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5.宝具

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 ケヴィンが応接室でエレイン、そしてハルナと話し合いをしていた頃。

 国王の執務室ではサンドエルと宰相のベネスが打ち合わせを重ねていた。


 落ち着いた色合いで統一された一級品の家具。

 奥には趣き深い優雅な木製の机。

 その大きな机には細やかな模様が彫刻されており、重厚な雰囲気を漂わせている。

 室内のところどころに金を施しているが、アクセント程度に使われており、落ち着いた雰囲気を損なうことはなく調和している。


 サンドエルは自身の重い身体を背凭れに預け、ぼんやりと天井を見上げてながら、


「ベネス……彼を召喚したのは運が悪かったな。アレは危険過ぎる。我が国で手に負えるようなもんじゃなかろう?」

「陛下の仰る通りだと思います。しかしながら彼を上手く使えば、陛下の目的である宝具も、容易く手に入れることが可能なのではないでしょうか?」

「ふむ、そこが悩ましいところだな。ハルナやユウキでは、あの地へは辿り着くことは出来んだろうしな」

「そうですね。ユウキに至っては、訓練中に魔物に殺されるという情け無い始末です。陛下、この件でご提案があるのですが……同じ召喚された者として、ハルナに彼等を懐柔させてみるというのは如何でしょう?」

「ふむ、なるほど。試してみる価値はあるな。至急ハルナをここへ呼んでくれ」


 サンドエルがそう言うと、ベネスは部屋の外に待機している騎士を呼び、ハルナを連れてくるように命じる。

 ベネスが再び元の位置に戻ると、サンドエルが眉をひそめながら話を続けた。


「今は彼等の情報が欲しい……まぁ諜報が良い情報を持ち帰ってくれればいいのだが」

「――閣下!まさかあの二人に諜報を送っているのですか?」

「うむ、何とかしてあやつらの弱味を握らねばなるまい?」

「――し、しかし閣下!彼は一国の将軍です。先程は話し合いで解決することが出来ましたが、これ以上また何かありましたら流石に敵対行為とみなされてしまいます!」

「構わん、流石に我が国の諜報を察知することは出来ぬだろう。我が国の諜報の前では、あの帝国ですら情報が筒抜けなのだぞ?」

「……ですが」

「――儂が構わんと言っておるのだ!少しはうちの諜報を信用したらどうじゃ、ベネス」

「はい、閣下がそう仰られるのであれば」


 サンドエルは自信に満ちた表情を浮かべながら、ゆっくりと紅茶を飲み、喉を潤す。


 一方でベネスは表情こそ変えなかったが、彼の瞳の奥は不安の色が滲み出ていた。

 諜報の実力も実績も理解している。

 しかしそれがケヴィン達へ通用するかは別の話。

 あの異世界から来た二人にはこの世界の常識が通用しないのではないか。

 ベネスはそう感じていた。


 楽観的なサンドエルに対しベネスは追い詰められたような表情を浮かべる。

 これまでの二人の行動について、何度も繰り返し思考を巡らせていく。

 その結果、ひとつの不安が胸に残り落ち着かなかった。


(彼等が何故、我々を蔑み、煽るような言動をとったのか?)


 その疑問に対しての答え……

 まさに今回の慰謝料、損壊賠償金を支払う約束を交わした、あの結果にあった。

 こうなる事を計算して煽っていたのであれば、彼等の言動は腑に落ちた。


 リエラ王国は狡猾に仕組まれた罠にはまってしまった。


 ベネスは瞼を閉じ、じっくりと考える……

 サンドエル様は何を考えているんだ?

 こんな状況で諜報を出すなんて……

 ケヴィン閣下はサンドエル様と違って賢い。

 多分……あの煽りも、こうなることを計算し、国から金を出させる為の行動だろう。

 それにあの見たことがない武器。

 そしてケヴィン閣下の背後には強大な力を持つ国があるというのに……

 サンドエル様は馬鹿なのか?!

 もしケヴィン閣下が、我が国と戦争することが目的だったとしたら……

 この国は近い将来、謁見の間で見た国と同じ運命を辿ることになってしまう。

 それに、また敵対するような行動をしてしまえば、もうこの国は……


 ベネスの頭の中で、大きく広がっていく、いいようがない不安。

 そんな不安を振り払うかのように、小さく頭を振り、気持ちを入れ替える。

 

「陛下、レイモンドとアインツ。あの二人の処分は如何致しましょう?」

「ふむ、アイツらは本当に馬鹿よのう……しばらくは地下牢にでも入れておけ。アイツらも一応は貴族だから、そう簡単に粛正するわけにもいかんからな」

「では、そのように致します」

「それと、ベネス。例の一族の件はどうなった?」

「使者を送って交渉をしておりますが、今のところ良い返答はもらえておりません」

「そうか……宝具の為にもエルフ達の協力は必要だ。見せしめに何人か殺しても構わん。次は兵士達を連れていき、其奴らにもしっかりと協力してもらえ!」

「御意。では早速遠征隊を組んで北の森へ兵士達を向かわせるように致します」


 サンドエルが話す北の森の一族。


 その一族とは魔物の巣窟と呼ばれる北壁の森に住むエルフ族。

 彼らならば諜報が帝国で得た遺跡のことを何か知っているかもしれない。

 幸運なことにその遺跡はリエラ王国内にあるというのだ。


 北壁の森、最奥の地。


 屈強な魔物が数多く存在する森の中で、異様な強さの魔物達が住む地。

 足を踏み入れた冒険者達は二度と返ってくることがない為、冒険者達の間では帰らずの森とも呼ばれていた。


 帝国から入手した情報によると、その遺跡には魔物達が守る宝具があり、その宝具は魔物達を統べる力を持つという。


 サンドエルの目的はその宝具。


 彼は年老いても、この大陸の覇権を握ることに関しては意欲的に活動していた。

 百年の歴史があるといってもリエラ王国は近隣の国々から見れば歴史が浅く、小国と呼ばれる位置付けにある。


 その宝具を手に入れられることが出来れば、魔物達を統べ、現状を打破出来るとサンドエルは考えている。


 サンドエルはニヤリと笑い、


「ベネスよ、そう難しい話ではなかろう?力とはな……数、そして知恵だ。相手が少数の一族ならば、こちらは数を用意して、一族を圧倒すればいい。相手が従わなければ、女、子供を捕縛して、そいつらを盾に、彼奴らに言うこと聞かせてやればいい。簡単な話であろう?」

「閣下の仰る通りです」


 サンドエルは再び身体を背もたれに預け、ゆっくりとまぶたを閉じた。


 北壁の森エルフ族。

 そして強大な力を持っているとはいえ、この世界ではまだ単独で行動しているケヴィン。


 サンドエルはこれらを、数で何とかなるものと楽観していた。

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