はぁ...地獄絵図
「これが――――俺…?」
古来より全ての種族から目の敵とされ続けてきた種族―――魔族
その禍々しい見た目の通り、とても好戦的でその上協調性も無く他の種と交友する事もほぼ皆無。
全ての種は自分達の更なる繁栄の為に領土を拡大しようとしてきた。だがその上での最大の弊害となるのはいつの世も魔族だった。
魔族達が住む魔大陸の領土はとても広大で、領土を広げる為にはその魔大陸を無視する事など到底出来ないからだ。
そしてそんな全ての種族に忌み嫌われる存在が――――そこにいた。
以前見たアザレアの魔王と同じ、いやあれ以上に禍々しい立派な翼を生やした歴とした魔族。
見る者の気持ちをどこか不安に駆らせる様な不気味なフォルム。
つい先程までは誰がどう見ても人間にしか見えない様な姿をしていた、それが翼一つでここまで変わるモノなのかと驚きを禁じ得なかった。
「くくっ、見ただろう!?サウロよ!そ奴こそ我らの怨敵アザレアの魔王なのだ!」
俺の変貌を見届けた後、そう高らかに吠えるエド。
そしてその声を聞いた冒険者達の顔つきが変わる。
特に―――サウロの表情から迷いが消えた。
「サウロ……これはちがっ…違うんだ!」
「もう無理だ――レイア」
剣を構えるサウロ、そしてその周りを固めるは二人の最上級冒険者。最早彼等を無視してエドを攻撃する事など到底不可能だった。
「なんで……なんでこうなる…!」
恐らく全ての元凶は奴―――賢者エド
奴への憎悪は今尚止まることなく膨れ上がり続けている。
奴を殺さなければ気が済まない。だが奴を殺す為にはその周りを固める冒険者達も手にかけなければいけない。
そしてその内の一人は見知った顔―――いや見知ったどころじゃない。この世界に来て初めて出来た兄の様な存在。そんな男をどうして手にかける事が出来ようか。
心の内の葛藤は収まらない。だが事態はそんな一刻の猶予すら許してはくれなかった。
「―――そろそろか」
声の先にいたのはエド――――そして
『ドォォォォオン!』『ドンドンッ!』『キャァァアア!』
けたたましい騒音が外から聞こえてくる。今だけはその場にいた全ての者が目の前の敵の事など忘れ外の様子を凝視した。
するとそこには――――地獄絵図が広がっていた
「なんだこれはっ!?」
「なんじゃこりゃぁあ!?」
「――――…っ」
辺りを覆う黒煙、燃え盛る住宅街に逃げ惑う人々。
そしてそんな人々を追い掛ける――――魔物達。
国の中心部でもある王都では到底あり得ない筈の光景がそこには広がっていた。いや王都どころでは無い、街の中に魔物がいるという事実はそれ程までに異様だった。
「これも…お前の仕業なのか?」
未だ混乱している筈のサウロが努めて冷静にそう問いかけてくる。
そんな筈が無い。いくらこんな翼が生えたからといって俺に魔物をコントロールする能力などある筈が無いのだ。
だがそんな事を言ったところで無駄な事は自分でもわかっていた。
こんな姿の俺を前にした状況での魔物の襲来、それが俺と無関係などと誰が思えるだろうか。
「――……」
言葉が出ない。頭の中に浮かぶのはどれも安っぽい言葉だけ、そんな安っぽい言葉は口に出すだけ無駄、場合によっては状況を悪化すらさせ兼ねなかった。
「もういいだろう。やれ!お前達!」
何も答えない俺に向けられたサウロの最後の表情は、怒っている様にも悲しんでいる様にも見えた。
隠れ慕っていた存在にそんな表情を向けられた事に、胸の奥深くの辺りに鈍痛が走るのを感じた。
何が何だか一つも理解出来ていないこんな混沌とした状況の中、とても大事な事に気付く。
それは今もこの街にいる筈の大切な人達の存在だった。
チームサニスの面々、フレルおばさん、それに――――エリス。
彼女の前に顔を出す事に強い抵抗こそあれど、それが命の危機ともなれば話は別。
寧ろそれこそが僅かばかりにも俺なりの罪滅ぼしになるのかもしれない。
急に向きを変え窓の方へと駆け寄ろうとするこちらの異変に気付いたのか、エドが叫ぶ。
「奴を止めろ!外へ逃がしてはならぬ!」
その声を皮切りに飛んでくる三者三様の攻撃。サウロはともかくあとの二人など他人も他人、心底どうでもいい存在だった為遠慮などしない。
先頭にいたサウロの斬撃をいなしそのまま体ごと後ろへと流す、そしてすぐさま後方の二人の元へ走る。
剣を振りかぶっていた男のどてっ腹を殴り飛ばす。魔力付与はしていなかった為死ぬ事は無いだろうが割と本気で殴った為しばらくの間は動けない筈。
そしてその直後、反対側にいたフードへとサンダーランスを飛ばす。
まさかこちらが無詠唱で魔法を使えるとは思っていなかったのか、ほぼ無抵抗のまま男に魔法が突き刺さる。そして二、三痙攣した後そのまま男は倒れた。
そこまで行ってようやく見えた宿敵の顔、その顔は動揺の色を隠せておらず迫りくる脅威にただただ怯えている様に見えた。
まさかここまであっさりと自分の元へと辿り着かれるとは思っていなかったのか、それとも俺が同じ人間相手になら手を出せないとでも思っていたのか。なにはともあれ奴にとっても色々と想定外の事が起きている様だった。
「てめーだけは殺す。死ね」
「させるかぁ!」
後ろにいたサウロの強烈な斬撃が襲い掛かる。それを受けきるには、片手な事に加え魔力付与もしていないこの状況では流石にキツイものがあった。
「っぐ!―――ほんとに……出来れば傷つけたくなかったんだけどな…」
そんな誰の耳にも届かない様な小さな呟き。その呟きを最後に俺は覚悟を決める。
――――サウロを斬る覚悟を




