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20.魔法武闘

第20話です。よければブクマや評価よろしくお願いします。

「お待たせー」


 春休みに入って数日経ったある日、俺と直弥(なおや)は共に出かける約束をした。

 俺が集合時間の十五分ほど前に到着し電車の時間を調べていると、直弥は時間ぴったりに到着した。


「おっす、三分後くらいに電車出るみたいだから、行こうか」


 俺と直弥は揃って改札を抜ける。

 今日、俺と直弥はここから少し離れた県庁所在地でもある都市に出かける。


「試合の時間、何時だっけ?」

「えーっと、11時からだったかな」


 目的は、その街で行われる格闘技の試合、それも能力者同士の試合を見ることだ。俺たちのような学生ではなく、大人の、プロの試合だ。

 能力者の格闘技は魔法武闘(スキリング)(と呼ばれ、何年も前から興業化されており、能力持ちの格闘家、通称魔闘家(スキラー)という職業もかなり知名度が上がってきた。

 能力の使用が制限されているこの世の中で、ド派手な能力バトルが見られるのは魔闘家の試合と俺たちの通う能力者学校で一般公開されている学生試合くらいしかない。

 魔法武闘(スキリング)その派手さによっては一躍人気スポーツとなった。

 能力者である俺たちも、そういった迫力ある試合が見たいという気持ちは変わらない。後学のためにも暇な春休みを利用して都会まで出てきたのだ。

 会場の最寄駅は人で賑わっていた。降り立った駅には常にこれだけ人がいるのか、それとも魔法武闘(スキリング)のファンが集まっているのか、理由は分からないが地元とは比べものにならないほどの人口密度だ。

 周囲を見渡すと、今日の対戦カードが描かれたポスターがいくつも目についた。そんな風景を見ると駅にいる人全員、ひいては街全体が魔法武闘(スキリング)ファンであるかのような感じがする。


「まっすぐ会場に行けばちょうどいいくらいの時間に着くね」


 直弥が地図アプリを見ながら言った。

 駅から直結のドーム施設に向かう。施設に近づくにつれ人が多くなり、自然と川のような流れができている。俺たちはその流れに身を任せるように足を進め、会場に到着した。


「えーっと、E-11だから……、ここだ」


 俺はチケットの番号を確認しながら、予約した席を探す。


「意外とギリギリになっちゃったね」


 後ろから直弥が早足でついてくる。試合前に会場内で飲み物や軽食を買っていたら、意外と時間ギリギリになってしまった。俺も直弥もスポーツ観戦というものに慣れていないので、時間配分を上手く計算できない。

 ようやく席に着き、レジャー価格で購入したコーラを口に含んだ瞬間、辺りがフッと暗くなった。映画館の上映前前の暗さに似ている。


「「さぁ、みなさん、お待たせしました!! いよいよ選手の入場ですっ!!」」


 ドーム内に声が響く。観客を盛り上げ、スムーズに進行させるための実況がいるというのは魔闘祭と変わらない。


「「西ゲートより登場するのはこの男っ! 稀代の炎使い、火鹿毛 修也(ひかげ しゅうや)ぁ!!」」


 向かって左のゲートが開き、一人の男が姿を現した。

 スポンサーのロゴがいくつも入ったジャージを着て、歓声を上げる観客に向かって笑顔で手振っている。人の良さそうなお兄さんという印象だ。


「「迎え撃つのはこの男、泥を操る魔術師、沼田 慎吾(ぬまた しんご)ぉ!!」」


 反対側のゲートからは、中年に片足を突っ込んだような、シワの深い貫禄のある男が入場してくる。

 火鹿毛選手と沼田選手、両者ともに魔法武闘(スキリング)界で結果を残している選手であり、本日のメインカードだ。


「通くんは沼田選手を応援してるんだっけ?」


 両選手の来歴や成績紹介が響く中、直弥が聞いてくる。


「そうだなぁ、直弥はやっぱり火鹿毛選手?」


 俺は入り口で配られたパンフレットを見ながら聞き返す。紹介文にも書かれているが、火鹿毛選手は放出型の炎を操る能力、沼田選手も同じく放出型の泥を操る能力を使う。

 能力者の魔法武闘(スキリング)ファンは、自身と似た能力を持つ選手に好感を持つ傾向にある。炎使いである直弥もその例に漏れず、火鹿毛選手推しなようだ。


「そうだねぇ、やっぱ勢いあってカッコいいよ」


 直弥の言う通り、火鹿毛選手は今最も勢いのあるルーキーだ。二年程前にデビューし、飛ぶ鳥を落とす勢いで勝ち星を重ねている。

 確かに火鹿毛選手はかっこいい。だが、俺は沼田選手のファンだ。

 ベテランと呼ばれる年齢の沼田選手は最近の戦績が芳しくなく、引退が囁かれている。

 そんな中でも無骨に戦い続け、ベテランらしいテクニカルな戦い方で勝敗に関係なく盛り上がる試合をしてくれる。俺はそんな沼田選手が好きだ。火鹿毛選手のような派手さはないが、滲み出る渋さがある。

