第129話:巨大資本の「圧倒的VIP学習(ハイエンド・インキュベーション)」! 神宮寺カレンのスイートルームと、女王の隠された努力!
1. 16:00:市場価値向上プログラム・第5陣の「資本の暴力」
「いいか高坂、よく聞け! アリスの規律、ひまりのインフラ、くるみの奇襲、ミアの情報を乗り越え、いよいよ平日最後の金曜日だ! お前の心身は一週間の特訓(という名のデレの過剰摂取)により、すでに疲労困憊(ストップ安寸前)のはずだ!」
金曜日の放課後。
俺、高坂優人が、重い足取りで学園の正門を出ようとした時、インカムから親友・佐藤の緊迫した声が響き渡った。
「だが、今日の担当は学園最大の巨大資本、神宮寺カレンだ! 彼女はアリスやひまりのように、自分自身でお前に勉強を教えるような地味な真似はしない。彼女の武器は『圧倒的な財力』! お前の疲労を瞬時に回復させ、最高効率で知識を叩き込むための『究極のVIP学習環境』を金に糸目をつけずに用意してくるぞ! 気をつけろ高坂、ハングリー精神(野心)を忘れるなよ!」
佐藤の警告が終わるか終わらないかのタイミングで、俺の目の前に、漆黒の超高級リムジンが音もなく滑り込んできた。
運転席から黒スーツの運転手が降りてきて、後部座席のドアをうやうやしく開ける。
「……遅いわよ、優人くん。私の『プライベート・スタディルーム』の予約時間が過ぎてしまうわ。さあ、乗りなさい」
後部座席で優雅に黄金の扇子を揺らしていたのは、神宮寺カレンだった。
「カレン……。スタディルームって、まさかこのリムジンで……」
「リムジンはただの送迎車よ。私たちの向かう『市場(勉強部屋)』は、ここから車で15分の場所にあるわ」
有無を言わさぬ女王の圧力に屈し、俺はリムジンに乗り込んだ。
ふかふかのレザーシートと、車内に漂うカレンの高級香水の匂い。すでにこの時点で、俺のハングリー精神は半分ほど溶けかかっていた。
2. 16:30:超高級ホテルの「スイートルーム(完全非公開市場)」
リムジンが横付けされたのは、都内でも最高ランクの五つ星ホテルだった。
最上階のペントハウス。専用のキーカードでしか入れない「プレジデンシャル・スイート」の扉が開かれた瞬間、俺はあまりの豪華さに息を呑んだ。
広大なリビング、東京の絶景を一望できる巨大な窓、そして中央に置かれた、アンティーク調の最高級マホガニー材のデスク。
「……カレン。これ、勉強部屋っていうスケールじゃないだろ。一泊いくらするんだよ……」
「気にする必要はないわ。このホテルは神宮寺グループの傘下だから、最上階は私の『自室』のようなものよ」
カレンはコートを脱ぎ、俺をマホガニーのデスクへと案内した。
「さあ、座りなさい。今日のあなたの担当講師は……私ではなく、彼らよ」
カレンが指を鳴らすと、隣の部屋から三人の初老の男性が現れた。
「えっ……誰?」
「T大の元教授で、現在は神宮寺財閥のシンクタンクで顧問を務めている『T大受験の神様』たちよ。各教科の出題傾向、採点基準、すべてを知り尽くした最強の頭脳を、今日の3時間だけ、特別にあなたのために『買収』したわ」
「はああ!?」
俺は度肝を抜かれた。
アリスの真面目な指導とも、ミアのデータ解析とも違う。文字通りの「資本の暴力」による、圧倒的なチート(インサイダー)学習環境。
俺は三人の元教授たちに囲まれ、息つく暇もなく、T大レベルの超難問の解説をマンツーマン(3対1)で浴びせられることになった。
3. 19:30:資本主義の限界と、女王の「手料理(アナログ投資)」
3時間後。
元教授たちが「素晴らしい吸収力だ。これなら合格は間違いないでしょう」と太鼓判を押して退室した後、俺はデスクの上で完全に燃え尽き、灰になっていた。
「……終わった。俺の脳みそ、もう一文字も入らない……」
「お疲れ様、優人くん。素晴らしい集中力だったわ。私の『投資』に見事に応えてくれたわね」
