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19.面談

第19話です。よければブクマや評価よろしくお願いします。

「はい、テスト時間終了です。解答用紙を後ろから回してくださーい」


 先生の声を合図に、先程まで机と向き合いジッと席に座っていた生徒たちが一斉に動き出す。


「はい、じゃあこれで今日のテストは終わります。皆軽く教室掃除してから下校してくださいねー」


 生徒の努力の成果が詰まった紙束を受け取った先生は、そう言い残して教室から出て行った。その瞬間、教室全体に張った緊張の糸が切れる。

 皆が一斉に喋り出し、教室は一気に喧噪に包まれる。


(とおる)くん、テストどうだった?」


 机の上の消しカスをまとめていると、既に帰り支度を済ませた直弥(なおや)がやってきた。


「うーん、まぁいつも通りって感じかな。ちょっと自信ない問題もあるけど、多分8割くらいは取れてると思う」

「すごいね、通くん頭いいからなぁ」


 今年度の四月に入学して約一年、中間テストや期末テストは複数回経験したが、俺は常に成績上位者とされる順位を維持できている。周りには勉強について行けないと嘆いている生徒も多いが、俺は帰宅部ということもあり、勉強に力を入れることができている。

 謙遜しているが、直弥も成績は良い方だ。常に俺より少し下の成績を維持している。俺のテストの点数の平均は大体85点、直弥は75点といった感じだ。


「じゃあ、帰ろうか」

「あ、俺今日面談あるんだよね。だから一緒に帰れないや」

「あーそうなんだ」


 この学校では学期末に先生との一対一の面談が行われる。そこで学校生活のことや進路のことについて話し合うのだとか。

 面談担当の教師は生徒ごとに割り当てられる。面談相手を選ぶことはできないし、気心の知れた担任であるとも限らない。


「ちなみに、通くんの面談担当誰なの?」

御陰(みかげ)先生だった」

「あー……頑張って」


 直弥は気の毒そうな顔で俺を見てくる。

 基礎魔法学-実践担当の御陰先生の厳しさは生徒の間で十分知られており、比較的面談担当には好まれない先生だ。

 俺も怖いとは思っているが、理不尽な厳しさがあるわけではないからそこまで苦手意識を感じてはいない。

 生徒の間では、理想の面談担当教師ランキングが囁かれており、一位は教師の中でも最も優しいとされる清水先生、最下位は圧倒的に怖い鬼瓦(おにがわら)先生となっている。御陰先生はワースト二位か三位あたりの立ち位置となっている。


「じゃあ、先帰ってるね。ばいばい」

「はーい、お疲れー」


 直弥を見送り、ぼんやりと窓の外を見ながら待機する。面談時間まであと三十分ほどある。

 少しうとうとしながら教室で時間が過ぎるのを待っていると、いつの間にか時刻は十二時十分となっていた。面談時間まであと五分だ。

 鞄を持って、御陰先生の下へと向かう。

 この学校には職員室の他に教師個人の居室というものがある。教師たちは基本的に職員室か自身の居室で過ごし、生徒は今日みたいな面談の時や個人的な説教を受ける時にこの居室に呼び出される。

