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第104話:三つ巴のデッドロックと新興市場の暗躍! 小悪魔後輩・七星くるみの時間外(インサイダー)取引!

1. 18:00:巨大資本の衝突による「流動性の枯渇」


「いいか高坂。マーケットにおいて、巨大な影響力を持つ三大セクター……神宮寺の『絶対資本』、四宮の『規制権力』、橘の『歴史的実績』が完全に真正面から衝突した場合、市場はどうなるか分かるか? ……答えは『デッドロック(取引停止)』だ。お前という唯一無二のアセット(資産)を巡り、買い注文と売り注文が完全に拮抗し、一歩も動けない流動性枯渇の地獄が生まれるんだよ!」


文化祭実行委員会の準備室。

俺、高坂優人は、口の中に幼馴染のひまりから放り込まれた生姜焼きを頬張ったまま、冷や汗を流していた。

右には、俺の腕をホールドして離さない風紀委員長・四宮アリス。

左には、タッパーを掲げて「次は卵焼きね」と微笑む橘ひまり。

そして正面には、ドアをぶち破って侵入し、俺の顎を撫でながら「この部屋ごと買い取るわ」と宣言する神宮寺カレン。


三人の美少女から放たれる「高坂優人を独占したい」という強烈なデレのオーラが、狭い準備室の空間を完全に歪ませている。インカムからは、ドローンで校舎外からこの地獄絵図を監視している親友・佐藤の、胃薬を噛み砕く音混じりの実況が響いていた。


「佐藤、助けてくれ……! 三人のプレッシャーで、部屋の酸素が物理的に薄くなってる気がするんだ! このままじゃ俺の精神がデフォルト(債務不履行)を起こす……!」


「耐えろ高坂! だが、マーケットの歴史が証明している通り、巨大資本が睨み合って硬直している時こそ、最も警戒すべき存在がいる。……巨象の足元をすり抜ける、『身軽な新興勢力ベンチャー』の奇襲だ!」


佐藤が叫んだ次の瞬間だった。

――バチンッ!

準備室の照明が、唐突に音を立てて落ちたのだ。


2. 暗闇の奇襲:七星くるみの「ステルス買収」


「な、何事!? 停電!?」

「神宮寺さん、あなたがまた何か強引な工作を……!」

「失礼ね! 私の資本なら、学園ごとイルミネーションで照らし上げるわよ!」


暗闇の中で三人が言い争いを始めた、まさにその一瞬の隙。

俺の制服の裾を、誰かの小さな手が「きゅっ」と力強く引いた。


「……こっちですわ、先輩」


耳元で、甘いバニラのような香りと共に、微かな囁き声が響いた。

その声の主が誰なのかを確認する間もなく、俺の身体は強引に暗闇の廊下へと引っ張り出された。三人の怒号が遠ざかり、俺の手を引く何者かは、迷いのない足取りで夜の校舎を駆け抜けていく。


そして、辿り着いたのは旧校舎の奥にある、埃っぽい体育用具室だった。

重い鉄扉が内側からガチャンと施錠され、俺たちは完全に外部から遮断された空間へと隔離された。


「……ふう。無事に『非公開市場プライベート・ルーム』への上場完了ですわ。お疲れ様でした、優人先輩」


窓から差し込む薄明かりに照らされて、不敵な笑みを浮かべていたのは、1年生の小悪魔的後輩・七星くるみだった。


3. 時間外取引オフアワーズ:小悪魔の青田買い


「くるみ!? お前、なんでここに……それに、さっきの停電は……」


「にひひ、簡単な『インサイダー工作』ですわ。お姉様たちが派手にやり合っている隙に、ブレーカーを少しだけイタズラさせてもらいましたの。……巨大な資本や権力は、動くたびに目立つからダメなんです。1年生の私の一番の武器は、誰にも予測されないこの『機動力ボラティリティ』ですからね」


くるみは誇らしげに胸を張ると、一歩、また一歩と俺の方へ近づいてくる。

狭い用具室の中で俺は後ずさり、やがて背中が跳び箱にぶつかってしまった。逃げ場を失った俺の真正面に、くるみがぴったりと密着してくる。


「……先輩。私、すっごくヤキモチ焼いちゃいました。お姉様たちばかりが先輩の時間を独占して、私の『持ち株比率』がどんどん下がっていくのを、黙って見ているとでも思いましたか?」


