24.侵入者 3
24
警備員達が慌しく動き始める。
侵入者達が外壁を乗り越え、宿を囲むように敷地内に侵入してきた。
五人一組、十方向。約五十人。
そんな侵入者に対し警備員達が一斉に向かう。
しかし多方面からの侵入、数が多いこともあって警備員達だけでは抑えきれない。
侵入者達は警備員達が敷く網を次々に抜けていく。
その侵入者達へ隠れ潜んでいた黒騎士が対応。
それに合わせて屋上にいたケヴィン、リッチ達、グリッドウルフが動き出す。
今回、黒騎士やリッチが本気で対応すると早々に終結してしまう可能性がある。
せっかく実戦訓練がそれでは勿体ない。
そう考えたケヴィンは魔物達にそれぞれ戦闘の際のテーマを設け、禁止行為の縛りを付けて当たらせていた。
黒騎士のテーマは防御、連携。
侵入者の一組を一人で対応する黒騎士。
前に立つ侵入者達は勢いよく飛び出し黒騎士を襲う。
右方向と左方向。
二人同時に間合いに飛び込み振るわれた剣。それに黒騎士は獣のように腰を落とし、自身が高速で回転しながら剣先を弾く。
――キンッ、キンッと響く甲高い音。
それに合わせるように別の三人が、黒騎士の隙を狙う。
上段、横薙ぎ、突きと連ねる三人の連携。
黒騎士は一瞬で見極め。最適解を出す。
それらの連携に合わせて、まるで筆で絵を描いていくように、剣を滑らせていく。
一切の無駄を省いた最短の剣筋。
それが不気味なまでの風斬り音と共に描かれ、剣が放つ光の残像によってその線が浮かぶ。
その黒騎士と対峙する侵入者。
彼らは黒騎士と剣を交わし、本能で理解した。異常であり次元が違う、と。
纏う殺気は濃厚かつ混じりものが無く、故に深い闇の奥に堕ちたようにすら感じる。
そしてその動き。
それは剣技などではなく、まさに目の前の者を殺す為だけに、研がれ磨いた体術。
繰り出す攻撃は容易に捌かれ、回避され、流されていく。
侵入者達は黒騎士との格の違いを感じつつ、絶望感に包まれながら黒騎士と対峙する。
黒騎士はそんな侵入者達としばらく剣を交わし、頃合いを見計らって動き出す。
剣を握りながら腰を落とし地面に手をつく。その姿はまるで獲物を狙う獣の体制。
目線の先は侵入者。
視線を逸らさずにじっと見つめ狙いをつける。空間が歪みそうなほど重圧をかけ。
――刹那、黒騎士が消え……
侵入者達の背後に移動していた。
それに対し必死に対応しようと五人が身体を黒騎士へと向けたその時――凶々しい紫の光を帯びた雷撃が侵入者の二人を襲う。
バタリ、バタリと崩れ落ちる男達。
彼らはリッチの放つ雷魔法の餌食となった。
魔物達の連携。
普通に考えても、それはあり得ないことだった。一瞬で視界から消え、背後を取られ、視線を入れ替えた隙を狙った魔法。
残る三人に緊張が身体を流れていく。
彼らは一呼吸間を置き再び黒騎士に迫る。
それに合わせ黒騎士はワザと隙を見せ、侵入者が「貰った!」と言い勢いよく飛び込む。
しかしそれは黒騎士の誘い。
飛び込んで来た男へ横から雷撃が襲った。
黒騎士の背後にいたはずのリッチがいつの間にか横へと移動しており、死角から魔法を放ったのである。
立て続けに連携を見せる黒騎士とリッチ。
それを見ていたケヴィンが黒騎士の前に姿を現わす。
その状況をケヴィンの死角から侵入者が狙う。
それを見ながらケヴィンは「こういう奴等は大概にして足元が疎かだ!」と言いながら剣を受け、薙ぎ払うように足払いをかけた。
ふわりと男が宙に浮き地面へ背を落とす、と同時にケヴィンは顔を蹴りつけた。
間をおかずに別の者がケヴィンに剣を振り下ろす。
振り下される剣にケヴィンはその軌道が解っていたかのように、斜め横へ踏み込んでカウンターで相手の腹へと拳を当てこむ。
男が剣を落とし地面で悶絶しているところに、彼は腹を蹴り飛ばす。
ケヴィンは黒騎士へと振り返り声をかける。
「今の見て解ったろ?モーションが大きいと攻撃は読みやすい。相手が弱ければそれで問題ないが、実力がある奴にはその攻撃が隙にしか見えない。致命傷になることもあるから気を付けろよ」
「……」
「ん、稽古して欲しい?しかし相変わらず熱心だよな。偶には息抜きしろよ」
「……」
「ん、今の台詞。有名な役者が言ってたような気がすんな。稽古は明日な、それじゃ二人とも捕縛と援護の方に回ってくれ!さっきからグリが倒す度にチラチラとこっち見て、何かアピールしてるから俺はあっちに行ってくる」
「……」
ケヴィンの言うグリとはグリッドウルフのことである。
グリは南側の宿泊棟を担当しているが、侵入者を倒す度に、ケヴィンへと振り向き「見てました?」と言わんばかりに熱い眼差しを送っていた。
ケヴィンはそんなグリのアピールに応え、宿泊棟へと移動する。
グリが担当している地点は広範囲。
そしてグリに課せられた今日のテーマが広範囲防衛、連撃。
グリは宿泊棟の前にある庭園を縦横無尽に走り回り、侵入者達を前足で次々に叩き飛ばしていく。
