになってな。思案しているところへお前さん、クナイシィが現れてくれたからここへ招待したのよ」
そして一息吸って、ゆっくりと真剣なまなざしで聞く。
「投射機の破壊を手伝ってくれないか、クナイシィ」
聞きながら視線を落とし、右手で口を掴んで考え込むクナイシィ。
「さっさと決断せんか、時間が無いんじゃぞ。若いくせにそんなに頭が回らんのか。少しはおリンちゃんを見習え「おを付けるのやめてください」
リンファムの声。
博士が苛立ちながら更に続ける。
「敵国も宇宙へ行く技術が全く無いわけではないぞ。黙って投射機に怯え続けるだけではない。そしてアクスリアも投射機だけでは無く、宇宙から敵国へ攻撃する手段はいかようにも取れる。しかし、今現在はこちらも攻撃する気など無いのだから、敵国を幾ばくか安心させて、そしてその引き換えに浄化の技術を手にするのが一番良い選択だと思わぬか?」
ひとしきりの静寂。
「わかった。投射機の破壊に協力する」
「本気かクナイシィ!」
スリィードの大声。
「ああ、本気だ。やっぱり俺は浄化の技術が必要だと思うし、投射機を破壊しても失うものはほとんどない。そう理解したのだから、俺が役に立つのなら協力する」
クナイシィは、ゆっくりとハッキリと答えた。
「投射機の破壊だなんて、完全に国家反逆罪で死刑だぞ」
「大丈夫、ばれることはないよ。君たちはしばらく通路に閉じ込められた後、解放されて帰ってきたということにすればいい」
「う~ん」
カランディの言葉にも、スリィードは逡巡をやめられないようだった。
「でもどうやって?」
リンファムの疑問はクナイシィの疑問でもある。
クナイシィは相対する三人の顔を見回した。
にやにやとしながら話し出すガイサ。
「ここから、アスサイルにあるタルートを操縦するんだよ」
指を上に向けて振りながら言う、その言葉に驚くクナイシィ。
スリィードがハッとした顔で喋り出した。
「遠隔操縦のタルートか。去年だったか少し話題になって、俺はてっきり乗らずに戦えるようになるのかと思っていたのに、そのうち何も聞かなくなっちまったんだが」
「遠隔操縦の兵器は戦場では使えんよ。執拗な電波妨害をされて、どう変更しようが遠隔操縦を出来なくされてしまう。光無線通信を飛行船経由で使用する手もあるが、結局は飛行船のぶつけ合いになるだけじゃろうしな。技術力の高い相手には使えんのじゃよ、遠隔操縦の兵器は」
博士の言うことはクナイシィも一応知っていた。遠隔操縦は戦場以外でしか使えないのだ。
「使えないのに、なんでそんなもの作ったんだ?」
「僕が頼んだんだ。人が近づけない場所で使える、新しい遠隔操縦の重機が欲しいってね。近くの壊れた発電所は封印したけど、遠方とはいえまだ放置されたままの壊れた発電所がいくつもある。そこでより細かな作業が出来る重機が欲しかったんだ。上は全然聞いてくれなかったけど、博士が間に入ってとりなしてくれたんだ」
カランディが答え、博士も続く。
「タルートはいろいろな作業にも使えて便利じゃからな。君らが上へ行けば大量のタルートが残されるわけだし、簡単な改造で作れるのだから許可するべきだと掛け合ったんじゃ。タルートは汚染に対して充分に対策されているが、遠隔操縦出来るならより安全性を得られる。国を思う若者に感心して協力したんじゃが、おかげで助かったわい」
「何が助かったんです?」
リンファムの問いに、博士が右手人差し指を顔の前で振りながら言う。
「この塔は人が近づけないような汚染物質を遠ざける為の、重機の遠隔操作などを行うために使われてきた塔であり、遠隔操縦のタルートもここで試験された。だから今後ここからがれきの粉砕撤去などにも利用出来るよう、タルートの操縦装置が設置してあるんじゃ」
