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4.応接室 1

 4


 謁見の間でひと通りの話し合いを終え 、ケヴィンとエレインは応接室へと案内された。

 金を用意するまで時間がかかるというので、その間はこの応接室で待つことに。


 案内された応接室は床に赤い絨毯が敷き詰められ、絢爛豪華な家具、部屋の隅々まで華美な装飾が施してあり、華やか過ぎるくらい豪華な部屋。


 二人は部屋の中央に置かれた椅子に座り、これからの行動について話し合う。


「それで閣下、これからどうするおつもりなのでしょうか?」

「あー、エレイン。俺の事はケヴィンでいい。周りに人の気配は無いから安心してくれ。俺はとりあえず城を出て情報集めだな。それからしばらくの間は戦力を整える為に人目に付かない街の外でトレーニングしておきたい。エレインはどうするつもりなんだ?」

「なるほど、私も同じく街で情報集めかしら。ケヴィンの言うように今後に備えて戦力は整えたいわね。外に出る期間はどの位考えているの?」

「最低でも一カ月は考えている」


 二人が戦力を整えておきたいと考えているのは権力者達の次の行動を想定し、その対策としての行動。


 恐らくまた誰かが力により従わせようとするか、金、監禁、濡れ衣などの手段を用いて、自分たちの駒にしようと行動してくるだろう。


 二人はそうなる前にこの国で自身の立場や、自らの戦闘力の強化を図っておきたいと考えていた。


「なるほど、一カ月か。それなら私は街で店でも開いて人脈を広げて、有力者を味方に基盤を作った方が良いかもしれないわね。私の場合、身体動かすよりもどちらかといえば商売の方が本職みたいなものだから」

「そうだな、得意分野を生かした方がいいかもしれないな。あとエレイン、護衛は早めにつけておいた方が良いと思うぞ。この城の連中は信用できない。俺達が召喚された時、見ただろ?アレを……魔王の話自体も嘘くさいしな」


 召喚された時に見た光景。

 それは演習場に五百人ほどの魔法士が集められ集団魔法によって行われた勇者召喚の儀式。


 二人はその儀式が、どの位の期間行われていたのか知らないが、百人以上の魔法士が床に横たわり、そして命を落としていたのを実際にその目で見た。

 それに生きている魔法士達も、目は虚ろで異常な雰囲気を醸し出していた。


 死に直結するような集団魔法と自我が欠けたような魔法士達。


 このような危険が伴う召喚の儀式で、これ程まで人が集まるものなのか?

 集めた手段、魔法士達の様子、先程聞いた話では三ヵ月前にも同じことをしているという。


 このようなこともあって、ケヴィンはこの国に対して疑念は募るばかりであった。


 エレインは艶めかしい仕草で、ポンポンと唇を触りながら思案しケヴィンに応える。


「そうね、ケヴィンの言う通りね。やっぱり流石にアレは異常よね。彼等の目的は別のところにありそうね?」

「あぁ、その可能性は高いだろうな。まずはその辺から探ってみるか」

「ケヴィンはそういうの慣れているみたいね?王の前での立ち回りや彼等が襲って来た時もやけに冷静だったし……そういう関係の仕事だったの?」

「んー、まぁ、色々やってたかな」

「あっ、ごめんなさい!変な詮索しちゃって。私、さっきまで友達といたのに、それが急に異世界に来て、色々とあったから。動揺してたみたい。余計なことを聞いちゃってごめんね。今のは忘れて!」


 エレインはそう言いながら笑顔を見せる。

 彼女が一瞬だけ見せた不安な表情。

 その表情は彼女が謁見の間で見せたやり取りからは想像もつかなかった。


 ケヴィンは彼女のその不安な表情を見逃さず少し間を置いて、


「ん、エレイン。俺は別に気にしてないから、そんなことで謝らないでくれ。君が不安なことも分かっているつもりだ。エレインが良ければ街の外でトレーニングする時一緒に付いてくるか?」

「ごめんね、何か気を使わせちゃったみたいね。大丈夫よ!気持ちを切り替えるわ。それにケヴィンの提案はすごく嬉しいけど、足手まといになるのは嫌なの!だから私は私だけに出来る仕事をするから安心して 」


 それから二人は今後の詳細について打ち合わせをしていく。


 城を出た後の連絡方法、緊急時の隠語、王や配下の者達への対応方法や、万一襲われた時の防衛手段など多岐に渡って確認していった。


 そして武器や防具に関してはエレインは銃を一丁しか持ち合わせていなかった為、ケヴィンがジュラルミンケースから幾つか護身用の武器を取り出し貸し与えることにした。


 そんななか応接室のドアがノックされる。


 エレインは立ち上がって、右手に銃を持ちノックの音に応えると、ゆっくりと扉が開かれ黒髪の少女が姿を見せた。


 腰まで伸ばした髪に黒く綺麗な瞳。

 背は低くエレインより頭一つ分は小さい。

 幼さの残る顔立ちが愛らしく、おっとりとした印象。


「あ、あ、あの初めまして。わ、わ私ハルナと言いましゅ――」

「ふふ、緊張しなくても大丈夫よ落ち着いて。さっき謁見の間にいた子よね?」

「は、はひ!お、お二人とも凄くカッコ良かったです!」

「まぁ!ありがとう。それでどうして私達のところに?」

「今日は、えっと、何というか、その。お疲れ様でした!あっ、これは違うのかな?それで、その、私もお二人と同じく勇者召喚されてこの世界に転移してきたので。私、何となくお二人の気持ちが分かるんです!それで、私でも何かお役に立てればと思いまして挨拶に来ました!」

