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第34話:聖夜の「24時間連続取引」開始! 深夜の仮想ダイブと、朝焼けの監査(デート)!

1. 12月24日 00:00:マーケット・オープン


「……いいか高坂。ついに、人類史上最も過酷な24時間が幕を開けた。時刻は午前零時。日付が変わり、お前という『超限定・聖夜アセット』の取引が開始オープンされたぞ。……準備はいいか? お前の精神サーバーが焼き切れるのが先か、太陽が昇るのが先か……地獄の『連結決済』の始まりだ」


2026年、12月24日、午前零時ちょうど。

静まり返った俺の自室。俺、高坂優人は、特製のヘッドセットを装着し、リクライニングチェアに深く身を沈めていた。スマホのスピーカーからは、監視ルーム(自宅)で大量のモニターに囲まれているであろう親友・佐藤の、戦場カメラマンのような緊張感に満ちた声が響く。


「……分かってる。まずはミアのセクターだな。……脳内のキャッシュを空にして、全帯域を彼女に開放するよ」


「よし。通信安定。……これより、第1セクター『仮想・聖夜ダイブ』を執行する。……グッドラック、高坂。お前の意識が、無事に現実世界(朝の部)へ帰還することを祈る」


【市場速報】

12月24日、午前零時。聖夜相場、正式に寄り付き。第1セクター・如月ミアによる「意識の独占的買収」が開始されました。物理法則を無視した『感情のオーバークロック』に、全投資家が注目しています。


2. 00:00 〜 06:00:【ミア・セクター】仮想空間の「完全独占」


視界が真っ白な光に包まれ、次の瞬間、俺は「現実」ではない場所に立っていた。

そこは、雪が降りしきる静寂の森。中央には、クリスタルのように輝く巨大なクリスマスツリーがそびえ立ち、空には現実ではありえないほど巨大な月が浮かんでいる。


「……ログイン確認。……ようこそ、優人。私の『プライベート・サーバー』へ」


目の前に現れた如月ミアは、いつもの制服ではなく、白銀の糸で編まれたような幻想的なドレスを纏っていた。彼女の瞳は、仮想空間の光を反射して、吸い込まれるほどに深く、青く澄んでいる。


「ミア……。ここ、お前が作ったのか?」


「ええ。……現実のクリスマスは、ノイズが多すぎる。……ここには、私とあなたの二人しか存在しない。……誰の介入も、0.01%の確率すら許さない、私の『聖域サンクチュアリ』よ」


ミアは俺の手に触れた。仮想空間のはずなのに、彼女の指先の冷たさと、そこから伝わる確かな熱量が、現実よりも生々しく脳に直接書き込まれる。


「……優人。この6時間、あなたの視覚、聴覚、触覚……全ての『入出力(アクセス権)』を私に預けて。……あなたの魂を、私のプログラムと完全に同期マージさせるわ。……もう、逃がさない」


