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6.応接室 2

 6


 ――リエラ王国・王城応接室。


 撃ち抜いた壁を見つめるケヴィン。

 壁は細やかな装飾が施されており、その一部には弾丸の跡が残っている。


 銃声を聞き付けた騎士達が応接室へ姿を現し、ケヴィンは駆けつけた騎士達を睨みつけた。


 彼らはその迫力に怯えた表情を浮かべ後ずさる。


 ケヴィンは剣を持っていた騎士に歩み寄り「少し借りるぞ!」とだけ言いい、騎士の持つ剣を鞘から抜き取る。

 それから剣を握り撃ち抜いた壁の前に立つと、その壁に向かって力強く剣を振り下ろす。


 剣は容易く壁を切り裂き、壁がボロボロと剥がれ落ちていく。


 壁にしては余りにも脆い。

 剥がれた箇所をよく見るとそれは壁などではなく、壁の擬装を施した板。


 ケヴィンは無表情でその板を蹴飛ばす。

 板は簡単に破壊され、その中は空洞になっていた。


 その空洞の中にはケヴィンの銃弾を受けた男が苦痛に顔を歪め、蹲っている。

 ケヴィンはその男の髪を掴み強引に引きずり出して蹴り飛ばす。


 血を流し這い蹲りながら逃げようとする男。

 ケヴィンはその前に立ち塞がり再び蹴りを放つ。


 容赦のない攻撃、非情なまでの追撃を見ていた騎士達は顔色を青く染めていく。


 ケヴィンは床に寝転ぶ男を見つめながら呆れた顔で、


「こいつは見たところ諜報のやつだな。壁に小細工した部屋に俺達を通して今度は諜報活動かよ。コイツらよっぽど暇なんだな。まぁ、おかげでこっちのカードが増えたから、それはそれでいいんだけどよ」

「閣下、ひとつお願いが御座います」

「ん、何だ?エレイン」

「そのカード。私に“貸し”という形で、今回は譲って頂けませんでしょうか?」

「ん、貸しか。その顔じゃ、何か考えがあるんだろ? 」

「はい。ハルナは現在のところ、この国に協力しているみたいですが、このカードで今後は私達と共に行動できるように話を持っていくつもりです」


 その応えにハルナが驚く。

 目を見開きじっと二人を見つめる。

 エレインはハルナの肩に手を伸ばし、優しく抱き寄せた。


 エレインは人を観察し分析することを日常的に行なっている。

 彼女はハルナを見て、その言動、表情をじっくりと観察していた。


 明るく元気に振る舞うハルナ。

 誰が見ても年相応の元気な少女であり、晴れやかな笑顔を見せる子供である。


 しかしエレインの目に映るハルナの姿は、不安を圧し殺すように、努めて明るく振る舞っているように見えていた。

 無理をしている。

 このままでは壊れてしまう。

 エレインはそう感じていたのだ。


 ハルナの不安な表情、怯えているような仕草をエレインは見逃さなかった。


 出会って間もないケヴィンとエレインに、助けを求めるのは容易なことではない。

 しかも謁見の間で色々と暴れた二人。


 ハルナがそんな二人にわざわざ会いに来たのは、相当な覚悟が必要であっただろう。

 エレインの行動はそんなハルナの心情を察しての行動だった。


「えっ、え?!いいんですかエレインさん」

「もちろんよ!ハルナさえ良ければの話だけどね。それともこのまま城に残る?」

「あの、ここには残りたくないです!ケヴィンさん、エレインさん、良ければ私もご一緒させてください!」

「あぁ、いいんじゃないか。元々ハルナはこの国に勝手に召喚されて来てる訳だし、国民でも配下でもないんだろうし。それはハルナの自由だからな。じゃあ“貸し”って形でエレインに付けとくよ!」