「とりあえず3機分ある。それを使って、ここからアスサイルにあるタルートを操縦するのさ」
ガイサが繋ぎ、腕を組みながら続けた。
「俺一人で投射機を破壊出来るはずだったんだよ。だけど、とんでもなく頭の回る賢い人が上にいたんだ」
「実働の軍隊はほぼ全てこちらにいるから、上にいるのは司令官や退役軍人。だから彼一人でも投射機の破壊が出来るはずだったんじゃ」
「ところが、アスサイルの無人機工場の自律化から10分も経たず、タルート6機が駆けつけて来やがった」
「タルートが6機も」
驚くクナイシィ。
「私もいろいろと考えていたが、ここまで素早く対応されるとは思っていなかった。許されない角度じゃよ」
「誰が来たと思う? アクスリアの超煌神と言われていた、ジャウル大佐だよ」
ガイサの言葉に更に驚くクナイシィ。タルート乗りでジャウル大佐を知らぬ者はいないという程の存在であった。歴戦の勇者なのだ。驚きながらも納得しつつ答える。
「一昨年くらいに体調不良を理由に退役したと聞いていたけど、宇宙にいても感が鋭いんだな、歳もいってるはずなのに」
「しかも、大佐の率いる全機が新型の大型宇宙用推進器を付けていてな。今は無人機相手に間を開けたり閉じたりして様子を見ているようだが、遠隔操縦のタルートを起動すれば、国民識別帯の発信が無いから敵と認識されて無人機は強警戒になる。そうなれば彼らに気づかれるのは必至。推進器の差で追いつかれるのも明白だ。だから困っていたんじゃよ」
ため息を吐く博士。
「俺が囮として盾になる。クナイシィが逃げ切って投射機を破壊してくれ。それがここへ、お前さんを招待した俺とカランディの願いだ」
ガイサとカランディの視線がクナイシィの瞳に刺さった。
クナイシィは、しばし眼を瞑ったあと、息を吐きながら見開いて言う。
「ああ、わかったよ。協力する」
「タルートの武装はそのままなの?」
リンファムの素朴な疑問。
「ああ、宇宙で使えるように上げたばかりで、宇宙用の制御噴射機を背負っただけじゃからな。弾も抜かれていたが全部詰め直した。無人機はもはや私にも制御出来ないが、工場内の多椀作業機械は制御出来る。タルートの操縦席にも採石に使う爆薬を詰め込んで、準備は万端じゃよ」
親指を突き出して言う博士。
「じゃ、行くぞ」
ガイサに促されて、操縦装置のある別室へ移動することになった。博士は残って宇宙居住地とアスサイル周辺の動向の監視を続けるということで残る。
「あんたか、姉ちゃんにも協力して欲しいんだがな。3席あるし」
出口に向かいながら、ガイサがスリィードとリンファムに声を投げる。
「わ、私はタルートの操縦は苦手だから……」
「う~ん、俺もいまいち腹が決まらんなー」
「おリンちゃんはここへ残って私の補佐をして欲しいんじゃが」
「え、……はい、いいですよ」
リンファムは残り、ガイサ、カランディ、クナイシィ、スリィードが別室へ移動した。
広い別室にはいくつもの操縦装置が設置してあり、奥の左にタルートの操縦席そのままのものが3機分連ねてあった。
スリィードの方をちらりと見るガイサ。
「わかったよ。俺もやるよ。盾になればいいんだろ?」
「ああ、戦闘する必要はない。クナイシィが逃げ切れるようにすればいいだけだ。同胞と戦闘なんて俺だってごめんだ」
席に着く三人。
「遠隔操縦のタルートは全部で7機ある。宇宙でも無人での作業の方が、安全を確保出来て良いだろうということで持ち込まれたばかりなのさ。どれでも好きなのを選んでくれ、博士に爆薬を詰めてもらう」