 廊下を進んでいくと、集合住宅のように等間隔で配置された扉が見えてきた。各扉には教師の名前が書かれている。

 俺は『御陰 糸穂(みかげ しほ)』と書かれた扉の前で立ち止まり、一応服装の乱れがないかを確認する。

 御陰先生の下の名前が『糸穂』であることを初めて知った。先生の下の名前というのは意外と目にする機会が少ない。

 扉を三回ノックすると、すぐに「入れ」という声が返って来た。

 開けると、全体的にダークブラウンで統一された部屋と奥のデスクに座る御陰先生の姿が目に映る。

 御陰先生の居室は、整理整頓されている。女性らしいものは一切無く、全てが仕事用の物という印象だ。

 奥にデスク、手前にはローテーブルとソファ、壁には天井まで届く本棚があり、本がびっしりと並べられている。

 先生は立ち上がり、ソファに座るように促す。俺が座ると、先生はタブレットを持って目の前に座った。


「なんか飲むか?」


 先生の視線を追って部屋の奥を見ると、小さなポットと食器類が目に入った。


「いえ、大丈夫です」

「そうか、では早速面談を始めるとしよう。少し待ってくれ」


 先生はタブレットを操作し始める。恐らく、俺の成績やら何やらが表示されているのだろう。


「よし、ここに入学して一年が経ったが、この一年はどうだった?」


 お手本のような問いかけで、面談が始まった。


「そうですね、それなりに楽しくやってると思います。友達もできてますし」

「学校生活で困っていることは特にないか?」

「はい、今のところは特に」

「悩んだ時に相談できる友人はいるか?」

「まぁ、いますね。大丈夫です」


 事前に教育委員会などから指定された質問があるのか、まさに生徒との面談といった質問を次々と投げかけられ、先生は俺の答えをタブレットに入力していく。

 その後もしばらく事務的な質問が続き、答えていく。


「よし、こんなところかな」


 面談開始から五分程経ったところで、先生はそう言った。ひとまず、しなければならない質問は全て終わったようだ。


「通は勉学の方は……、中々優秀な成績だな。前回のテストでは学年二十五位か、成績上位者じゃないか」

「まぁ、そうですね。おかげさまで」

「魔闘祭の方は……、五十九位か。こちらは目立った成績ではないな」

「えぇ、はい……」


 御陰先生はじっとタブレットを見つめている。先程よりも眼差しが真剣なように見える。


「通は入学当初からずっと魔闘祭への参加を続けているな。やはり魔闘祭での順位も気にしているのか?」

「そうですね、できるだけ上位には食い込みたいと思ってます」

「ほう、それは何故だ? 将来の進路を考えてのことか?」


 先生の問いに、少し答えを迷う。

 俺が魔闘祭で上位を狙う理由は、賞金を得て、家族に楽な思いをしてもらうためだ。しかし、そんなことを言うと「高校生のくせにそんなこと考えてるのか」なんて思われそうだ。

 実際、俺の実家は特別貧困家庭というわけではない。高校生の俺がこんなこと考えなくてもいいのかもしれない。

 「みんなから注目されたい」という不純な動機も少しはあるが、自分の魔闘祭への参加理由が綺麗事のように感じて、正直に話すのは少し恥ずかしいと感じる。

 先生は俺の答えをいつまでも待つようにこちらを見つめている。


「進路のためってのもありますけど、実は家にお金を入れたくて。優勝して賞金を貰おうと思ってます」


 俺は少し迷ってから、正直に話すことにした。厳しいけれどいつも生徒のことを考えていそうな御陰先生なら大丈夫だろうと思った。


「なるほどな、良い考えじゃないか。ありふれてはいるが、動機としては素晴らしい」

「そうですかね?」

「あぁ、実際こういう場で将来の話をすると、世界を守りたいとか、最強の能力者になりたいとか、そういう突飛なことを言う奴もいる。そういう理由と比べたら現実的で良いと思うぞ」


 素直な自分の考えを正面から褒められ、顔が熱くなるのを感じる。


「でも、その夢を達成するためにはまだまだ実力が足りないな」


 褒められた直後に真っ当な指摘は心に刺さった。


「そうですよね、頑張ります……」

「実際、今の自分と能力には何が足りないと思う?」


 御陰先生はの問いには、先程までの事務的な質問より熱が籠っている。

 自分の欠点、いつも考えてはいるが、いざ言葉にするのは少し難しい。


「うーん、自分的には決定力が足りないと思ってます。何というか、試合を決め切る力というか、破壊力というか」

「なるほどな、確かにお前の能力は破壊力に優れているとは言い難い。炎王の【崩炎(ほうえん)】などと比べてもその差は歴然だろう」


 自分で分かっていることだが、人から指摘されると心にくるものがある。俺は苦笑いしながら先生の指摘を受け止めた。


「だが、だからと言って私はお前の能力が劣っているとは思わない。各人の能力にはそれぞれ特徴があるが、そんな中でもお前の【独り歩き(ナイトウォーカー)】にはかなり秀でた点がある。私にはそれが活かせていないように見える」