カレンが俺の隣に座り、労うように俺の肩をポンポンと叩いた。
彼女から漂う香水の香りが、疲労した脳に心地よく染み渡る。
「……でもカレン。こんなすごい先生たちを用意してくれて感謝してるけど……これじゃ、俺の『自力で受かる』っていう決意が、カレンの財力に乗っかってるだけみたいで……」
俺が少し自嘲気味に呟いた、その時だった。
「……そう言うと思って、ちゃんと『私自身の力(アナログ投資)』も用意しておいたわ」
カレンは立ち上がり、スイートルームに併設されているキッチンへと向かった。
そして、ルームサービスのワゴンに乗せて運んできたのは……。
「……これ、おにぎり……と、卵焼き?」
銀色のクロッシュ(蓋)を開けて現れたのは、高級フレンチのコース料理などではなく、形が少し不格好な「おにぎり」と、少し焦げ目のついた「卵焼き」だった。
「……専属シェフは呼んでいないわ。私が、昨日から何度も練習して……作ったの。夜食(エネルギー補給)に、どうかしら」
カレンは扇子で顔の下半分を隠していたが、その耳まで真っ赤に染まっているのがはっきりと分かった。
あの神宮寺カレンが。世界中の最高級料理をいつでも食べられる財閥の令嬢が。俺の夜食のために、エプロンをつけて、不格好なおにぎりを手作りしたのだ。
「カレン……お前……」
「ひ、ひまりさんみたいに上手にはできなかったけれど……。でも、あなたを応援したい気持ちは、絶対に誰にも負けないわ。……ほら、冷めないうちに」
カレンはフォークで卵焼きを刺し、俺の口元へと運んできた。
俺は一口食べ、その不器用で、少し塩っぱい、けれど恐ろしく温かい味に、胸が熱くなるのを感じた。
「……美味い。世界中のどんな高級料理よりも、美味いよ」
俺の言葉に、カレンはパァッと顔を輝かせ、嬉しそうに微笑んだ。
4. 20:00:スイートルームの「完全買収(ゼロ距離決済)」
食事を終え、東京の夜景を見下ろす窓際のソファーに並んで座る俺たち。
「……ねえ、優人くん」
カレンが、ぽつりと呟いた。
彼女の瞳には、昼間の「絶対女王」としての余裕はなく、一人の恋する少女としての、切実な不安が揺れていた。
「あなたが『自力でT大に行く』って宣言した時……本当は、すごく怖かったの」
「怖い?」
「だって、あなたが一人で成長(上場)してしまったら……私の『お金』や『権力』なんて、あなたを繋ぎ止める理由にならなくなってしまうでしょう?」
カレンの細い指先が、俺の制服の袖をギュッと強く握りしめる。
「……私には、お金しかないって、ずっと思っていた。でも、あなたが欲しているのは、そんなものじゃないって気づいたから……だから、おにぎりを作ったの。……こんな不器用な私でも、あなたの『隣』にいる資格……あるかしら?」
それは、すべてを持っているはずの巨大資本が、たった一人の男の前で見せた、究極の「弱さ(ファンダメンタルズの露呈)」だった。
「……バカだな、カレンは」
俺はソファーの上で、カレンの華奢な肩を抱き寄せ、俺の腕の中にすっぽりと閉じ込めた。
「ひっ……!? ゆ、優人くん……?」
「俺がT大を目指すのは、お前のお金に頼りたくないからじゃない。……お前みたいな最高にイイ女の隣に立っても、恥ずかしくない男になりたかったからだ」
俺はカレンの金色の髪を優しく撫でた。
「お前のお金や権力なんて、最初からどうでもいい。俺は、俺のために一生懸命おにぎりを作ってくれる『神宮寺カレン』っていう、少し不器用で、最高に可愛い女の子が……心の底から好きなんだ」
俺の言葉に、カレンは大きく目を見開き……そして、みるみるうちに顔を真っ赤に染め上げ、俺の胸に顔をうずめてきた。
「……っ……もう! あなたって人は……本当に、私の計算をことごとく狂わせる、最高の不良銘柄(男)よ……っ!」