「これ、複数を同時に操縦出来ないのか?」
「は?」
クナイシィの問いに驚くガイサ。
「この操縦装置一つで、同時に複数のタルートを操縦出来ないかと聞いてるんだ。多い方が安心出来るだろ」
「おいおい、そんなの無理だろ。子供の頃のおもちゃは同じ周波数だと混信して「ギギギ」となって動かなかったぞ。固まったかと思えば突然前進したりして、手に負えなかった」
大げさに歯を食いしばって混信の表現をするスリィード。それはクナイシィにもすぐに思い出せた。無線操縦のおもちゃの車が混信すると、前輪の操舵部が引きつったように痙攣したり、前後に暴走して、足に当たって痛かった思い出がある。
「それは昔の話だし、おもちゃだからだろ。出来ますよね博士」
少しにやけながら博士に問う。
「ああ、出来るぞ。出来るようになった。確か農薬散布のために、送信機一つで一度に多数の回転翼機を制御したいということで開発されたと記憶しているな。簡単な自律滞空もその時に開発されたから憶えておるよ」
「ほらな、昔は不可能と言われてたことも、案外ちょっとしたことで可能になってたりするんだから、頭固いと損するぞ」
笑って言うクナイシィに、スリィードは唇を突き出しながらも納得したようだった。
博士の操作する多椀作業機によって、全てのタルートの操縦席に採石に使う爆薬が詰め込まれた。これを投射機の基部でタルートごと爆発させることになる。
「じゃあ、始めるよ。防御波の発生と接触で、多数の無人機がこっちへ来るから、無駄なく急いでね」
カランディが落ち着いた声で静かに言った。
起動するアスサイルにある遠隔操縦用のタルート。1機づつ操作して外に出し、それぞれが複数機を同期させることになる。
「俺が3機動かす。ガイサとスリィードは2機づつ動かしてくれ」
「はいよ」
クナイシィの言葉にガイサが答えながら、同期する機体を選択した。
「個別への切り替えは僕がやるよ。番号を言ってくれれば切り替える。番号はそっちの画面にも出ているから確認して」
カランディが全体を管理する機械台を操作して言った。
「よし、急ぐぞ。無人機が何機もすっ飛んでくるが、工場外へ離れて間を閉じれば深追いしてくることは無い。急いで投射機の根本へ行こう」
ガイサがそう言い終えた後、ハッとした顔で続ける。
「そうそう、重要なことを言い忘れてた。ここから光無線通信を使って飛行船経由で成層圏の飛行船までつなぎ、最終的にアスサイルのタルートを動かすんだが、さすがにわずかながらの操作遅延がある。そして、アスサイルの重力はここの1/3だ。それを頭に叩きこんで操縦してくれ」
「こんなに曇っているのに光無線が通じるのか?」
「おいおい、光無線が雲や雨に弱いなんて昔の話だろ、頭固いと損するぞ」
ガイサが笑いながらクナイシィに答える。
「推力とか跳躍力は違和感ないように調整されているから大丈夫だよ。でも滞空時間は違ってくるからね。あと地面が細かい砂で滑りやすいから注意して」
カランディが付け足した。
移動を始める三人。動かされる7機のタルート。
走行と跳躍を繰り返しながらしばらく進む。
「機体に合わせて操縦席が動かないから、なんとも変な感じだぜ。一番最初の基礎訓練を思い出すな」
スリィードの言葉に顔がほころぶクナイシィ。
「大佐たちのタルートが来るわ! 2分後に間が開く!」
リンファムの叫びが通信を通して響いた。
張り詰める空気。
クナイシィはうつむきながら目を閉じ、大きく息を吸った後、ゆっくりと吐き出しながら上目を開け小声で独りごちた。
「負けないよ」
あと2、3話で強引に終わります。
11月以内に終わる予定です(※予定です)




