第137話:巨大資本の「超絶TOB(株式公開買付)」! 神宮寺カレンの貸切クルーズと、女王の無防備な素顔!
1. 16:00:ピッチ・シーズンの最高潮と「資本の暴力」の顕現
「いいか高坂、よく聞け! アリスの『論理』、ひまりの『日常』、くるみの『奇襲』、ミアの『仮想と現実』……! これら四つの強烈なプレゼン(IR)を浴びたお前の理性は、すでに限界(ストップ安寸前)まで削り取られているはずだ! だが、今日の金曜日は……これまでの小手先の戦術をすべて札束で叩き潰す、学園最大の巨大資本が動くぞ!」
金曜日の放課後。
俺、高坂優人がインカムから響く親友・佐藤の警告を聞きながら下駄箱を抜け、学園の正門へ向かおうとした時だった。
「インキュベーション(受験特訓)の時もそうだったが、神宮寺カレンのやり方は常に『圧倒的な資本の暴力』だ! お前を力でねじ伏せ、他の選択肢をすべて物理的に消し去る『超絶TOB(敵対的買収)』を仕掛けてくるぞ! 気をつけろ高坂、ハングリー精神を忘れるな!!」
佐藤が叫び終わるより早く、学園の正門前に信じられない光景が広がった。
校舎の出口から正門にかけて、真っ赤な絨毯が敷き詰められており、その両脇には黒スーツにサングラス姿のSPたちがズラリと並んでいたのだ。
「……遅いわよ、優人くん。私の『絶対的買収計画』の時間が押してしまうわ」
レッドカーペットの先。
漆黒の超高級リムジンの前で、真紅のイブニングドレスの上に最高級のファーコートを羽織った神宮寺カレンが、黄金の扇子を揺らしながら微笑んでいた。
ただの放課後であるはずの学園が、一瞬にしてハリウッドの授賞式(超絶VIP市場)へと変貌している。
「カ、カレン……お前、学校にレッドカーペットって……」
「エスコートしなさい、優人くん。さあ、私たちが聖夜を過ごす『至高の市場』へ向かうわよ」
有無を言わさぬ女王の威圧感。
周囲の生徒たちが唖然として道を空ける中、俺はSPたちに背中を押されるようにして、カレンの待つリムジンへと飲み込まれていった。
2. 17:30:東京湾の「完全非公開市場(貸切クルーズ)」
リムジンが向かった先は、東京湾のプライベート・マリーナだった。
そこに停泊していたのは、小さなボートなどではない。何百人も乗れるような、巨大で豪華な三層構造のクルーズ船だった。
「カレン、まさか……これに乗るのか?」
「ええ。今日の夕方から明日の朝まで、このクルーズ船と乗組員、すべてを神宮寺グループで『借り切り(テイク・プライベート)』にしたわ。……これが、私のクリスマス・プランよ」
俺たちはタラップを登り、最上階のオープンデッキへと案内された。
そこには、俺とカレンの二人だけのために用意されたフルコースのディナーテーブルがあり、少し離れた場所では、プロの弦楽四重奏団が優雅なクラシックを静かに奏でている。
「アリスさんのスケジュールも、ひまりさんの家庭料理も素晴らしいと思うわ。でも、聖夜という特別な相場において、最も確実なリターンを生むのは『誰も立ち入れない絶対的な非日常』よ」
カレンはグラスに注がれたノンアルコールのシャンパンを掲げ、妖艶に微笑んだ。
「予約の取れないレストランも、人混みのイルミネーションも関係ない。東京湾という広大な海の上で、最高の料理と音楽を、あなたと私だけで独占する。……これが、巨大資本にしかできない『絶対的勝利の事業計画』よ」
夜風が心地よく吹き抜け、遠くには東京の美しい夜景が広がっている。
完璧すぎる。圧倒的すぎる。
カレンの財力が生み出したこの「究極のVIP空間」は、俺という一介の男子高校生の理性を、いとも簡単に溶かし尽くすほどの破壊力を持っていた。
3. 18:30:資本主義の限界と、女王の「インフレ(価値下落)」