ミアは俺を引き寄せ、静かに唇を重ねた。

情報の奔流が脳内を駆け抜ける。彼女が俺に対して抱いている、計算不可能なほど膨大な「好き」というデータが、言葉を介さずに直接俺の心にダウンロードされていく。

雪の森、二人の影、そして終わらないキス。

現実世界の1秒を1時間へと引き延ばした「愛の加速世界」で、俺はミアという名の底なしのデレに、深く、深く沈んでいった。


3. 06:30:強制切断と現実への「再上場」


「……っ!!」


意識が急激に浮上し、俺は自分の部屋で目を覚ました。時計は午前6時30分。

ミアのセクターが終了し、俺の意識が物理的な肉体へと「強制返還デリスト」されたのだ。


「……はぁ、はぁ。……何だったんだ、あの情報量は。……脳が、愛の過剰摂取でパンクしそうだ……」


「……生還おめでとう、高坂。バイタルチェック正常。だが、感傷に浸っている暇はないぞ。……外を見ろ。第2セクターの『執行官』が、すでに校門前で待機している」


佐藤の言葉通り、俺はすぐさま着替え、凍てつく朝の空気の中へと飛び出した。

向かった先は、まだ誰もいない、静寂に包まれた「八重洲学園」。


4. 07:00 〜 12:00:【アリス・セクター】朝焼けの「監査デート」


学園の正門。

薄い粉雪が舞う朝焼けの中、凛とした姿で立っていたのは、四宮アリスだった。

彼女はシックなグレーのコートに、深紅のマフラーを丁寧に巻き、冷たい空気で鼻の先を少し赤くしている。


「……3分52秒の遅刻よ、高坂くん。……私の管理帳簿スケジュールに、最初の『不備』が記録されたわ」


アリスは厳格な声を出すが、その瞳は、俺の姿を見た瞬間に隠しきれない歓喜で揺れていた。


「……ごめん、アリス。ミアのセクターが、あまりに密度が濃くてさ」


「……如月さんのことは、聞きたくないわ。……今は、私の時間よ。……さあ、行きましょう。生徒会室を、本日の『特別査定会場』として押さえてあるわ」


誰もいない校舎。俺たちの足音だけが廊下に響く。

生徒会室に入ると、そこには淹れたてのコーヒーの香りと、アリスが用意した「一年間の二人の思い出」が綴られた分厚いファイルが置かれていた。


「……これは?」


「……今年一年、あなたが私に与えた『幸福』と、私があなたに返した『利回り(愛情)』の総決算よ。……高坂くん。……二人きりで、私たちの『資産(絆)』がどれほど成長したか、一つずつ精査レビューしていきましょう」


アリスは俺の隣に座り、ファイルを広げた。

中間テスト、文化祭、体育祭、修学旅行。

彼女の細かな文字で、その時々の彼女の揺れ動く感情が、データとしてではなく「少女の独白」として記されている。


「……ここ、文化祭のところ。……『彼に抱きしめられた時、私の心臓の時価総額は測定不能になった』……。アリス、お前、こんなこと書いてたのか」


「っ……! 見、見ないで! ……いいえ、見なさい! これが私の『真実の財務諸表』よ! ……高坂くん、私は……あなたとの未来を、最も合理的で、最も幸せな形で『ガチホ(永久保有)』したいと思っているわ……っ」


アリスは真っ赤な顔で、俺の腕を力一杯抱きしめた。

規律と正論で固めた彼女の心が、クリスマスの朝の光の中で、優しく解けていく。

「監査」という名の、あまりにも甘すぎる告白。

俺はアリスの温もりを感じながら、24時間マラソンのまだ半分も終わっていない事実に、幸福な絶望インフレを感じていた。


5. エピローグ:12:00 午後の「暴騰」へのカウントダウン


アリスとの密度の高い「決算デート」が終わり、時計の針は正午を指した。

生徒会室の窓の外には、神宮寺財閥が手配したであろう、黄金色のヘリコプターが爆音を立てて接近してくるのが見える。


「……お時間よ、高坂くん。……第3セクターの『女王』が、お迎えに来たわ」

アリスが少し寂しげに、けれど満足げに微笑み、俺のネクタイを整える。


「……ああ。行ってくるよ。……メリークリスマス、アリス」


俺は、次なる戦場……神宮寺カレンが支配する「究極のラグジュアリー・マーケット」へと足を踏み出す。


【最終リポート:12:00時点】

第1・第2セクター、無事終了。高坂優人の精神力、残存50%。……しかし、午後の部「カレンの資本力」と「ひまりの最終攻勢」は、これまでの倍以上の『デレの圧力』が予想されます。……生き延びろ、高坂!


(第34話・完)


おまけ:本日の市場ニュース


如月ミア: ダイブ終了後、優人の意識データの一部を「観賞用」としてこっそりバックアップ。自分の脳内で無限リピート再生して悦に浸っている。


四宮アリス: 優人がファイルを読み上げるたびに心拍数が急上昇。実はファイルの最後の方には「婚姻届」が挟まっていたが、出す勇気がなくて断念した。


橘ひまり: 午後の「ひまりセクター」に向けて、実家のキッチンで唐揚げを300個揚げて待機中。気合が入りすぎて、町内会に「美味しそうな匂いのバイオテロ」が発生。


神宮寺カレン: ヘリコプターの中で、優人に着せるための「本物の王子様の衣装」を広げて、予行演習中。


佐藤: 二人のデートを遠隔監視しながら、「聖夜のカップル動態調査」という名目でデータを売り捌き、一晩で銀座のビルが買える利益を上げた。

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