72.好意は?
普段のカーズは女性に素っ気ない。その理由は、カーズが王太子である故に彼に近づこうとする女性の大多数が妃の座を求めたり、美形のカーズを自分だけの物にしたいなど欲の深い者ばかりで女性を苦手に感じるようになってしまったからだ。『自分に近づく女はみんな同じだ。考えてることがよくわかる』、そうカーズが心底嫌そうに言っていたことをナシュカは覚えている。流石にナシュカも同情した。
「それから兄は貴女に好意を持つのに時間はかからなかったわけですね(マリナ様の生まれなら確かにカーズ兄さんをよく見てくれそうだね。貴族になる前は商人の娘でもあるわけだし)」
商人という者は人をよく見るというらしい。ナシュカは商人に会う機会が少ないが、そういうことだけは知っていた。だからこそ、カーズがマリナのことを気に入る理由も理解できた。
「好意、ですか………」
しかし、好意を持つという言葉にマリナは一瞬怪訝な顔をする。それについて、彼女は自分なりにナシュカに自分の考えを話した。
「……カーズ殿下がわたくしに好意を持ち始めていたのはなんとなく理解していました。ですが、わたくしとは身分に差があることですし婚約者がおられることもあり、何とか距離を開けられないか考えていました」
「ほう。貴方からカーズ兄さんに好意は無かったと?(やっぱりね)」
「「………!」」
ナシュカは少し驚いて見せた。身を乗り出すのをこらえて。
「正直に言うと好意はありません。もちろん、恋愛感情など一切ありませんでした。身分の違う話し相手にしか思っていません。わたくしはサエナリア様が本命ですし……」
「「…………(どういうことだ!?)!」」
「……そうですか(この様子だと本当に好かれていないみたいだね、カーズ兄さんは)」
マリナがカーズに好意を抱いていない。確かにナシュカ達は聞いてしまった。バートとバイラは聞いていた話と違うことに驚いたが、ナシュカは当然だと思っていた。マリナの態度からカーズに対する情が一切感じられないのだ。むしろ、マリナはサエナリアの方に強い情を抱いている可能性がある。
「(この件でよく分かったけどカーズ兄さんは思い込みが強いほうだ。相手の気持ちを理解する能力もない。成績はいいけどそういう所に頭が回っていない。王太子じゃなくなってよかったよ。それにしても……)」
身分の違う話し相手にしか思っていないとマリナははっきり言った。ただ、ナシュカは流石にそこまで素っ気ないのはおかしいと思っている。カーズは性格はあれだが顔は美形で女性に多大な人気を持っている男だ。そんな人物に好かれて友人とすら思っていないようなことにどうしても違和感を感じてしまう。
「身分の違う話し相手にしか思っていない。ということは友人とも思えないということでしょうか?」
「はい。カーズ殿下には好意を抱く要素がありませんから」
「え? マジか?」
「そこまで……?」
きっぱりと口にするマリナ。バートとバイラは信じられないといった様子で顔を見合わせる。ナシュカは面白そうに口元を釣り上げた。流石にマリナでもカーズに少しくらいは情があると思っていただけに、こんな反応をされることは予想外だったからだ。それが愉快に感じてしまう。