 俺はこの試合でももちろん沼田選手の応援をするつもりだ。


「あ、もう始まるみたいだよ」


 パンフレットに書いてある両選手の戦績を見ていると、直弥から声がかかる。顔を上げると、選手同士が円形のフィールドの中央で握手を交わしていた。

 俺はパンフレットをしまい、観戦に集中する。沼田選手は今回の試合で負けると公式戦五連敗となってしまう。ここで何とか悪い流れを断ち切って欲しいところだ。

 二人が握手を終え、互いに背を向けて離れていく。一歩一歩、二人の距離が離れるほど、会場を包んだ熱気がその温度を上げていくようだ。


「「お待たせしました。これより、本日のメインマッチを開始します」」


 会場内、至る所から歓声や拍手が聞こえる。俺自身、腹の底から興奮が湧き立ってくるのを感じる。


「「それでは、試合開始!」」


 実況の声と同時に、試合開始のブザー音が響いた。

 直後、場内は静寂に包まれる。両選手とも一歩も動かず、多少の構えをしたまま相手を見つめている。

 火鹿毛選手も沼田選手も、どちらの能力も典型的な放出型だ。こういった能力では基本的に相手と距離を取りながら戦う事が定石となる。

 互いに同じタイプの能力者の場合、今回のように様子見の膠着状態となることがよくある。

 しかし、そんなことはプロである両選手ともに理解しているのだろう。

 試合開始から三秒後、両選手が動き、互いに沈黙を破る。

 火鹿毛選手は右手を縦に構え指を揃えて真っ直ぐ沼田選手に向け、沼田選手は右腕を突き出し、手のひらを広げて火鹿毛選手に向ける。


「【京泥(ケイドロ)】!」

「【巨人の赤斧(レッドタイタン)】!」


 火鹿毛選手の指先からは三日月型になった炎の塊が、沼田選手の手のひらからは太いビーム状になった灰色の泥が、それぞれ勢いよく放たれた。

 それらは二人の中間地点より、やや沼田選手寄りの場所でぶつかり合い、周囲に轟音と衝撃波が広がる。

 火の粉と泥の粒が飛び散り、水蒸気と黒煙で一瞬両選手が覆われ、姿が見えなくなる。

 二人はすぐにその煙から飛び出し、もう一度相手に向かって攻撃を放つ。

 今度は互いに攻撃を避け、炎と泥はスタジアムの壁にぶつかった。

 一連の攻撃を終えた両者は再び膠着状態となり、会場の至るところから歓声が湧き上がった。


「す、すごい」


 俺の隣で、直弥は驚きと感動に満ちた顔でそうつぶやいた。直弥がそんな顔になる気持ちも分かる。今目の前で繰り広げられている戦いは、俺たちが高校で体験しているものとはとは比にならない。

 技術、魔力量、経験値、どれ一つとっても、たった一つ、一瞬の判断さえも、自分たちが経験したことのないレベルのものだ。

 子供と大人、学生とプロ、次元が違うという言葉がふさわしい差がそこにはあった。

 火鹿毛選手は相手と一定の距離を保ちながら、スタジアム内を動き回る。激しく動きながらも正確な狙いで、沼田選手に向け何度も炎を放つ。

 それに対し、沼田選手も応戦する。泥で炎を打ち落とし、隙を見て相手に向かって攻撃を放つ。


「「互いに譲らない、激しい攻防だぁッ!」」


 実況の盛り上がりと共に、観客たちの熱気も上がっていく。

 確かに今のところ両選手互いに主導権を譲っていない。ただ、俺にはこの先の展開が予想できた。そして、残念ながらその予想は俺の希望通りではない。


「沼田選手、厳しいね」


 直弥が真剣な顔でそう呟く。俺は試合を見ながら黙って頷いた。

 直弥の言う通り、このままでは沼田選手が勝つのは難しい。まだ高校生とはいえ、普段から能力者の戦闘を学んでいる俺や直弥にはそれが容易に理解できる。

 俺は右に左にと動く火鹿毛選手と最初の位置からほとんど動いていない沼田選手を見比べる。

 自分の優位な位置から攻撃を続け相手の隙とミスを探る火鹿毛選手に対し、沼田選手は自分に向けられた攻撃を防ぐことしかできておらず、相手を捉えることができていない。防戦一方といった状態だ。

