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03.出会い

バス停から徒歩3分で、三崎高校へ到着した。都会から少し離れた場所に位置するが、特別に大きいわけではない。「学校説明会」の案内は、学生の昇降口からではなく、来客用入口から入るように書き示されていた。案内通り入り、来客用のスリッパに履き替える。既に結希の私服姿は好機の目、警戒の目で注目を浴びている。何も悪いことはしていないので、堂々と壁に張られた案内に従い、体育館に向かう。途中、教員と思われる者に、声をかけられそうになったが、無視をしていく。こちらは奇抜な髪型や服装はしていない。学校説明会には制服で出席と言う案内もない。

 体育館、正確にはそのうちの柔道場へ着くと、既に多くの生徒が列を成して、体育座りしていた。体育の教員と思われる男が前で威嚇するように厳しい視線を生徒に投げていた。「始めますので、空いてる列の後ろに並んで座ってください」と女性教員が誰へとも無く、叫んでいる。言われた通りに適当に座る。近くの者からは腫物のように避けられ、遠くの者からは好機・警戒の目と言う、ドーナツ化現象が起きた。ジャージ姿は居たが、流石に私服は見当たらない。



 説明と言うのは入学式当日の流れと用品の配布だった。用品の中には制服や柔道着、リコーダなどが含まれていた。結局、説明会は2時間もせずに終わった。説明会とは名ばかりで、配布物の郵送料金を浮かせる為の学校の策略だった。前で威嚇していた体育教員が終わりのようなことを言ったので、徐々に賑やかになって来た。それを狙って直ぐに立ち去ろうとしたが、体育教員に声をかけられた。

「おい、どうして私服なんだ?」

「制服がないからです。説明会案内にも服装の指定はありませんでした」

「それは学校に連絡済みか?」

「いえ、していません」

「なんでしてないんだ?服装の確認くらい、常識だろう」

最初、思いの外丁寧な受け答えしていた結希に対し、僅かな戸惑いを見せたが体育教員は直ぐに立て直して難癖をつけてきた。面倒な学生生活再スタートか。有効な対応方法を逡巡していると、尚も体育教員は質問してくる。

「名前は?」

「月岡 結希です」

「中学は?」

「区立双葉第一中学です」

「聞いたことないな。区立なのに何で制服がないんだ。おい、ちょっと持物を見せろ」

制服がない理由、夜間高校出身であることを説明すれば、少しは理解してもらえるかと思ったが、カモとして嬲りたいのか、体育教員は荷物検査をしようとする。煙草やナイフといった問題になるようなものは持っていないが、恐らく携帯電話の電源が入っていることで、また難癖をつけるだろう。攻勢に出ることにする。…と思った時、若い女性教員が割って入ってくる。

「竹田先生、お電話ですよ。教頭先生が竹田先生をすぐに連れてくるよう、言われまして…」

嫌な眼でじろりと結希を一瞥した後、小声で「ありがとうございます」と女性教員に礼を言って去って行った。恐らく、この女性教員は助けてくれたのだろう。だが、確信が持てず、相手の第一声を待つ。

「貴方が月岡くんね。私は数学を担当している吉沢です。よろしくね」

「…なぜ、僕の名前を?」

「貴方の経歴は職員室では有名よ。竹田先生は覚えてなかったみたいだけど」

学校側には願書を出している。当然、自分のような異色の経歴は、早くも問題児としての対応を考えているのだろう。

「では僕はこれで失礼します」

何かを言いかけながらも、吉沢先生は、「では、また学校でね」と返答あったことを確認し、軽く会釈して場を離れる。何故、決まり文句のように、みんな別れ際に"次"を表す「また」というのだろうか。



 足早に学校を出て、バス停へ向かう。但し、最寄りのバス停ではなく、一つ前のバス停へ。これ以上面倒は嫌な為、最寄りは避ける。元々、目立つ事は嫌いなのだ。登校時のバスの通り道を考え、この先にバス停があるだろうと言う道を進んだ。登り坂で、大きなカーブになっているが、これを越えると直ぐにバス停が見えた。1人、女子学生が立っていた。恐らく同じく説明会に参加した学生だろう。1人位、仕方ないと思いながら近づくと、何か違和感を感じた。確かに感じながらも、微々たるものなので、気にしないことにした。彼女の隣に、少し距離をおいてベンチに座ってバスを待った。気を紛らわそうと、音楽プレイヤーを取り出す為、カバンを漁っていると、不意に声をかけられる。

「あの…三崎高校の説明会に出てたよね?」

やっぱり目立ってたか。

「…そうだけど?」

目が合った。可愛いと思った。整った顔立ちに、スラリとしなやかな肢体。身長168cmの結希よりかは低いが、平均女子よりかはやや高い。黒い目が印象的だった。

「えっと…私服、目立ってたよ?」

「そうだろうね。自覚くらいはある」

「そうだよね…」

彼女との会話を楽しむという気にはならないが、つい続けてしまった。

「怖いか?」

「えっ?」

「社会ってのは目立つ異物を恐怖して叩くんだよ」

「そんなつもりじゃないよ。ただ何か理由があるんだろうなぁって。ごめんね、初対面で聞くことじゃないよね」

自分の出身を明かそうかと思った。結希は学園生活の中で、自分の高校中退歴は隠さず、但し自分から言わないというスタイルでいこうと決めていた。

「したくてしてるわけじゃないよ」

「うん、そうだよね、ごめんね」

彼女がそう言うと、彼女の後ろの先からバスがやって来るのが見えた。

彼女からバスに乗り込むと、一番後ろの席へ真っ直ぐ向った。車内には誰も乗っていないが、結希は人に席を譲るのも億劫なので、結局出口付近の掴み棒に寄り掛かるようにして立つことにした。直ぐに隣のバス停に着き、あっという間に人混みになった。音楽を聴きながら、ボーッと外を眺めていた。



 地元に着いてもまだ空は高かった。地元と言っても高級住宅街のある最寄り駅ではなく、その隣の商店街が栄えている駅で降りた。メールで呼び出しを受けたからだ。真っ直ぐにゲームセンターへ向かう。入口を入り、そのまま2階へ上がる。そこには岳のお気に入りの格闘ゲームがあるからだ。案の定、そこでガチャガチャやってる学生がいる。着くとこちらをちらりと見て「今、良いところだからちょっと待ってくれ」と言われたので、適当な返事を返す。一回100円で数分のゲーム。10分粘って時給600円か…


もう1人の幼馴染の悪友、雨森(アマモリ) (ガク)。俺のアパートの隣の一軒家に住んでいる。小学校初登校の時、家の前でばったり鉢合わせた記憶がある。その後、舞程では無いが度々クラスメイトになり、悪縁が続いている。

見た目も性格も俺とは対象的で、硬い髪質のツンツン頭で、やや浅黒い。性格も目立つ事が好きで、大雑把。成績は体育は非常に優秀だが、その分座学は残念。顔は(俺と同じで)悪くない。


「待たせたな」

「どうせバイトまで待つからな」

「何時からだ?」

「19時」

「茶店でも行くか」

この流れからすると、特に用はないのだろう。時間の合間に駄弁る。中学を卒業すると疎遠になるものかと思ったが、意外と続いている。そしてこいつとならこの駄弁りも悪くない。もっとも茶店の一杯が懐に痛いが、そこは目を瞑ろう。

その後、茶店に入り、暫く取り止めもないことをダラダラ話す。やはり私服で都立高校はバカにされた。

その後、時間になったのを合図に、俺はバイトへ向った。ここでも最後に「またな」と言う言葉が使われた。



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