豪華なディナーが進み、デザートが運ばれてきた頃。
弦楽四重奏団がロマンチックな曲を奏でる中、カレンはふと、扇子をテーブルに置き、東京の夜景を見つめた。
「……カレン? どうかしたか?」
俺が尋ねると、彼女は静かに首を振り、そして……弦楽四重奏団と給仕たちに向かって、小さく手を振って「退室」のサインを出した。
スタッフたちが一礼してデッキから去り、広大なクルーズ船の屋上には、本当に俺とカレンの二人きりになった。
波の音と、遠くの街の光だけが残る空間。
「……ねえ、優人くん」
カレンが、ぽつりと呟いた。
その声は、先ほどまでの「絶対女王」としての自信に満ちたものではなく、どこか心細く、震えていた。
「私のプレゼン……すごかったでしょう?」
「ああ。本当にすごかった。俺の人生で、こんなすごい経験、二度とできないと思う」
俺が正直に答えると、カレンは自嘲するように小さく笑った。
「そうよね。お金の力って、すごいのよ。……でもね。今のあなたの目は、この豪華な船にも、高級な料理にも……本当の意味では『眩んでいない』って、私には分かるわ」
カレンはゆっくりと立ち上がり、俺の座る椅子のそばまで歩み寄ってきた。
「あなたが、自力でT大模試のA判定を勝ち取ったあの日。……私は確信したの。あなたはもう、私が与える『お金(資本)』なんてなくても、自分の足でどこへでも行ける男(優良銘柄)になってしまったんだって」
彼女の潤んだ瞳が、俺を真っ直ぐに見つめる。
「船を貸し切っても、オーケストラを呼んでも……私の『資本力』は、もうあなたを縛り付ける鎖にはならない。……私の持つ最大のアセット(強み)が、あなたの中ではどんどんインフレ(価値下落)を起こしている。……それが、すごく……怖いのよ」
4. 19:00:無防備な素顔と「剥き出しの純情(アナログ投資)」
巨大財閥の令嬢が、自分の存在意義そのものである「財力」の無力さを嘆き、たった一人の男の前で震えている。
彼女が本当に欲しかったのは、俺を圧倒することではなく、俺に「自分自身」を必要としてもらうことだったのだ。
「……バカだな、カレンは」
俺は椅子から立ち上がり、震えるカレンの華奢な肩を、俺の腕の中にすっぽりと抱き寄せた。
「ひっ……!? ゆ、優人くん……?」
「俺がお前の資本力に眩んでないのは、俺が成長したからじゃない。……最初から、そんなものどうでもよかったからだ」
俺はカレンの金色の髪を優しく撫でた。
「船を貸し切ろうが、高級フレンチを食べようが……俺が一番見ているのは、俺のために一生懸命プランを考えてくれた『お前自身』だよ。……あの時お前が作ってくれた、少し焦げた卵焼きの方が、この船のディナーよりも何倍も、俺の心に刺さってる」
俺の言葉に、カレンは大きく目を見開き……そして、みるみるうちに顔を真っ赤に染め上げ、俺の胸のコートを両手でギュッと握りしめた。
「……っ……もう! あなたって人は……本当に、私の計算をことごとく狂わせる、憎たらしい男(不良銘柄)よ……っ!」
カレンは俺の胸の中でモゴモゴと照れ隠しをした後、ふいに顔を上げ、涙目でありながらも、最高に妖艶で、そして一人の少女としての「剥き出しの独占欲」に満ちた笑顔を浮かべた。
「……言質、完全に受け取ったわ。私の資本力じゃなくて、私自身を評価してくれるのよね? ……なら、私のプレゼン……『資本を介さない、私自身の価値』を、今ここで証明してあげる」
5. 19:15:貸切デッキの「先行投資(ゼロ距離決済)」
カレンの熱い吐息が、俺の唇に触れる。
「クリスマスの日の『本番』の前借り……今ここで、私に『全額投資』しなさい」
東京湾のど真ん中に浮かぶ、巨大クルーズ船の屋上という完全非公開市場(密室)。