 能力の性質、特に速射性の面で、沼田選手の【景泥】は火鹿毛選手の【巨人の赤斧】に劣っていると言わざるを得ない。

 常に相手を捉え、連発することができる火鹿毛選手の能力は中距離から相手を追い詰めることに適しており、素早く連発することができず且つ泥という性質上弾速の遅い沼田選手の能力では、中距離の打ち合いとなった時に分が悪い。

 ひたすら攻められる今の形を取られてしまった時点で、沼田選手にとってはかなり不利な状況だ。


「火鹿毛選手は機動力もあるから、沼田選手の能力で捕らえるのは難しいだろうなぁ」


 隣で直弥が言った。その言葉からは先程と比べて緊張感や興奮が薄れている感じがする。結末が予想できる試合というのは、緊張感も高揚感も生まない。

 矢継ぎ早に放たれる炎の塊が、泥の隙間をかい潜り、沼田選手に向かって行く。最初は完璧に防いでいたが、段々と沼田選手の眼前まで迫る炎が現れ始める。

 沼田選手は防御と回避を繰り返しながら持ちこたえているが、炎が身体を掠めている。その姿はジリ貧という言葉がよく似合う。

 そろそろ限界か、俺だけでなく、直弥も、そして会場の観衆もそう思い始めた。


「「沼田選手、これは厳しいかあ!?」」


 実況もいつの間にか火鹿毛選手の優勢を認めている。

 観客席から見ても、沼田選手の動きからはキレが無くなっている気がする。あの様子では持って数分だ。

 何とか挽回して欲しいと思いながらも、ここから挽回する方法なんて思いつかない。俺も心のどこかでは沼田選手の勝利を諦め始めていた。

 固唾を飲んで見守っていると、火鹿毛選手が狙いを定めた一撃が遂に命中した。


「「クリーンヒットぉ!」」


 沼田選手は、両手を広げた態勢のまま、身体の中心で炎を受けてしまう。試合が始まって初めての有効打に、会場が盛り上がる。

 俺は、遂に当たってしまったと思うと同時に、目の前の展開に違和感を覚えた。

 いくら不利な状況とはいえ、沼田選手にはあと数分持ちこたえるだけの体力も魔力も残っているはずだ。それなのに何故火鹿毛選手の攻撃が当たったのだろうか。仮に限界だったとしても、攻撃の当たり方に違和感がある。防御が限界なのであれば、体力・魔力が底を尽きる前に攻勢に出るのが普通だ。限界まで耐え抜き、最後は相手の攻撃をまともに受けるだなんて、ベテラン選手らしからぬ判断だ。

 俺がそんな疑問を持った次の瞬間、沼田選手の両手から、大量の泥が放出された。


「「おおっと、これはぁ!?」」


 突然の展開に、実況は戸惑い、観客もどよめいている。

 放たれた泥は会場を分断するように、それぞれの方向へと進んでいく。今までは相手向かってビーム状に放たれていた泥が、今回はまるで移動する壁のような形で放たれている。

 突如として会場に現れた、二つの泥の壁。円形の会場は三分割され、中央が扇形に切り取られ、壁の間には、二人の選手が残された。

 移動範囲が制限された火鹿毛選手の動きが、少しの間止まる。

 