カレンは俺の胸の中でモゴモゴと照れ隠しをした後、ふいに顔を上げ、妖艶で、しかし最高に幸せそうな女王の笑顔を浮かべた。
「……言質、完全に受け取ったわ。……ねえ、優人くん。今日の『VIP学習』の授業料……まだ払ってもらってないわよね?」
カレンの熱い吐息が、俺の唇に触れる。
「私のこの莫大な『投資(愛情)』……あなたの身体で、全額決済しなさい」
東京の夜景を見下ろす、完全防音のスイートルーム。
最高級の香水の香りと共に、カレンの柔らかく、熱を帯びた唇が、俺の唇を完全に塞いだ。
それは、圧倒的な資本の力ではなく、一人の等身大の少女としての、不器用で、情熱的で、深すぎる愛情の奔流だった。俺は無意識のうちに彼女の細い腰を強く抱き寄せ、その莫大なデレの配当を、全力で受け止めた。
ゆっくりと唇が離れた後、カレンは俺の胸元で、とろけるような至福の笑みを浮かべた。
「……決済(M&A)、完了。……優人くん、絶対にT大に受かりなさいよ。そして、一生私の隣で……私を甘やかしてよね」
5. エピローグ:最後の黒船、そして週末の「決戦」へ
「――おい高坂! 生きているか!!」
リムジンでアパートまで送ってもらった帰り道、俺のインカムから佐藤の絶叫が響き渡った。
「五つ星ホテルのスイートルーム周辺の『デレ指数』が、先ほどから国家予算レベルのストップ高を記録していたぞ! まさかあの絶対女王……『T大元教授の買収』という資本の暴力を見せつけた後、手作りおにぎりという『究極のアナログ投資』と『密室スイートでのゼロ距離決済』のコンボをキメてきやがったな!?」
「……ああ。佐藤、カレンの不器用な愛情って、どんな高級フレンチよりも心臓に効くよ。俺、T大に受かったらカレンを一生おんぶして生きていくかもしれない……」
俺が疲労と究極の幸福感に浸りながら呟くと、佐藤はさらに声を張り上げた。
「骨抜きになっている場合か高坂! アリス、ひまり、くるみ、ミア、そしてカレンを乗り越えたお前を明日待ち受けているのは……インキュベーション・プログラムのオオトリ! 規格外の外資系ブラックシップ、オリビア・サマーズだ!」
佐藤の声が、極限の緊張を帯びる。
「土曜日……休日のフルタイムを使って、あの外資系女王が『日本の受験(ドメスティックな市場)』の常識をすべて破壊する、規格外のグローバル・インキュベーションを仕掛けてくるぞ! 圧倒的なスケールの前で、お前の理性が持つかどうか……明日は世界規模の決戦だ!」
卒業(第150話)に向けた、六大資本による「インキュベーション(受験勉強)プログラム」。
自立を誓った俺の戦いは、理性の限界を突破し続けながら、ついに最後の「外資の領域」へと突入していくのだった。
(第129話・完)
本日の市場ニュース(個別ピックアップ:神宮寺カレン編)
神宮寺カレンの時価総額: インキュベーション・プログラムの第5陣として登場。T大元教授を買収するという圧倒的な「資本の暴力」を見せつけた後、手作りおにぎりという「不器用なアナログ投資」を披露。スイートルームでの「ゼロ距離決済」により、高坂の理性を完全に掌握し、特大のストップ高を記録した。
佐藤のアナリスト・レポート: 「すべてをお金で解決できる女王が、あえて自分の手で不器用なおにぎりを握った時、その破壊力はいかなる巨大資本をも凌駕する。スイートルームの密室で交わされた『一生のパートナー契約』は、投資家(高坂)の自己肯定感を宇宙の果てまで押し上げる究極のM&Aであった」
高坂優人の現在の状況: スイートルームでの甘すぎる密着と、不器用なおにぎりの味により、脳内CPUが完全にメルトダウン。「……俺、T大に受かったらカレンの専属ヒモ(?)兼パートナーとして一生を捧げるわ」と目的が完全に書き換わる重度の『巨大資本(女王)完全依存型デレ障害』を絶賛発症中。明日のオリビアの「外資の暴力」に向けて、システム(体力)の再起動が急がれる。




