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34.種族長 1

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 リヴィアの雫での試食会から一週間が過ぎ、エル主導のもと教会と孤児院の建築に取り掛かっていた。


 当初は教会と孤児院の建築だけだったが、エレインから警備会社と工場の建築も相談され、そちらはエルの友人達をリエラ王国へ呼び寄せ作ることとなっている。

 たまにディーケイが姉を心配してちょこちょこ現場を見に行っているが建築は順調に進んでいる。


 そしてケヴィンはというと集落の食堂の一室にて新たな住人となった四種族の長達と会食をしていた。


 この食堂はコミュニティ毎に建築した大きな食堂で集落に住む者達が自由に使えるようにしてある。

 木材をふんだんに使った暖かみのある作り。

 新築ということもあって木の香りが心地良い。

 住人達にももちろん好評であった。


 古代遺跡には畑を作った後も魔物達や様々な種族が続々と集結しており、ケヴィンは時間があるときはこうして種族の長達と会食をしている。


 これまで単独の種族で身を隠して生活していた者達が他種族と共同生活を始める。

 今後の不安、環境の変化にストレスを抱える者も出でくるだろう。

 その辺も踏まえて、こうして種族長達と会食の場を設け、ケヴィンの考えを伝えて集落での生活に馴染んでもらう狙いもあった。


 今回会食に参加している四人の長は……


 ・銀狼族の長、ベクター

 ・緋鬼族の長、バーグス

 ・紫狐族の長、ヴァン

 ・エルフ族の長、シェリー


 ベクターに至っては先行して集落に来ていたティアの父親でもあり、白銀の髪に目や鼻などはやはり似ている。

 目を引かれるのがベクターが身にまとう着衣や装備。

 ケヴィンには馴染みの深い諜報などで使う装備、そして見た目は忍者に近い。

 今日は娘のティアも一緒に参加しており、食堂に来た当初からティアはどこか落ち着きがなくソワソワしている。


「しかし今日のティアは落ち着きがないなぁ、調子でも悪いのか?」

「主人殿、何というか拙者も初めての経験でよく分からないので御座るが、父上と一緒に主人殿の前にいるとむず痒い感じがするので御座る!」

「はっはは、分かるぞティア!まお――主人殿の前では、全て見透かされそうであるな」

「うん、まあよく分からんけど。ベクター、ここは少しは慣れたか?」

「はい、拙者共が来て五日ほど経ちましたが毎日驚いてばかりで、楽しくさせて頂いております!」

「驚く?なんか珍しい事でもあったのか?」

「それはもう色々で御座る。一番驚いたのはティアを含めた先行した者達の変わりようです。この子達は村にいた時は表情も乏しく、心が宿ってないのでは?と疑いたくなる程の状態でした。親として何もすることが出来ず、皆心配していたのですがそれが此方に来てみたら見違えるように活き活きとして、よく笑うようになっていたので、銀狼族一同、主人殿には感謝しているので御座る!」