「「沼田選手、動いたぁ!」」


 突然の出来事に俺を含めた観客が呆気にとられていたが、実況の声で現実に引き戻される。今まで防戦一方だった沼田選手が、走り出していた。

 向かう先には、左右を壁に阻まれた火鹿毛選手がいる。互いに逃げられない、真っ向勝負をするための場がいつの間にか整っていた。


「すごい作戦だ……」


 思わず口から声が出た。直弥は俺の呟きに黙って頷いている。

 恐らく沼田選手は、攻撃に耐えながらこれを狙っていたのだろう。機動力と速射性で勝る火鹿毛選手に攻めれていたあの状況では、まず相手の足を止めなければ勝ち目はない。

 移動し続ける火鹿毛選手が、都合のいいポイントに来るまで沼田選手は耐えていた。そして、タイミングを見計らって自ら攻撃を受けることで、油断を誘い、相手の足を止める。

 すかさず会場を分断するように大量の泥を放ち、相手の退路を絶ったのだ。

 沼田選手の能力は射出型だが、泥という性質上、炎や水に比べてその場に滞留する時間が長い。短時間であれば会場内に巨大な壁を作り出すことも可能だ。

 自分の能力の特徴、相手に劣っている点と勝っている点、相手の動き方、それら全てを分析し、一瞬の判断で状況を覆す。流石ベテランの沼田選手だ。

 火鹿毛選手は向かってくる沼田選手に対して炎を放つが、動揺しているのか命中することはなく、二人の距離はあっという間に縮まった。

 沼田選手の拳が、火鹿毛選手に届く。火鹿毛選手は寸でのところでそれを防ぎ、距離を取った。

 両選手は中距離を得意とする能力だ。ここまで距離が詰まれば、互いに能力を発動する隙が無い。単純な肉弾戦となる。


「「不利な状況を一気に覆した沼田選手! ここからどうなるのか!!」」


 ファイティングポーズを取って睨み合う選手たちを見て、再び会場中は静寂に包まれ、静かな熱気が充満する。

 沼田選手は不利な状況を覆したが、今の状況は互いに五分だ。ここからの肉弾戦で、どちらが勝つかは分からない。あれだけ大規模に能力を使った沼田選手と、今まで会場中を動き回り足を消耗している火鹿毛選手、どちらにも勝ち目はある。

 俺も直弥も、自然と前のめりになって試合を見守る。

 一瞬の硬直の後、両選手が動き出した。

 拳が互いの頬を掠める。息つく暇のない激しい肉弾戦は目で追うのがやっとだが、見応えがある。

 沼田選手の上段蹴りが、火鹿毛選手の脇腹に当たった。


「よしっ」


 俺は拳を握りながら、思わず声を出した。

 その直後、蹴りを耐えた火鹿毛選手の正拳突きが沼田選手の顔面に当たる。

 沼田選手はよろけ、一瞬の隙が生まれた。


「【巨人の赤斧(レッドタイタン)】!」


 そこへ、すかさず炎が撃ち込まれた。沼田選手が吹き飛ぶ。


「あぁっ!」


 また、思わず声が出た。これで沼田選手が攻撃を喰らうのは二回目だ。

 倒れた沼田選手は、気絶こそしていなかったが、起き上がることができなかった。


「「沼田選手、立ち上がれないッ! 試合終了ッ!!」」

 

 実況の叫びの後、会場は割れるような歓声と拍手に包まれた。

 俺は、今まで興奮で疎かになっていた呼吸を一気に取り戻すように大きく息を吸ってから、盛大にため息を吐く。


「いやー、沼田選手、ダメだったかぁ」


 俺が悔しがっていると、隣の直弥は嬉しそうな表情でこっちを見る。


「やっぱ火鹿毛選手は強いんだよね、でも、途中からは本当にどっちが勝つか分からなくてハラハラしたね」


 直弥も俺と同じく相当興奮している様子だ。試合前に買ったコーラはほとんど減っていない。

 俺たちは握手を交わす両選手を拍手で称え、会場を後にした。


「結果はちょっと残念だったけど、凄い試合だったなぁ」

「いやーまさか沼田選手があそこから巻き返すとはね」


 俺と直弥は試合の感想を語りながら電車に乗る。


「射出型の能力なのにあんな巨大な壁を一瞬で作れるなんて、やっぱプロは凄いなぁ。能力の可能性を突き詰めてる感じがする」

「確かに、火鹿毛選手もああやって自分の得意な形に持ち込めるのは流石だよね。射撃の制度も凄かったし、自分なんてまだまだだなぁって感じちゃうよ」


 帰路についても興奮は止まず、二人でずっと話続ける。俺も直弥も高校で対人戦を学んでいる分、分析することも話すことも尽きない。

 生で見るプロの試合は、感動と興奮が段違いだ。

 その日の夜、ベッドに横になってもまだ身体が興奮している感じがした。

 頭の中には、今日の試合で一瞬にして戦況を変えた沼田選手の姿が焼き付いている。


「……【独り歩き(ナイトウォーカー)】」


 俺は起き上がってから何となく能力を発動させた。俺と同じ背格好をした影人形が現れ、目の前に立つ。

 頭の中で沼田選手が出した巨大な壁をイメージして、影人形の形を変える。影人形は俺の思考に従い、グネグネと形を変え、高さ二メートルほどの壁となった。

 その後も色んな形をイメージして、影人形の形を変えていくが、どうしてもイメージしてから影人形の形が変わるまで、一秒前後のラグがある。

 沼田選手は、一秒もかからないうちにあの巨大な壁を繰り出していた。放出型と化身型の特性の違いはあれど、あの速度は相当なものだ。

 瞬時に自分の求めるものを生み出す力、それがあれば、俺はもっと強くなれるかもしれない。

今日見たものは、何か自分を成長させるきっかけになりそうだと、俺は心の中でそう感じた。

ここまで読んでくださりありがとうございました!

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