「有難う御座います閣下。この貸しはいずれ、しっかりと返させて頂きます!」

「ありがとうございますケヴィンさん、エレインさん」

「それはいいとして、こいつどうする?――おいお前ら!そんなところで突っ立ってないで、さっさと話出来るやつ呼んで来い!」


 ケヴィンが声を荒げ指示すると騎士達は慌てて部屋を出て行く。


 エレインは思い出したようにキャリーバックの中を漁り、その中から黒革製の拘束具を取り出す。


 彼女が取り出したのは拘束具。


 ケヴィンは彼女が男を拘束する黒革製のいかにも、というデザインの拘束具を見つめながら唖然とした表情を浮かべていた。


 そのいかにもというデザインの拘束具。

 それがエレインのキャリーバックから出てきた。


 それだけでも十分驚いたが、凄いのがその手際の良さだ。まるで宅配便の受け取りでサインするかのように、彼女は手馴れた様子でパパッと拘束を済ませてしまう。


(おぉ、スゲェな。この手際の良さ。

 あっ、あれ?!キャリーバッグに黒い棒?え、えっ、えぇぇ?!まさか鞭?鞭なの?

 いや、でも。今はハルナみたいな子供がいるし、一応釘刺しておいた方がいいな)

 

「――あー、その、エレイン。人の趣味はそれぞれだと思うし、なるべく余計な詮索はしたくないが、エレインがその道の熟練者っていうのも手際を見て分かった。 でもほら、今はハルナみたいな子供もいるんだし、その極めた技を見せたい気持ちは解るけど、なるべく程々に頼むよ?」

「――えっ?!ちょっ、ちょっと違います閣下!へ、へ、変な勘違いしないでください!これは護身用に取引先の人がくれた物なんです!本当なんですよ閣下!信じてください!こ、こ、こんな趣味、私にはありませんから!」

「あ、うん。そだね。そういうことにしとく」

「――閣下、ちょっと待ってください!その言い方、全然信じてませんよね?!ハルナもいることですしこの件に関しては、閣下にお時間を頂きじっくりと説明させて頂きます!」


 耳まで真っ赤に染まるほど顔を赤くするエレイン。


 恥ずかしそうに俯いてケヴィンに顔を見られないようにしている。


 ハルナはそんなケヴィンとエレインのやり取りを楽しそうに見つめていた。


 程なくして先程出て行った騎士達がベネスを引き連れ応接室に姿を見せた。

 ベネスは焦りと、怯えが混じるような表情で恐る恐るケヴィンに訊ねる。


「ケ、ケヴィン閣下、如何されたのでしょうか?」

「オイ!おっさん、惚けるんじゃねぇよ!コイツはお前のところの諜報だろ?小細工した部屋に通しやがって、挙句に諜報まで差し向けるとはな。こんな素人に毛が生えたような、身体の使い方、気配の殺し方も知らねぇ諜報を俺に出すなんて、いい根性してるじゃねぇか」

「い、いえ。何かの間違いではないでしょうか?」

「しら切るつもりかよ?まぁ、いい。まだ“教育”が足りなかったみたいだな。エレイン、ハルナ。ちょっとそこの隅まで下がっててくれ!」


 ケヴィンは二人を部屋の隅に下がらせて、ジュラルミンケースから手榴弾を取り出す。

 そして冷たく、意地の悪い笑みを口元に浮かべながらベネスに見向いて言い放つ。


「お前らの王はどうも頭が悪いらしいな。自分達が置かれている状況をまるで把握してない。俺もここまで馬鹿な奴は久しぶりだから忘れていたが、こういう馬鹿な奴らは何度も繰り返す。さっきまでは殺さない様に加減してやったが、もう次は無いと思った方がいい。そうしないと、こうなる――」