くるみの小さな両手が、俺の胸板にそっと添えられる。

制服越しでもはっきりと伝わってくる彼女の体温と、鼓動。普段は明るく飄々としている後輩が見せる、暗闇でのしっとりとした湿度を帯びた眼差しに、俺の心拍数は一気に跳ね上がった。


「く、くるみ……近いって。ここは埃っぽいし、そろそろ戻らないと大騒ぎに……」


「戻しませんわ。……巨大資本のお姉様たちにはできない、私だけの『時間外取引(密室での青田買い)』。……先輩、拒否権はありませんわよ」


4. 18:30:密室での「特別配当」と完全陥落


くるみはそう言うと、俺の胸に添えていた手をスルスルと滑らせ、俺の首元に腕を回してきた。

背伸びをして、彼女の柔らかい吐息が俺の耳たぶを直接撫でる。背筋に電流が走ったような感覚に襲われ、俺の理性の防衛線は音を立てて崩れ始めた。


「……先輩の鼓動、すごく早くなっていますわ。……これ、私に対する『期待値(ストップ高)』の表れですよね?」


暗闇の中、くるみの瞳だけが妖しく、そしてひたむきな熱を帯びて光っている。

彼女は俺の耳元から顔を離すと、今度は俺の顔を両手で包み込み、至近距離で見つめ合ってきた。


「……先輩。私、先輩のことが……誰よりも、誰よりも大好きです。だから、私のこの『好き』という莫大な投資を、絶対に損切りなんてさせないでくださいね」


甘えん坊の後輩という仮面を完全に脱ぎ捨てた、一人の少女としての痛いほどの純情。

言葉の端々に滲む、先輩を絶対に誰にも渡したくないという強烈な独占欲。

その圧倒的な「現物出資」を前に、俺の思考回路は完全にショートし、言葉を返すことすらできなくなってしまった。


「……優人先輩の心、私がまるごと『買収完了』ですわ」


くるみは満足そうに微笑むと、俺の胸にすっぽりと顔を埋め、ギュッと力強く抱きついてきた。

その華奢な身体のどこにこんな力があるのかと思うほど、彼女のホールドは絶対に離さないという強い意志に満ちていた。俺も無意識のうちに、彼女の小さな背中に腕を回し、バニラの甘い香りに包まれながら、その温もりを確かに受け止めていた。


――バンッ!!


その時、用具室の扉が外から激しく叩かれる音が響いた。


「優人くん! この中にいるのは分かっているわ! 鍵を開けなさい!」

カレンの激怒した声だ。続いてアリスとひまりの声も聞こえてくる。


「……っ! せ、先輩! お姉様たちがもう来ちゃいましたわ!」


くるみがビクッと肩を震わせ、俺の胸から顔を上げる。その表情には、小悪魔的な余裕は消え去り、焦りが浮かんでいた。


5. エピローグ:次なる波乱への逃避行


「――おい高坂! 扉が突破されるまで残り5秒だ! その小悪魔後輩と一緒に窓から脱出しろ! 捕まれば、お前は三分割されて完全に市場から姿を消すことになるぞ!」


佐藤の緊急通信がインカムから爆音で響く。

俺はくるみの手を取り、用具室の窓を開け放った。


「くるみ、行くぞ! しっかり掴まってろ!」


「はいっ! ……ふふっ、先輩と二人で夜の学校から逃避行なんて、最高の『ロマンチック・プレミアム』ですわ!」


夕闇が完全に夜へと変わった文化祭前夜の校舎。

既存の巨大資本たちの包囲網を突破し、小悪魔な後輩と手を繋いで走り出した俺の「秋季相場」は、明日の文化祭本番に向けて、さらに制御不能なバブルへと突入していくのだった。


(第104話・完)


本日の市場ニュース(個別ピックアップ:七星くるみ編)


七星くるみの時価総額: 巨大資本の睨み合いというデッドロックの隙を突き、密室での強引なスキンシップ(インサイダー取引)を成功させたことで、市場の評価が急騰。圧倒的な機動力を見せつけた。


佐藤のアナリスト・レポート: 「1年生という『身軽さ』と『甘え』を武器にした彼女の戦術は、真正面からぶつかる巨大資本よりも厄介だ。暗闇の密室で繰り出された『買収完了宣言』は、高坂の理性を根底から破壊する極めて危険なボラティリティを持っている」


高坂優人の現在の状況: くるみのバニラの香りと、密室での強烈なハグが脳内に焼き付いて離れず、暗い部屋に入るたびに「……また、誰かに奇襲されるんじゃないか」とドキドキしてしまう重度の『密室奇襲デレ障害』を絶賛発症中。

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