カレンの柔らかく、熱を帯びた唇が、俺の唇にピタリと重なり合った。
それは、普段の女王としてのプライドをすべて脱ぎ捨てたような、不器用で、情熱的で、俺のすべてを絡め取るような、甘く深い「先行決済」だった。
高級な香水の香りと、彼女の全身から伝わる「絶対に私を選んで」という圧倒的な執念が、俺の理性の防衛線を粉々に打ち砕いていく。
財力なんて関係ない。ただの「神宮寺カレン」という一人の女の子からの、重すぎるほどの愛情。俺は彼女の細い腰を強く抱き寄せ、この「究極の現物出資」の配当を、全力で受け止めた。
ゆっくりと唇が離れた後、カレンは俺の胸元で荒い息を吐きながら、とろけるような至福の笑みを浮かべた。
「……決済、完了。……優人くん、クリスマスの日……絶対に、私(の市場)を選びなさいよ?」
6. エピローグ:最後の黒船、そして決断の時へ
「――おい高坂! 生きているか!!」
カレンとのクルーズ船プレゼンを終え、リムジンでアパートまで送り返された俺のインカムに、佐藤の絶叫が響き渡った。
「東京湾沖合のデレ指数が、先ほどから国家予算レベルのストップ高を記録していたぞ! まさかあの絶対女王……『クルーズ船貸切』という資本の暴力を見せつけた後、『お金じゃ縛れない恐怖と涙』という最強のギャップをさらし、さらに『デッキ密室での前借り決済』までキメてきやがったな!?」
「……ああ。佐藤、カレンの涙とキス、どんな高級なプレゼントよりも俺の心臓に効いたよ。俺、もうクリスマスの日はカレンのヒモ(専属パートナー)として一生養われたい……」
俺が疲労と究極の幸福感に浸りながら呟くと、佐藤はさらに声を張り上げた。
「骨抜きになっている場合か高坂! アリスの『論理』、ひまりの『日常』、くるみの『奇襲』、ミアの『仮想』、そしてカレンの『資本』! これで国内の五大資本のプレゼンはすべて終了した!」
佐藤の声が、極限の緊張を帯びる。
「明日、土曜日……ピッチ・シーズンの大トリを飾るのは、規格外の外資系ブラックシップ、オリビア・サマーズだ! 彼女は『日本(国内市場)』という枠組みそのものを破壊する、世界規模のクリスマス・プランを提示してくるはずだ! お前の理性が、国境を越えた愛のプレゼンに耐えられるか!?」
クリスマス・イブ(第150話直前)に向けた、六大資本による「血みどろのプレゼン(プロキシー・ファイト)」。
絶対女王の裸の心を全身に浴びた俺の心は、明日、いよいよ最後の一人……外資系女王による「グローバル・プレゼン」へと突入していくのだった。
(第137話・完)
本日の市場ニュース(個別ピックアップ:神宮寺カレン編)
神宮寺カレンの時価総額: 聖夜のIR第5陣として登場。東京湾の大型クルーズ船を貸し切るという「圧倒的資本の暴力」を実行。しかしその後、「お金では高坂を繋ぎ止められない」という不安と涙を露呈させ、デッキでの「資本を介さない物理的密着(濃厚なキス)」という反則技(先行投資)をキメて、特大のストップ高を記録。
佐藤のアナリスト・レポート: 「最強の資本を見せつけた後で、資本の無力さを嘆き、一人の少女としての愛を乞う。女王のプライドをかなぐり捨てたこのギャップは、破壊力抜群のIR(投資勧誘)活動である。クルーズ船での『先行決済』は、投資家(高坂)の判断基準を『純粋な庇護欲』へと完全にシフトさせる最強のインセンティブ設計であった」
高坂優人の現在の状況: 船上での密着と香水の香りに完全に毒され、理性がメルトダウン。「……俺、クリスマスはカレンのためだけに生きる男になりたい」と目的がすり替わる重度の『巨大資本(女王)完全依存症』を絶賛発症中。明日のオリビアの「外資プレゼン」に向けて、心の国境線を再構築しようと足掻いている。




