23.侵入者 2
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マティスの言ういつものところとは、枯山水の庭が見える和室。
この和室の部屋はケヴィンとディーケイにとってもお気に入りの場所となっており、マティスのところに来る度に利用していた。
座布団に座り、出された緑茶を飲みながらマティスの話を聞いていく。
マティスの話によると、リヴィアの雫に諜報員が来たのは五日前から。
狙いはエレインとハルナ。
初めは三組の諜報員達が、それぞれ敷地外から様子を見ている程度だったが、それが二日前に一組の諜報員達が敷地内に侵入してきたという。
その侵入自体は敷地内の警備を任せていたグリッドウルフによって呆気なく撃退。
そして昨夜、三組の諜報員が示し合わせたように同時刻に動き出し、人員を増やし敷地内に侵入して来た。
諜報員の増員と連携。
連携し多方向から敷地内に侵入する者達にグリッドウルフと警備員達だけでは対応仕切れず、宿への侵入を許したのだという。
しかし諜報員が宿に侵入し間も無く、中で待ち受けていた黒騎士とリッチ達によってその侵入者達も迎撃され退却。
「ん、なるほどね。少しは考える頭はあるけど随分と焦って動いてんな。それともこっちを舐めて動いているのか?」
「急に連携して動いたのも妙ですね」
「まぁ、その辺は多分、侵入したらグリッドウルフがいて、どう考えても一組のチームだけでは対応しきれないと判断したんだろう。誰かが他の諜報員と連携出来ないか、主人にでも提案したんだろうな。こういう仕事していると相手がどこの諜報かくらいは分かるだろうし、連携が許可されたところを考えると、この三組の主人っていうのも似たような立場で、主人同士ある程度繋がりもあるんだろう」
「となると、やはりこの国の貴族連中ということですか?」
「そうなるな。彼奴らが動いてくることはこっちの世界に来た日から想定していた事だし、それに備えて戦力も整えてきた。こっちも相応の対応をしようか!」
ケヴィンはそう言うと笑みを溢す。
その口元はいやらしい曲線を描き、ゾッとするほど印象に残る悪戯な笑顔だった。
マティスの話を聞いて、ケヴィンが考えた対応策は呆れるほどシンプルだった。
マティスが用意した宿の配置図を前にケヴィンは指を指していき、そこにディーケイが駒を置いていく。
その駒は宿を囲むように配置されているだけで、多数の諜報員を相手にするには心許ない数。
マティスが一瞬、不安な表情を浮かべる。
ケヴィンはそれを見逃さず「不安か?」と声をかける。マティスは考え込みながら「えぇ、多少」と短く返し、ケヴィンの意図するものを再び思案していく。
そんなマティスに対してケヴィンは補足しながら説明していく。
戦力が拮抗している、または不利な状況であれば何重にも策を重ねる必要がある。
だが今回はそうではない。
戦力自体に圧倒的な差があるのだ。
相手が数的優位の状況を作り侵入してくるのであれば、それに対して適切な数を配置し迎え撃つ。
昨夜、侵入されてしまったのはそれが出来ていなかったからであり、こちらの戦力を考えれば適切な数を用意し、配置するだけで充分事足りるのである。
そうケヴィンが説明すると、マティスは頷きながら「なるほど、言われてみればそうですね。確かに問題ありませんね!」と言い、顔を綻ばせていく。
その言葉にケヴィンはマティスに見向き「いや、ひとつだけ問題がある!」と応えた。
ケヴィンがそう言うと、マティスそして話を聞いていたハルナがケヴィンに視線を向ける。
ケヴィンはもったいつけるように間を置いて「あいつらが強すぎて、速攻で終わってしまう。せっかく実戦訓練なのにな」と飄々とした態度で応え、美味しそうに茶をすする。
その言葉にマティスは安堵の表情を浮かべ、ハルナは頰を膨らませ「もう!ケヴィンさん脅かさないでくださいよ!」とケヴィンに近寄ってポカポカと彼の肩を叩きまくる。