 暖かな眼差しでティアを見つめるベクター。

 ティアは恥ずかしそうに俯き、顔を真っ赤に染める。


 ベクターの話に他の三人もコクコクと頷く。

 ここにいる種族長達は皆、子を持つ親であり、種族は違えど人族に蔑まれ、住む場所を奪われ、隠れて生活をしていた者達。

 同じような経験をし、我が子達の未来を心配する一人の親なのだ。


「私もベクター殿と同じく、マスターには感謝しております。我々紫狐族、生涯マスターへの忠誠を誓いますので、何なりと申し付けてください!」

「然り、我が緋鬼族も主人殿の剣となり盾になる所存です!」

「もちろん私達エルフ族も同じですわ!でも私達はこの子が迷惑をかけている分、他の皆さんよりも頑張らないといけませんね。ふふふ」

「ママ、ソフィはケヴィン様に迷惑かけてないのです!みんなからソフィは出来る子って褒められているのです!」

「ほぉ?ソフィが出来る子?初耳だな、誰がそんなこと言ってたんだ?」

「えーと、スラ吉と、グリと。その他いっぱい言っているのです!」

「ふふっ、本当この子ったら。それって何か言わせている感満載ね!」


 ソフィが腰に手をあてドヤ顔で胸を張ると、シェリーはクスクスと笑いながらズバリ言い当てた。

 その後ソフィはいかに自分が出来る子なのかシェリーに話を聞かせるが、シェリーは「はい、はい凄いわねー」と聞き流し、子供が親に自慢する微笑ましい光景に場が和む。


 実はケヴィンとシェリーは面識があり、ケヴィンが古代遺跡に足を運ぶ前に彼女には会っていた。


 ケヴィンが王都を出てから直ぐに古代遺跡を目指し、エルフ達の住む集落までたどり着いた。

 その時にベネスから聴いていた王国兵士達による集落の襲撃予定やサンドエルの目的を伝え、エルフ族の集落防衛戦に協力していたのである。


 そして無事王国兵士を返り討ちにし、ソフィの案内で古代遺跡へ来たという流れだ。

 ケヴィンが宝具に選ばれし王となってから、エルフ族は森の案内人としての役目を果たしたのだが、里の者達から王であるケヴィンの作る集落に住み、ケヴィンの役に立ちたいという者が多く、今回移住することになったのである。


 会食は食事を楽しみながら話が弾む。

 今日の料理は料理班の講師としてて手伝いに来てくれている副料理長が振る舞う。


「しかし料理とは奥深いものですね。正直なところ食事がこんなに楽しみなるとは思いませんでした」

「ガハハ、そうですな。ウチなんか塩ぶっかけて焼くだけだったから、初めて食べた時は驚きましたよ」

「うむ、拙者共も料理というものには面食らったで御座る!この料理に出されているのがあの畑から採れるとは。収穫が楽しみで御座る」

「他の皆から聞いてるかもしれないが、料理も畑もこれからの生活を楽しく、豊かにする為の一つだ。今はまだ収穫の時期ではないが自分達で作った野菜は格別に美味いぞ!」


 ケヴィンがベクター、バーグス、ヴァンの三人に見向き微笑むと三人はゴクリと喉を鳴らす。


 この三人の種族は料理は最低限の行為しか、しない種族であった。


 彼らの種族は畑で作物を育てるという習慣もなく、森で採取する果実や狩で捕ってきた獲物を焼いて食べたり、湯を沸かし森で採れる山菜や植物を入れて岩塩で味を調えるだけの質素な食生活。


 そうなったのも、これまでに住む場所を転々と移動していた為、作物を育てるという概念が無くなっていった。

 そして誰かに見られたら生命の危機に繋がることもあって料理に長時間火を使うのを避けていた。

 故に料理というものが最低限のシンプルなものになっていったのだ。


 この三人は古代遺跡の集落で食事をしてから、料理にドップリとハマってしまう。

 ここに来てまだ日は浅いが毎日料理班に顔を出し熱心に学んでいた。

 もちろん料理班以外にも三人は様々な班に熱心に通っている。


 このあたりは種族の習性というべきかバーグスは戦闘班に通い詰め、ベクターは諜報活動で何か利用できる魔術道具が無いものかと魔術道具班に通い知識を育てている。

 そしてヴァンは全ての班に顔を出し、様々な種族と言葉を交わし、居住区を見て回り、畑を見て回りと色々な角度から知識と情報を得て、忙しく動き回っていた。


「ふふ、マスターの言う通り、自分達で作った野菜って本当に美味しいのよね!」

「そういえば、シェリー達はこっちの味付けは大丈夫なのか?」

「私達エルフは基本薄味だけど、此方の料理を食べたら皆、こっちの味付けの方が好きみたいで特に問題ありません。本当に美味しいんですもの!」

「そうなのです!美味ぇのです。おっ、お肉発見なのです!」

「あっ?!ソフィ殿、それは拙者のお肉で御座る!」

「ふっふっふ。甘いのですティア、食事は戦争なのです!隙があればやられ――いひゃいのれす、ほっへがちぎれるのれす」

「取れたらくっ付けてやるから安心しろ。食事が戦争なのはお前たちチビ共のルールだろ。他の人が料理を取ったらダメってこないだ言ったのにもう忘れたのか?」

「おもいらしたのれす、てぃあにかえすのれす。ごめんなさいなのれす!」


 ほっぺをビョーンと引っ張るケヴィン。

 引っ張られているソフィは手を合わせごめわなさいのポーズ。

 最近よく見られる光景。

 そんな娘の姿にシェリーは呆れ顔だった。


 ケヴィンに怒られて若干しょんぼりしているソフィを見かね副料理長がお代わりのお肉をソフィの皿に乗せてあげる。

 ソフィはパチパチと手を叩きながら「副料理長は出来る男なのです!」と絶賛。

 ソフィが副料理長を見つめニカッと笑うと副料理長はサムズアップで応える。

 副料理長はお子様組に甘い、大甘な男なのだ。


 会食は堅苦しくなく日常的な光景が見られるような、そんなまったりとした空気の中、皆で食事を堪能していた。



 食事を終え、テーブルにデザートとコーヒーが出される。

 ケヴィンは長達へと見向き、今日の会食の本題を切り出す。


「皆、食べながら飲みながらでいいから聞いてくれ。今日、君達種族長を集めて会食を開いたのは、この集落の目的と今後の方針を伝える為にこの場を設けた。これはある程度人数の多い種族が集落に入る度に、時間がある時に毎回開いている」