「俺はケヴィンだ。わざわざありがとう」

「私はエレインよ、宜しくね」

「こちらこそ宜しくお願いします!私は三ヵ月前に日本から召喚されてしまったのですが、お二人はどちらか来られたのですか?」

「ん、ニホン?聞いたことない国だな。俺はマクドウェンディだ」

「私はエイプヴォルディアよ、閣下ほどの大国ではないけど、世界三位の国の面積を持つところの出身よ」


 ケヴィンとエレインは、先程話し合いをした内容でハルナの質問に答えていった。

 ハルナは聞いたことがない国の名前に少し残念な表情を浮かたが、小さく拳を握り気合いの入った眼差しで話を続けていく。


「そ、そうですか。やっぱりお二人は私の知らない世界から転移して来たみたいです!こっちの世界は私も知らないことが多いのすが、なんでも聞いてください!あっ、でも分からなかったらごめんなさいです!」

「ふふっ、ありがとう。元気なのねハルナ。早速だけど質問してもいいかしら?」

「はい、もちろんです!」


 二人はハルナにこの世界のことについて色々と質問していく。


 エレインはこの世界の貨幣についてや食料品の物価、どのようなものが流通しているのか、など主に商売に直結するようなことを聞いていた。


 そしてケヴィンは騎士以外に戦闘力を必要とする職業、魔法の習得方法やこの世界の人達が使う主な攻撃手段など、戦闘に関連することを聞いていく。


 この世界に召喚されてから三時間……


 ハルナからの情報によってケヴィンとエレインの二人はこの世界についての情報が補填され、ようやく頭の中でイメージ出来るくらいに積み重なっていく。


 二人の質問にハルナは手と足を忙しなく動かしながら楽しそうに応え、その様子はまるで子供が大好きな漫画の話を興奮しながら伝えているようにも見える。


 特にハルナが冒険者について話をしていた時などは、まさにハルナの一人舞台が始まってしまい、一人何役もこなすハルナを見てケヴィンは必死に笑いを堪えながら見ていた。


「あー、ハルナ。そういえば集中すると人の周りに金色に光る粒子が見えるんだけど、これも魔法の一種なのか?」

「えっ?!ケヴィンさんそんな風に見えるんですか?」

「ん、ハルナは見えないのか?魔法使いの奴なんかは体内に大量の粒子が流れていたのが見えたけど?」

「いえいえ私には見えません!でも、もしかしたらそれ魔力だと思います。前にここの図書室で昔の賢者様が書いた本を読んだのですが、熟練した魔法士は魔力が見えると書いてありました!」

「俺、熟練した魔法士じゃないんだけど?」

「でもでも凄いじゃないですか!めちゃくちゃカッコイイです!羨ましいですケヴィンさん。私なんかすっごい期待して魔法の練習しているのに、未だに魔法を使うことが出来ないんですよ!」


 再びハルナにスイッチが入る。

 彼女は魔法が使えたらアレをやってみたい、これもしたいと若干厨二病思想の入ったことを熱弁していく。


 その姿は無邪気な子供だった。

 いや、彼女は実際にはつい先日まで高校に通っていた子供なのだ。


 屈託の無い笑顔。

 未来に希望を持つ心。

 そんな彼女が魔法に夢を重ね熱く語る。


 元々警戒心が強いケヴィンとエレイン。

 しかし二人はハルナのその姿を見てすっかりと警戒心を解きほぐされていた。


 どこから見ても良い育ちをしてきたと窺えるお嬢様のような容姿を持つハルナ。

 擦れてない純粋さ。

 こんな状況でも前向きな性格。そんな彼女に二人は惹かれていく。


 緊張が解きほぐれた和やかな時間。


 しかしその時間も束の間。

 ケヴィンは突如人差し指を口の前に立て、エレインとハルナの話を止める。


 ケヴィンの視線は側面の壁を見つめており、右手はホルスターから銃を抜いていた。


 室内に走る緊張。


 ケヴィンは神経を張り巡らせ身震いしてしまうような鋭い眼差しで壁に潜む気配を隙なく探っていく。


(なるほど。これがハルナの言ってた魔力の流れか。完全に壁の向こうに人型の粒子が見えるな……というかアイツら諜報を送って来やがったのか?)


 ケヴィンは目標を定め躊躇うことなく銃口を向け引き金を引く。

 弾丸が壁を貫く。

 直後、苦痛にもがく声。

 そして応接室には倒れるような鈍い音が響いた。

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