そんなハルナに「ん?肩たたきか?ハルナは下手くそだな!」と言い、お茶受けをつまむ。
後は諜報員からどのようにして主人を聞き出すのかが重要になってくるだろう。
「なぁ、こっちの世界の諜報って口は堅い方なのか?俺がいた世界じゃ国によっては捕まったら自害する諜報員がいたんだけど」
「そうですね、マスターの言うような諜報員は百年くらい前には沢山いましたが、この国にはいないと思います」
「ですね。命をかけてまでこの国の貴族に忠誠を誓うなんて有り得ないです!」
「ん、ならいいな!とりあえずは一部はわざと逃がして追跡。他は捕まえて尋問するか!」
「ふふふっ。いよいよ、いよいよなのです!勇者ハルナの初陣!腕がなりますぞ!」
「こらこら、ハルナ!お前はまだ駄目だぞ。今日は大人しくして地下の訓練室で黒騎士にでも稽古つけて貰いなさい!」
「えーせっかくの見せ場なのに!」
「いやいや、ハルナの実力だと死ぬぞ?」
「そうですよ同士。マスターの言う通りです!同士が考えるほど甘くないですよ? 伝説の始まりはいつも辛く厳しい稽古からというのが定石です。同士の伝説はまだ始まったばかりなのですから、わざわざ死地に行くような危ない真似はしないでください!」
「そっか……そうだよね。うん、私、ちょっと浮かれてた。ありがとね、ケヴィンさん、同士!」
「おう!素直でよろしい。稽古頑張れよ!」
「うん!頑張る!」
ケヴィンとディーケイに咎められ、素直に考えを改めたハルナ。
彼女はケヴィンの言った「死ぬぞ?」という言葉で現実に引き戻され、冷静になれた。
考えてみれば身近で命を散らした者がいた。
それは彼女と一緒に召喚された少年であり、彼は「俺はチートだ!」と言いながら魔物に突っ込んでいき、呆気なく死んでいった。
ハルナはそんなことが身近で起きているのに、はしゃいでしまった自分が恥ずかしい、そう思いながら深く反省していた。
ケヴィンの説明が続く中、珍しく俯いて落ち込んでいるハルナ。
そんな彼女にディーケイが「同士の物語は始まったばかりです。そう落ち込まないでください。これから忙しくなっていくのですから、主人公がそんな様子だと物語は進んで行きませんよ?」と優しく声をかける。
彼なりにハルナのことを思って選んだ言葉。
その言葉でハルナは再び元気を取り戻したように表情が明るくなっていく。
ハルナはディーケイに「ありがとう同士。私ね、頑張って強くなるから!」と言って、晴れ渡るような笑顔を浮かべた。
◇◆◇
――リヴィアの雫、屋上。
深夜になりリヴィアの雫の門が閉められ、敷地内では警備員達が警戒体制を敷いている。
そして今夜は黒騎士達も侵入者に備え、遮蔽物に身を隠していた。
ケヴィンは宿の屋上から黒騎士達の配置を確認しながら周囲の様子を伺う。
屋上にはケヴィン、リッチ、グリッドウルフ、そしてマティスとエレインも来ている。
侵入者が来た時、リッチは転移魔法で移動。グリッドウルフは屋上からそのまま飛び降り侵入者を迎え撃つ予定である。
魔物達を屋上に待機させているのは、魔物達が敷地内に勢ぞろいしていると相手が警戒して侵入を諦めてしまう可能性がある為、屋上で待機させているのだ。
マティスとエレイン。この二人に関しては自分の目で事の終わりを見たい、ということで屋上に様子を見に来ていた。
お子様組とハルナは今日は外出禁止。
ハルナはともかくとして、お子様組に関しては、別の意味で危険なので今日は大人しくしてもらい、その代わり明日仕事をしてもらう事になっている。
リヴィアの雫は角地にあり、隣接してる土地は北面に接している洋裁工場のみ。
建物は南側にある宿泊棟、東側の管理棟、西側の厨房棟の三棟でそれぞれ階数が違うが一階部分だけ南側の宿泊棟に繋がっていて、死角も多い。
そんなこともあって宿を防衛する為には普段からそれなりに人員が必要だが、今夜は万全の体制で備えている。
万が一、ということもないだろう。