 ケヴィンの言葉に四人の長は顔を引き締める。


 主人の考え方によって種族の命運が左右されるのは間違いない。

 主人によっては命を軽んじられ、捨て駒のように使われる。そんな光景を彼らは嫌というほど見聞きしている。

 過去の魔王軍と人族の戦争などがまさしくそれで、王の欲望の為に制圧を繰り返し多くの者達が命を散らしていた。


「この集落を作った目的は皆が安心して楽しく生活する為だ。このことを念頭に考えて欲しい。では、どうすればいいのか。まず考えなければいけないのは、この集落が様々な種族、魔物達によって成り立っている。これだけの数がいれば、その中には他種族を軽蔑し蔑み、見下す者も出てくるだろう。こういう奴等は例外なく集落から出て行ってもらう。

 まぁ、もう規模的には集落なんていうより町といってもいいくらいの規模になってきている。いずれは国に近い規模にもなっていくだろう。そんな規模が大きい集団の中で、蔑んだり、見下したりする者がいれば、楽しく、安心して生活出来ないだろ?よく考えてみてくれ、君達はこれまで人族に蔑まれ、居場所を追われているんだ。ここにいる者達は皆、同じ経験をし、同じ傷を負っている。人族がこれまでしてきた事を、同じ傷を負う仲間たちにさせないよう種族の者達へ浸透させて欲しい」


 四人の長は真剣な眼差しでケヴィンの話を聞き入っていた。


 それは実体験として痛いほど理解出来る話であり、蔑まれる者の痛みを誰よりも分かる故に、ケヴィンが懸念するように実際に自分達の種族がしてしまう可能性がある。

 そう考えるだけでもゾッと背筋が冷えるような話だった。


 確かにケヴィンの言うように、これだけ多種族、多数の魔物達が集えば、自分達の種族の優位性を保つ為に、また自己中心的にそうする者が出て来る可能性は高い。

 ケヴィンは前もってそれに釘を刺した。


「ここに住んでいる仲間達で争っているようでは目的は達成することは出来ないだろう。

 他種族と交流していくのは慣れないだろうが、隣にいる者を気にかけ、辛そうな者がいれば手を差し伸べ、共に歩んでくれ」


 ケヴィンがそう言い終えるとバーグスが感極まり号泣していた。

 ケヴィンの話に自分達が過去に受けてきたことを重ねたのか、他の者達も目が潤んでおり感銘を受けていた。


「そして目的を達成するには色々な問題に取り組んでいかなければならない。その道筋は俺がある程度用意してある。君達にはそれに協力して欲しい!」


 それからケヴィンは集落における課題を提示していく。


 まずは食料の問題。

 現在は畑を広げ、収穫期が来れば充分に備蓄出来るほど豊富にある。

 しかし次々と古代遺跡に集まってくる数を考えると将来的に足りなくなるだろう。

 そして足りない食料を補う為に他所から購入する必要がある。


 そこで食料を購入する為の収入源を作る必要がある。

 これは以前から計画していた牧場班で乳製品、卵、養豚などを料理班と協力して商品化していく。

 畑班ではワインの生成、魔術道具班では魔術道具の商品化により収入を増やす。

 そして新たに増設する鍛治班もまた商品を使っていく予定である。


 そしてその商品をどう売り出していくのか。

 その問題については港町をメインに売り出していく予定である。

 港町からの大量輸出。

 本来なら国がやるべき大事業なのだが、幸いな事にリエラ王国は近隣の国と良い関係にあるとは言いがたい。

 港町の独占事業となるだろう。


 それから必要なのは商品を流通させる経路の確保。

 古代遺跡がある森は北壁の森と呼ばれ、王都や隣接する町へは行き来し難い。

 だから商人達が使えるような安全な流通経路が必要だ。


 その流通経路は現在、ケヴィンが古代遺跡に来る前からここを守護していた黒騎士、リッチ、オーガ、グリッドウルフ達に外敵の駆除、森林の伐採、路の形成と外敵の侵入を防ぐための防壁を作ってもらっている。

 彼らの仕事は予想以上に早い。

 恐らく商品を作る前には流通経路を完成させてしまうだろう。





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