第1章 その6
「そうしてくれるとありがたいわ。
でもあたしがもと着ていた服って夏服だものね。
冬服を買うまでの間、上に着こむ服は借りられるかしら?」
「はい。ご用意いたします」
「悪いわね、何から何ま──で?」
キーペが用意すると言った途端、それまでエティが着込んでいた寝間着が糸のレベルまで分解されて、数秒間ではあるもののエティは下着姿になってしまった。
あまりのことに悲鳴も上げられず、口と目を大きく開くエティ。
両腕で身体をかばってしゃがみ込む。
顔が熱い気もするし、寒い気もする。
今、自分が真っ赤になっているのか、真っ青になっているのかは判別つかなかった。
やがて衣服が戻ってくると、また涙目になっていたエティは疲れ果てた様子で言った。
「ありがと……でも、どうせなら心の準備がしたかったわ」
「すみません。エティ様の他にはぼくだけだから良いかと思ってしまって」
にこ。と、にまり。とが混ざったような、確信犯的な笑みを浮かべてキーペが答えた。
半袖から伸びている腕をさすりながらエティが返す。
「本当に冬なのね。もしかして、ヒーターつけてて、これ?」
「はい。室内用のカーディガンと外出用のコートを持ってまいりますね。
外の寒さは両方着込んでもようやく耐えられるほどと思いますよ。
これでも今ここはかなり温かくしてあるほうですから」
「そうなんだ……ありがとう。いってらっしゃい」
キーペが部屋を出る時に開けたドアからわずかに入り込んだ外の風。
それは、少年の言葉を裏付けるには充分すぎて。
寝台に戻って布団を体に巻き付けたエティは、自力では寒気に勝てないことを肌身に感じていた。
* * *
壁や屋根があり、自律的に走る魔法のソリに乗せられて、衣料品店までは十分ほどの道のりだった。
柔らかで毛足の長い暖かな上衣。
先程の上衣と同じ素材を内側に貼ってある緩めのズボン。
キーペの指示を受けて店員があれこれと運んでくる衣服はどれも仕立ての良い一級品ばかりだった。
試着するとどれも不思議なほど体になじむ。
「屋内ではさほど必要ありませんが、ハイネックのほうが外へ出ても暖かいですよ。
エティ様は白髪だから何色を着てもお似合いですね」
「そういうキーペも黒髪だから、なに着ても似合うんじゃないの。
ね、お代って……」
「もちろん神殿のほうで負担しますよ。安心してください」
「ありがとう! でもね、一着だけあたしも自分で選びたいなあ。いい?」
人に払ってもらう以上、ぜいたくはできないが。
エティは平屋建ての大きな店舗にわくわくが抑えきれない。
口元で合掌し、首を傾げて見せた。
それを見たキーペは、くすくすと笑ってうなずいた。




