44.恋慕?
「お勤めご苦労さん、終わったよ。これからも頼むわ」
「「はい、お疲れ様です!」」
レフトンはカーズの自室の前に佇む護衛二人に笑顔で声を掛けると、その二人から敬意と親しみを込められた声が返ってくる。ナシュカはその様子を興味深く見ていた。
「(カーズ兄さんの護衛なのにレフトン兄さんにこんなふうに接するなんて……)」
気になったナシュカの視線に気づいたレフトンはナシュカに耳打ちした。
「小さな弟よ、これから二人きりで馬鹿兄貴の愚痴をこぼし合わないか? 俺さ、兄貴の悪口を言いたくて仕方ねえんだ」
「いいけど……小さいは余計だよ(コンプレックスなのに)」
ナシュカの目が鋭くなってレフトンを睨んだ。
◇
カーズの部屋を後にしたレフトンとナシュカは、本気で長兄の愚痴をこぼし合っていた。
「ふぅ、世話のやける兄貴だぜ。感情的すぎらぁ」
「全くだね。もっと周りを見てもらわないと困るよ。そんなんだから最高の女性が離れていくんだよ」
最高の女性、ナシュカがそんな風に評価する女性は数少ない。このタイミングで言うと一人しか当てはまらない。
「サエナリア嬢のことか、最高の女性って?」
「当たり前じゃないか。マリナ様は普通だけど、サエナリア様ほど優れた女性はそんなにいないよ。あの人は僕の伴侶になってほしかったとすら思うほどにね」
ナシュカは寂しそうに笑う。それを見たレフトンは少し驚いた。小柄ながらも冷静沈着で聡明なナシュカがこんな顔をするのは初めて見た気がしたからだ。だからこそ「まさか!?」と思った。
「あれれ~、お前ひょっとして、兄貴の婚約者に惚れてたのか? いくらなんでも王太子の婚約者に恋慕するなんて度胸がいるんじゃね?」
レフトンは普段のようなからかう調子で聞いてみたら、ナシュカは寂しそうに答えてきた。
「恋慕……とはいかないけど、憧れはあったね」
「おお! 憧れか! 本気で寝取るつもりだったのかよ!?」
レフトンはわざと大げさに驚いて見せたが、ナシュカは真面目な顔を崩さないで告げる。
「寝取るっていうつもりはないよ。ただ、サエナリア様は僕が見てきた女性の中で一番と言っていい最高の貴族令嬢だっていうだけさ。誰が国王になるにしても、彼女が王妃になればウィンドウ王国は安泰だろうね」
「ふ~ん、安泰ねぇ。だがよ、サエナリア嬢を輩出したソノーザ家は最低だったらしいじゃねえか。そんな家の娘を王家に迎えれば他の有力貴族が黙ってないぜ。兄貴が親父たちにばらしちまったしよ」
「いや、彼女の総合能力をもってすれば問題ではないさ。王家の権力を使ってでも取り込んでもおつりがくると思っているよ。この際、ソノーザ家はどうでもいいんだ。むしろ無くなって構わない。……カーズ兄さんも余計なことをしてくれたよ。まあ、ソノーザ家の家庭事情については遅かれ早かれバレてただろうけどね」
笑顔で権力乱用を口にするナシュカを見て、レフトンも真面目に考え始める。ナシュカの気持ちが本気なように見えるのだ。
「(こいつ、まさか本当にサエナリア嬢に恋慕を? マジか? マジなのか?)」
「レフトン兄さんこそどうなの? サエナリア様について思うことはあるんじゃない?」
「ん? 俺か?」
サエナリアのことで話を振られたレフトンは事実だけを口にした。