 先生の言う能力の優れている点、しかも他の能力よりかなり秀でた点、一体なんだろう。

 【独り歩き(ナイトウォーカー)】は典型的な化身型の能力だ。典型的過ぎて、秀でた点があるとは思えない。強いて言えば自由に形を変えられることだろうか。だが、それがそんなに長所となり得るのだろうか。

 考えたが、結局答えは見つからない。


「それがなんだか分かるか?」

「強いて言えば、化身の形を自由に決められるところでしょうか?」

「分かっているじゃないか」


 どうやら当たっていたらしい。先生の返答に驚き、思わず「えっ」と口から漏れる。


「自分ではそれが長所ではないと思っていたのか?」

「はい、正直そこまで特別なものではないかなと。化身の形を変えられる能力は結構ありますし」

「そうか、では通、今ここでお前の能力を発動してみてくれ」

「え? 今ですか?」

「あぁ、今だ」


 俺は先生の意図が分からず、戸惑ったまま影人形を出し、自分の隣に立たせた。

 先生は影人形をじっと見てから、目を合わせる。


「私は『能力を発動してくれ』とだけ言ったが、何故人型の化身を出したんだ?」


 未だ、先生の指示と質問の意図は分からない。


「えっと、何故と言われましても、何故でしょう……」


 正直、理由など思い当たらない。「そういうもんだから」としか言いようがない。


「ふむ、特に考えていないか。お前は魔闘祭の試合でも人型の化身を出すことが多かったな。段々と技は増やしているようだが、基本的には人型を扱うことが多い。これは何故だ」

「えっと、一番慣れてるし、基本的な形だと思ってるし、汎用性があると思っているから?」


 迷いながら答えると、先生は一度大きく頷いて俺の目を見た。


「そう、お前の能力の強みは『汎用性』だ。どんな形にもなれる圧倒的な汎用性がお前の強みの筈だ。それなのに、何故人型にこだわった動きを見せるんだ」


 俺は答えに詰まる。特に考えていなかったからだ。


「たとえ人型であっても、例えば腕の本数を増やしたり足を太くして体幹を強くしたり、そういった工夫ができる筈だ」


 先生の言う通り、確かにそういった工夫はできる。できた筈だ。ただ、そこまでの考えには至らなかった。

 俺の中で影人形の基本的な形は人型で、人型というのは自分を鏡写しにしたような姿、そう思い込んでいた節がある。


「能力の汎用性を十分に活かすことができれば、これまで楽に勝てた試合もあったんじゃないのか?」


 先生の指摘にぐうの音も出ない。

 自分の能力は汎用性があるとは思っていたけれど、それがそこまでの利点になるなんて思っていなかった。確かに化身型の能力というのはある程度形が変えられるが、基本的な化身の形は決まっていることが多い。御陰先生の能力の場合、糸以外の形の化身は生み出せないだろう。