そしてピタリと止まってケヴィンへと見向き「くぅーん」と鳴き声を上げる。
それにケヴィンは「解ったからそのアピール止めろ!」と言いながら相手の攻撃を防いでいく。
隙を見てケヴィンは相手に魔法を放つ。
すると魔法を受けた男が勢いよく飛ばされ、奥にいる侵入者へと身体ごと激突。
鈍い音を響かせ奥にいた侵入者の意識を奪った。
ケヴィンは倒れた相手を見つめながら、
「こうすると広範囲に敵がいても対処出来る。これのいいところは一回の攻撃で余裕を作れることだ。余裕があれば色々出来るし、戦闘の質も上がる。よし練習だグリ!」
と楽しそうに言う、それに「くぅーん」と応え再び侵入者へと駆け出していく。
侵入者がグリへ向かってくる。
体高三メートルを超えるグリの大きな体と比べれば侵入者が子供のように小さく見える。
グリは侵入者の一組に突っ込んでいき、身体の側面を前足で横から払うように叩きつけた。
人が軽々と飛んでいく。
叩き飛ばした前足を今度は逆方向へ、裏拳を出すような形でまた人を飛ばす。
軽々と飛ばされた侵入者は一人は地面に、もう一人は他の侵入者へ激突し意識を失う。
侵入者達はグリの繰り出す攻撃に後ずさる。
人知を超える力を前にし、退却をしようと宿泊棟に背を向けて走り出す。
それを見てグリは体を丸め、力を込めるような体制をとった。
そして次の瞬間には射出された弾丸の如く侵入者に飛びかかり、彼らの頭、身体を足場にトントンと飛び移りながら移動していく。
足場にされた侵入者達はその異常な筋力により、頭から地面に叩きつけられた。
本来ならば黒騎士、リッチ、グリッドウルフのように力を持つ魔物は連携などしない。
個の力が余りにも強い為、その必要がなかったからである。
しかしケヴィンの考えでは、本当の強者を前にした時、これまで魔物達がしていた攻撃では通用しないと見ている。
力任せの単調な戦闘術。
それは魔物達が強者故の戦い方であった。
だがその戦い方では、同格またはそれ以上の者には全くといっていい程無力。
現に魔法と剣の修行を始めたばかりのケヴィンに魔物達は手も足も出ずに負けていた。
そんな事もあって魔物達はテーマを与えられ、今回の戦闘に参加しているのだが、リッチの場合は連携と移動である。
リッチ達の連携は黒騎士達との戦闘で見せたように大分上達していた。
そしてケヴィンがリッチ達のテーマを移動にしたのは、新しい戦い方を試す為。
魔法を使う者の戦い方として後衛に陣取り、魔法を放つというのが一般的な戦い方ではあるが、後衛で動かないというのは的にし易い。
ケヴィンも訓練にリッチが参加するようになってから、何度もリッチ達と戦闘しているが余りにも呆気なく倒れていくリッチ達に、その戦い方を辞めさせた。
狙撃手が居場所を教えながら戦うやり方を改めさせ、転移魔法で転々と移動し、隠密に行動し狙い撃つ戦闘の方が効果的だからだ。
加えて今回の戦闘で中距離で魔法を放つ遊撃の経験を積ませるいい機会でもあった。
転移魔法で相手の側面、背後に突然現れ魔法を放ち、またすぐに姿を消していくリッチ達。
まさに侵入者達を翻弄していた。
その姿にケヴィンは満足気な表情を浮かべている。
◇◆◇
侵入者達は予想通り、あっという間に片付いた。
侵入者の内、五人ほどワザと逃しディーケイの使い魔達が彼らの後を追跡している。
そして捕縛した侵入者は早速地下の訓練室に連れていき、尋問を始めていた。
戦闘を終えた魔物達はぞろぞろとケヴィンの元に集まって来る。
彼は笑みを浮かべ魔物達の戦闘を労う。
黒騎士は恥ずかしそうに俯いて、リッチはポリポリと指で頬骨をかく。
何とも人間らしい反応をする魔物達の中で、グリッドウルフだけが猫のように彼の足元に頭を擦り付けていた。
ケヴィンはそんなグリに対し、
「こら、グリ。猫の真似事なんて誰に教えてもらった?それに、グリッドウルフはくぅーんって鳴かないって聞いたぞ!それ犬の泣き真似だろ?誰の入れ知恵だ、さぁ吐け!」
と突っ込んでいた。
それを聞いた魔物達は楽しそうにしている。
その様子を屋上から眺めるエレインとマティス。
「本当、ケヴィンって不思議な人ね。初めはあの腕輪があるから魔物達に慕われていると思ってたけど、どうやら違うみたい。畑作りに参加した時に考えを改めさせられたわ!」
「そうですね。多分、ケヴィンさんなら腕輪がなくても魔物達と今と変わらない関係が築いているような気がします」
「そう!そうなのよね。そう考えると悔しわね、同じ日に召喚されて来たのに差を開かれたみたいで。今日だって何の役にも立たなかったし」
「まあまあ、エレインさん。私達の戦う場所はケヴィンさんと違いますから、私達は別の戦場で頑張っていきましょう!」
「それもそうね!明日からまた忙しくなるわ!お互い頑張りましょう!」
そう言いながら笑いあう二人。
今回の侵入者捕縛は、次の計画の一歩目を踏み出したに過ぎない。
その計画こそ二人の舵取りかが重要になってくるのであった。




