第111話:協定締結後の「タイムシェア(分割独占)」! 神宮寺カレンのプライベート・クルーズと、女王の甘い休日(オフ・マーケット)!
1. 10:00:祭りの後と、新たな「市場ルール(輪番制)」の導入
「いいか高坂、よく聞け。昨日の文化祭における六大資本の『合同カルテル(シンジケート)』結成は、確かにお前の精神が完全にデフォルト(破綻)するのを防ぐための緊急避難的措置だった。だが、マーケットの歴史が証明している通り、複数の巨大資本が一生仲良く手をつないで共同運営を続けるなど、絶対に不可能なんだよ!」
文化祭の翌日、振替休日で静まり返った俺の部屋。
ベッドの上で泥のように眠っていた俺、高坂優人の耳に、スマホのスピーカーから親友・佐藤の熱い解説が響き渡った。
「あの後、お前が白目を剥いて気絶寸前になったのを見て、彼女たちは緊急の『ステークホルダー会議』を開いた。そこで導き出された結論……それは、お前という超優良アセットの価値をこれ以上毀損させないための、『タイムシェア(輪番制による個別独占)』協定だ!」
「タ、タイムシェア……?」
「そうだ! 競合を避けるため、曜日や時間帯ごとに一人ずつ『完全な独占交渉権』を与えるという、恐るべき平和協定だよ! 複数人で囲むからお前がオーバーヒートする。ならば、一人ずつ順番に、誰の邪魔も入らない状態で心ゆくまで『個別事業』を展開しようというわけだ!」
佐藤の言葉に、俺は嫌な汗をかきながら跳ね起きた。
つまり、昨日のような地獄の六方向同時ホールドは回避されたものの、その分「一人ひとりの極限まで濃密な愛」を、順番に真正面から受け止めなければならないということだ。
「そして高坂……記念すべき第一回『個別独占取引日』の権利を、圧倒的な資金力で真っ先に競り落としたのは……窓の外を見てみろ!」
佐藤に言われるがまま、俺がアパートの窓のカーテンをシャーッと開けた、まさにその瞬間だった。
「――おはよう、優人くん。私との『専属契約日』に、寝坊なんて感心しないわね」
窓の外の道路に横付けされていたのは、漆黒の流線型が美しい、ロールス・ロイスの最高級オープンカー。
その後部座席から、大きなつばの女優帽と、海辺のセレブのような清楚でエレガントな白いサマードレスに身を包んだ神宮寺カレンが、優雅に微笑みかけていた。
2. 11:30:絶対女王の「貸切市場」
「さあ、乗りなさい優人くん。今日のあなたのスケジュール(上場予定)は、秒単位で私が完全に買い取っているわ」
カレンのエスコート(という名の強引な連行)により、俺はそのまま東京湾のプライベート・マリーナへと連れ出された。
そこに停泊していたのは、見たこともないほど巨大で豪華な、神宮寺財閥所有の流線型メガ・クルーザーだった。
「カレン……。個別でデートって聞いてたけど、いきなりクルーザー貸し切りって規模がおかしくないか? 俺たち、一応ただの高校生なんだけど……」
「ただの高校生? 冗談でしょう。あなたは私のポートフォリオにおいて、世界のどんな巨大企業よりも重い『筆頭資産』よ。そんなあなたを、その辺のファミレスや映画館のような『大衆市場』に上場させるわけにはいかないわ。……今日はこの海全体が、私とあなただけの『非公開市場』よ」
カレンはふわりとドレスの裾を揺らしながら、クルーザーの最上階デッキへと俺を導いた。
船が滑るようにマリーナを出港し、大海原へと進み出す。見渡す限りの青い海と空。デッキには最高級のソファと、ノンアルコールのシャンパンが冷やされたクーラーボックスが用意されている。船長やスタッフの姿はどこにも見当たらず(完全に自動操縦か、あるいは徹底して気配を消しているのだろう)、文字通り「世界に二人きり」の錯覚に陥るほどの完璧な空間が構築されていた。
「どう? 優人くん。アリスさんやひまりさんのような、チマチマとした駆け引きなんて必要ない。私の資本力があれば、こうやって物理的に『誰の手も届かない場所』を創り出せるのよ」
潮風に吹かれながら、カレンはグラスを片手に誇らしげに微笑む。
だが、その瞳の奥には、いつもの「絶対女王」としての余裕だけでなく、どこか柔らかく、そして切実な色が混ざっているように見えた。
3. 14:00:オフ・マーケットの「本音」
しばらく海風を浴びながら談笑していたが、やがてカレンはグラスを置き、俺の隣にピタリと腰を下ろした。
カレンから漂う、ハイブランドの香水と、彼女自身の甘い匂いが、潮風の香りを塗り替えて俺の嗅覚を支配していく。
「……ねえ、優人くん」
カレンは突然、俺の肩にコトン、と自分の頭を預けてきた。
いつもの堂々とした態度は鳴りを潜め、まるで甘えん坊の猫のように、俺の腕にすり寄ってくる。
「カレン……?」
「昨日の文化祭、本当はすごく……すごく悔しかったのよ。あなたを六等分して、みんなで仲良くパレードだなんて。私の神宮寺という名にかけて、欲しいものは全て独占してきたのに。……あなたというたった一人の男の子の心が、どうしても私の資本力だけじゃ完全に買い占められない」
カレンの細い指が、俺の制服の袖をギュッと強く握りしめる。