 ケヴィンはそう言いながら、諜報員が隠れていたスペースに手榴弾を放り込む。


 手榴弾が床に落ちコンと床を鳴らす鉄の音。

 その直後――爆発そして響き渡る轟音。

 爆風が身体に覆う。


 さっきまで目の前に確かにあった諜報員が隠れていた小さなスペースが無くなり、壁は跡形もなく崩れ落ち、その部分は大きな間口のように貫通していた。


 爆破の威力もあって奥側にある壁を破壊し隣の部屋を見通せるように形を変える。

 その爆発の威力は壁だけに留まらず、振動により窓ガラスは割れ、壁だった石材は小石のようになっていた。


 その状況を見たベネス。

 瞼を閉じてゆっくりと息を吐く。


 そこからの話し合いは早かった。

 ハルナの件はあっさりと了承した上で、更に今回の慰謝料として軍事費の一割、二人分で合計二割を約束を交わす。

 そして今回の件は王が差し向けた事をベネスは認め謝罪を重ねた。


 それからベネスは騎士達を部屋の外に出し、人払いをした。


 部屋の中にベネスを含め四人だけになると、ベネスは手の平を返すように本当のことを話し始めた。


 謁見の間で話した魔王軍討伐が嘘であること、召喚の本当の目的は遺跡にあると思われる宝具。

 その宝具の為に、北壁の森に住む一族に協力を求め、兵士を向かわせる予定であること。

 そして王は今後、ケヴィン達へ遺跡に向かう為、協力を求めるだろうという。


 ベネスはケヴィンとエレインの質問にも、真摯に応え、現在は完全にリエラ王国の内通者となっていた。

 ケヴィンは急に手の平を返したベネスを見定めるように見つめる。


 罠の可能性もあるだろう。

 しかし演技とは思えないほどに必死になって話を続けるベネス。


 思い詰めたような、命乞いをするような。

 嘘偽りのない真実の姿。

 その姿を見てケヴィンはチラリとエレインに視線を送ると、彼女はケヴィンの言いたいことを理解しコクリと頷く。


「――おい、おっさん。お前の目的は何だ?

 急に手の平を返すような行動。それなりの理由があってのことなんだろ?」

「はい、やはりケヴィン閣下にはお見通しのようですね。正直にお話します。ケヴィン閣下のそのお力、そして国力。我が国では到底敵うものとは思えません。その閣下に対して、サンドエル様の言動。あの御方ではこの国が滅びていくのは時間の問題でしょう。私も為政者の端くれです。私利私欲で国を導けば綻びが出てくるのは理解しております。私は、ただ、この国を守りたいだけなのです。生まれ育ったこの国を滅ぼしたくはありません!ですが残念ながらサンドエル様にはそれは出来ないと判断しました。サンドエル様にこの国をこのまま任せていたら、近い将来、私が愛したこの国を滅ぼしてしまうことになるでしょう。そう判断をした上でケヴィン閣下に全て正直にお話をさせて頂いているのです」

「ふーん、なるほど。そういうことね」


 サンドエルが心中を語る。

 彼は自分は善人ではないと口にした上で、現在のサンドエルを含めた王宮、リエラ王国ね状況をケヴィンに説明していく。


 あざとく卑しい私欲剥き出しの人間達の寄せ集め。

 それが今のリエラ王国の現状だった。


 だからこそベネスはこの国の将来を憂う。

 そしてベネスはケヴィンとエレイン。二人の目的にもおおよその察しをつけていた。


 そのことを二人に話をするとケヴィンは悪怯れることなく肯定し「そういう奴等に金は必要ないだろ?」と悪魔のような笑いを浮かべた。


 二人と話を重ねていくうちにケヴィン、そしてエレインの世界における政治、思考に、リエラ王国が遅れをとっていることを思い知る。


 そしてケヴィンに「王族や貴族連中には仕事の対価に相応しくない金を貰っている奴等がいるだろ」と言い当てられ、ベネスは返す言葉が無かった。


 二人は能力のある者には相応の対価を払うべきであるとした上で、そうでない者からはとことん絞り取ると堂々と宣言。

 そのあからさまな発言にベネスは思わず笑ってしまう。


 だがベネスもそうあるべきと考えており、そこは二人の目的と一致していた。

 そして奇妙な協力関係が成立。

 それからベネスは二人から聞いた話を元にした様々な提案をしていく。

 その提案にケヴィンは眉をひそめ、エレインは楽しそうに話しを聞いていた。

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