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世捨て魔王  作者: R氏


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はぁ...許さなくていいから



 真剣な表情を浮かべこちらの事を見ている一人の男。

 俺はその男の事をよく知っていた筈なのに、今目の前にいる男はまるで別人の様に思えた。


 そう思ったところで、もしかしたら俺も同じ様な顔をしているのかもな。そんな考えが過った。


「サウロ――今まで色々とありがとうな。あんたに会えてよかった」


 魔王から零れたそんな人間らしい言葉に少なくない動揺を見せるサウロ。


「ギルドで最初にあんたが声かけてくれなかったら多分俺の未来は変わっていたと思う。それにさ、久しぶりに帰ってきた時にあんたがギルドマスターだって知ってどこか安心出来たんだ俺。ここにならいてもいいんだって」


 別にサウロの動揺を狙ったわけではなかった。この男相手にそんな卑劣な策を用いたくは無かったし、今はただ思っている事を素直に伝えたかっただけなのだ。

 だがそんなこちら側の心情など知る由も無いサウロの取り乱し様は尋常では無かった。

 色々な事を思い出し、様々な事を考えていたのは決して俺だけでは無かったのだ。


「レイア…、お前は一体なんなんだ…!レイアァァア!」


「俺は俺だよサウロ。俺がなんなのかはあんたが自分で決めたらいいさ。でも…今はもう戦うしか無いんだろうな、俺達は」


「それは……っ!」


 一度は覚悟を決めた筈のサウロだったがここに来て揺れる。俺の言葉に何一つとして嘘など無いのだと伝わってでもいるのだろうか。

 だが今の俺はこんな見た目。そして国の重鎮であるエドの命を狙い、未だ混乱の最中にいる民衆達のいる街の方へと向かおうとしている。

 そんな存在を黙って見過ごせる筈が無い。この男はこの街のギルドマスターなのだ。


「しょうがないさ。こんな見た目になった以上俺の言葉には何の信憑性も無いしな。だから―――あんたを斬って……俺は進むよサウロ」


 剣先をサウロへ向ける。サウロも色々と葛藤している様だったが、やがて覚悟を決めたのか剣を構えた。


「っ……」


 もうそれ以上サウロが言葉を発する事は無かった。


「――行くぜ、サウロ」


 何故か魔力付与をしようとは思えなかった。心のどこかでサウロとは正々堂々と戦いたいと思っていたのかも知れない。

 そしてレベル差では圧倒的に優位な筈の俺の剣が、サウロの身体を切り裂く事は無かった。

 そこにサウロの剣士としての練度の高さが見て取れる。いくら圧倒的なステータス差があろうと、俺の付け焼き刃の剣術だけでは手練れの剣士であるサウロに致命傷を与える事は難しそうだった。


「やっぱりお前って…強かったんだなっ!」


 だがいくら語り掛けてもサウロが口を開く事は無い。ただただ俺の攻撃を防ぎ、そして攻撃に転じていた。

 そしてそんな攻防が五分程続いた頃だった、再び外からけたたましい悲鳴が聞こえた。

 そんな悲鳴を聞きどちらからともなく激化する剣戟。強者同士の全力の斬り合いに耐え切れなかったのは――――武器だった。

 

 ピシッ!


 確かに走った微かな亀裂、サウロの剣に走る終わりを告げる雷。

 その異変にサウロ程の猛者が気付かない筈が無かった。もしこれが魔物との戦いや他の戦いだった場合、一番賢い選択は撤退する事に違いない。

 だが―――サウロはそれをしなかった。そして、そんな終わりかけの剣を振りかぶる。


「ごめんな……サウロ。俺の事は――許さなくていいから」


 サウロの剣を迎え撃つ。

 確信があった。この俺の一撃はサウロの剣を砕き、そのままサウロの身体まで切り裂く――――と


 だが俺はその一撃を止めない。こんな微塵の油断も許されない状況下で頭の中にあったのは――――みんなの顔だった。

 その中には勿論サウロだって含まれている。だがこのままじゃ全てが手遅れになる。これ以上何も失いたくなかった。

 

 やがて剣と剣がぶつかる。そして―――砕け散る片方の剣。そしてもう片方の剣は無慈悲にもそのまま使い手をも切り裂いた。


 サウロは最後まで何も言わなかった。

 サウロを斬ったのは俺だ。なのに深く斬りつけられた様に全身が痛む。親しい者を傷つけるという事がこんなにも痛いだなんて知らなかった。知りたくも無かった。


 俺は今までに何人も傷付けてきた。だがそのどれとも違う―――


 (こんなのは……イヤだ…)


 未だ外からは人々の悲鳴や怒号、それに加え魔物の雄叫びや何かが崩落する音、様々な喧騒が響き渡っていた。

 なのに俺にはそれらがどこか違う世界の事の様に思えて仕方なかった。

 俺の心を包んでいたのは―――静寂だった。


 辺りを見渡す、だがもうそこには誰もいなくなっていた。倒した筈の二人の姿はおろか、エドや国王の姿も無い。

 エドの話はどこまでが本当だったのか。外では今何人程が死んでいるのか。考える事は山ほどあった。




 だが――――今は倒れたサウロの事をぼんやりと見ている事しか出来なかった




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