その手は、世界の経済を動かす令嬢のものとは思えないほど、小さくて、微かに震えていた。
「お金で買えるものなら、何だってあげるわ。このクルーザーも、夜景の見えるタワーマンションも、一生遊んで暮らせるだけの配当金も。……でも、そんなものであなたが私を好きになってくれないことくらい、本当は分かっているの」
彼女はゆっくりと顔を上げ、至近距離で俺の瞳を見つめてきた。
大きな女優帽の下から覗くその瞳は、いつになく無防備で、潤んでいる。女王の仮面を完全に脱ぎ捨てた、一人の「恋する少女」としての本当の姿。
「私は……ただ、あなたの一番になりたいだけ。……他の女の子たちが持っているような『普通の可愛さ』とか『昔からの思い出』が私にはないから、お金や権力という不器用な手段でしか、あなたを縛り付けられないの。……こんな私、面倒くさいって……重たいって、思っているんでしょう?」
4. 16:00:夕暮れの「利益確定」と絶対的価値
カレンの絞り出すような本音に、俺の胸はギュッと強く締め付けられた。
神宮寺カレンという少女は、誰よりも強気で傲慢に見えるが、実は誰よりも純粋で、誰よりも真っ直ぐに俺のことだけを見ていてくれたのだ。
俺は無意識のうちに、俺の肩に顔を埋めている彼女の華奢な背中に腕を回し、その身体をしっかりと抱きしめた。
カレンの肩が、ビクッと跳ねる。
「……重たいなんて、一度も思ったことないよ。むしろ、俺なんかのためにそこまで一生懸命になってくれるお前のその気持ちが……すごく、嬉しいんだ」
俺の言葉に、カレンは信じられないものを見るように目を見開いた後、みるみるうちに顔を真っ赤に染め上げていった。
「お前は十分に可愛いし、誰よりも魅力的だ。……資本力とか権力とか、そんな飾りがなくたって、俺は神宮寺カレンっていう一人の女の子のことが……」
そこまで言いかけた瞬間、カレンは自ら俺の胸に飛び込み、俺の言葉を塞ぐように、その柔らかく熱い唇を、俺の唇へと重ね合わせてきた。
夕日が東京湾をオレンジ色に染め上げる中、クルーザーの最上階で交わされる、二人だけの完全な「相対取引」。
潮騒の音だけが響く空間で、カレンの全身から伝わってくる熱と、彼女の吐息の甘さが、俺の理性を完全に溶かし尽くしていく。どんな巨額の資本よりも重く、どんな契約書よりも確かな「愛」の質量が、そこにはあった。
ゆっくりと唇が離れた後、カレンは俺の胸元に顔を埋めたまま、嬉し涙を浮かべて最高の笑顔を見せた。
「……言質、しっかり取らせてもらったわよ、優人くん。……ああ、どうしよう。私の胸の奥のチャートが、完全にぶっ壊れちゃったみたい」
彼女は俺の首元に両腕を回し、甘く、そして誰よりも熱い声で囁いた。
「今日のこの特大の『利益(幸せ)』……絶対に、誰にも奪わせないんだから。……大好きよ、優人くん。私の持てるすべてを懸けて、一生あなたを幸せにしてあげる」
5. エピローグ:次なる「タイムシェア」の予告
「――おい高坂! クルーザーのドローン映像、完全に電波妨害されて見えなかったが、お前、まさかあの海上でカレンと『巨額の利益確定』を済ませたんじゃないだろうな!?」
インカムから、佐藤の焦燥しきった声が響く。
「カレンの『個別独占日』は、どうやら彼女の大勝利(ストップ高)で幕を閉じたようだな。……だが、忘れるなよ高坂。タイムシェアの協定はまだ始まったばかりだ。明日、明後日と、今度はお前を独占するために、他の五人が手薬煉を引いて待っているんだぞ! この『個別ピックアップ事業』は、全員のターンが終わるまでお前を絶対に逃がさない地獄のローテーションだ!」
夕闇に包まれていく海を見つめながら、俺は腕の中で幸せそうに微睡むカレンの髪を優しく撫でた。
六大カルテルによる「タイムシェア(分割独占)」という新たな市場ルール。
カレンが見せた、資本の鎧を脱ぎ捨てた圧倒的な純情に完全にノックアウトされた俺だが、明日からはまた別のベクトルを持った巨大な愛が、俺をピンポイントで狙い撃ちにしてくるのだ。
秋の爽やかな海風を受けながら、俺の狂乱に満ちた、しかし最高に幸せな「休日の個別市場」は、甘すぎる余韻を残して更けていくのだった。
(第111話・完)
本日の市場ニュース(個別ピックアップ:神宮寺カレン編)
神宮寺カレンの時価総額: タイムシェア協定のトップバッターとして、メガ・クルーザー貸し切りという「圧倒的非公開市場」を構築。二人きりの空間で「女王の仮面」を脱ぎ捨てた無防備なデレを炸裂させ、高坂の理性を単独で完全に掌握。ストップ高を悠々と更新した。
佐藤のアナリスト・レポート: 「合同カルテルから『個別事業』への戦略転換は、一人ひとりの破壊力を極限まで高める結果となった。お金で何でも買える女王が『あなたの心だけは買えない』と涙ぐむ姿は、どんな投資家(高坂)の防衛線も一撃で粉砕する究極の現物出資である」
高坂優人の現在の状況: カレンの甘い香りと、夕暮れの海での熱い感触が脳裏に焼き付いて離れず、精神が完全にメロメロ状態。「……明日からのローテーション、俺の心臓は最後まで保つんだろうか」と遠い目をする重度の『個別独占型デレ・オーバーフロー障害』を絶賛発症中。