 そういった点で、俺の能力は特別だ。人型にも糸にも盾にも蛇にもなれる。能力は自由だったけれど、俺の発想が自由ではなかったようだ。


「前の私との試合の時も言ったが、お前はまだまだ考えが硬いな。これからはもっと柔軟な考えを持って試合に臨むといい。私からのアドバイスは以上だ」

「はい、ありがとうございます」


 御陰先生の言葉を忘れないように噛み締める。

 先生はそんな俺の表情を見て満足げな顔をしている。


「ところで、これからの魔闘祭の試合で当たりたくない生徒はいるか?」

「え?当たりたくない人ですか?」


 急に話題が変わった。先程から先生の質問の意図は読めない。


「そうだ、誰かいないか? 当たりたい生徒でもいいが」


 俺は少し考え、一人の男を思い浮かべる。


「そうですね、大海原(おうなばら)には結構苦手意識を持ってるので当たりたくないですね」

「なるほど、大海原か。他には?」

「えーっと、強いて言えば直弥とかですかね。仲良いからやりたくないってのもありますけど、強いからあんまり勝てるビジョンが見えないです」

「なるほどなぁ、よし分かった」


 御陰先生はタブレットにペンで素早くメモをした。

 それを見て質問の意図を予想でき、少し嫌な予感がする。


「あの、もしかして、ここでやりたくないって言った生徒と試合が組まれるとかあります?」


 俺の質問に、先生は一瞬迷うような素振りを見せてから、片方の口角を上げた。


「さぁな、魔闘祭の対戦相手はランダムに組まれることもあるし、運営が組むこともある。誰と誰の試合が組まれるかというのは誰にも分からないし、教えてもならない」

「そうですか、それならよかった」

「まぁ、私はその運営の一人ではあるがな」


 先生は少し無邪気な笑顔を浮かべてそう言った。

 嫌な予感は的中しそうだ。下手なこと言わなければよかった。

 考えが表情に出ていたのか、先生はふふっと息で笑う。普段厳しい御陰先生だけれど、こういったところに人間味を感じるから好きだ。


「まぁ、心配するな。それに、大海原に関してはそこまで警戒することもないと思うぞ」


 先生は真面目な顔に戻り、呟くようにそう言った。

 あんなに強い大海原を警戒する必要がないとは、どういう意味だろうか。


「さて、私から話したいことは以上だが、最後に渡しておかなければいけないものがある」


 そう言って、机の上に大量の原稿用紙や教科書のような冊子が置かれた。


「これから春休みに入る。学生の本分は勉強だ。今日渡す冊子と既に生徒全員のタブレットに送られている課題を忘れずにやるように。戦闘指導の教師としては能力訓練の方がやってほしいが、仕方がないな」


 御陰先生はまたニヤリと笑った。課された課題の量に、俺は苦笑いしかできない。


「課題が分からなくても私には聞くなよ。体育教師に聞いても答えられないからな」


 先生はタブレットを閉じながら自虐的に言う。

 その言葉は謙遜からくる嘘だろう。御陰先生なら高校生レベルならどの教科でも完璧に理解しているはずだ。

 能力者であれば職に困ることの無いこの世の中で、わざわざ教師の道を選ぶ能力者は少ない。

 能力者学校の教師というのは通常の教員免許の他、能力者法の知識や戦闘力も求められる職であり、かなりの狭き門だと聞いたことがある。

 そんな試練を乗り越えて教師になっている御陰先生が、高校一年生の課題ごとき分からないはずがないのだ。

 その証拠にこの居室の本棚には難しそうな本ばかり置いてある。英語の本もあるようだ。先生の勉強熱心さと優秀さが分かる。


「特に質問なければこれで面談終わるが、いいか?」


 最後の本棚を見つめる俺を不思議そうに見ながら、先生は立ち上がった。


「はい、大丈夫です。ありがとうございました」

「気をつけて帰るんだぞ」


 俺は一礼して居室を後にする。

 先生の言葉を反芻しながら廊下を歩く。

 能力の汎用性、自分の将来のこと、考えることがたくさんあるし、越えなければならない壁もたくさんある。

 直近には春休みの課題がある。計画的にこなせるだろうか。

 ぼんやりとそんなことを考えながら、帰路についた。

 家に帰り、改めて受け取った課題の中身を見る。

 国語や数学、化学と物理、それに社会科の問題集とプリント、読書感想文に小論文なんてものもある。

 ただ多いだけではなく、難易度もかなり高そうだ。


「勘弁してくれよ……」


 頭の中に悪戯っぽく笑う御陰先生の顔が浮かぶ。

 これは春休み中に魔闘祭のことを考える余裕は無さそうだ。

ここまで読んでくださりありがとうございました!

よければブクマや評価、感想よろしくお願いします!

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