73.搾取?
「何故なのですか? 兄はあれでも女性に人気があります。正直、マリナ様も兄に、」
「ありえません」
ハッキリ否定するマリナ。その瞳に揺らぎもないし表情に崩れもない。バートとバイラもこれは間違いないなと思った。ナシュカは彼女がここまでカーズを嫌う理由を予想できる。その理由は今行方不明の貴族令嬢のことだ。
「サエナリア様のことですね」
「はい」
「「…………」」
ここでようやく本題に入ることになった。空気も変わる。ナシュカとマリナ、バートとバイラですらも緊張してきた。
「……聞くまでもありませんが一応確認のために聞かせてください。サエナリア様とはどのような経緯で関わるようになったのです?」
「カーズ殿下との関わりに悩むようになってから間もないうちに、サエナリア様からも気にかけられるようになって、そのまま交流するようになりました」
「交流、ですか。不躾なことをお聞きしますが、学園で悪い噂をされていたようでしたが実際にそのようなことはありませんでしたか?」
「いいえ、噂のような悪いことは一切ありません。それどころかサエナリア様との交流はカーズ殿下との関りすら比べることもないほど有意義なことでした。学園の噂に関しては深い憤りすら感じています」
学園の噂は嘘だとマリナは口にする。その言葉には深い怒りと悲しみが込められているようにも感じられた。その一方でサエナリアに対しては強い親愛の情を感じているようだった。
「なるほど、やはりそうでしたか。噂はあてになりませんね(こればかりは学園が抱える問題だな。それにしてもサエナリア様に対して本当に友情を感じているんだな)」
サエナリアとマリナの間には友情があるとカーズから聞いていたナシュカは半信半疑だった。学園の噂を信じたわけではないが、そういう意味でも今のマリナの発言は興味を惹かれる。
「マリナ様は我が兄よりもサエナリア様がよいというのですね」
「当然です。カーズ殿下はサエナリア様から搾取するばかりでしたから怒りを覚えています」
「搾取? どういうことです?」
「「?」」
サエナリアのほうがいいのかと皮肉っぽく言ってみたナシュカは予想外の言葉を聞いて首を傾げた。側近の二人も同じ気持ちだった。
「わたくしとサエナリア様とカーズ殿下と側近の方々で勉強会を行っていたのですが、最初の勉強会ででわたくしは驚くべき事実を目の当たりにしたのです」
「驚くべき事実?」
この時、マリナの顔は無表情になった。何の情も見せない顔だ。
「カーズ殿下は自分に出された宿題を勉強を教えてもらうという口実でサエナリア様に写させてもらっていただけなのです。勉強会を行うごとに必ず写してもらっていました。酷い時はノートを一日借りたことすらありました」
「え? なっ、何だって!?」
「宿題を写す!?」
「ノートを一日借りる!?」
ナシュカ達にとっては確かに驚くべき事実だった。聞いてしまった三人は頭が人より回る分だけ理解が早かった。特にナシュカは瞬時に理解してしまっていた、残念なことに。成績優秀などと言われていた兄が実は婚約者に宿題を写してもらっていたなど知りたくもなかっただろう。




