22.侵入者 1
22
畑を作り始めた日から十日が過ぎていた。
ケヴィンは建築中の住居が並ぶ区間に足を運び、進捗状況を確認しながら歩みを進めていた。
オークにオーガ、巨人族にリザードマン、力自慢の魔物達の威勢のいい声が飛び交い、トントンと小気味よい音が聞こえてくる。
白い外壁に橙色の屋根。
明るい配色の真新しい家々。
見ているだけで気分が高揚する新しい家屋。
そんな場景を眺めながら、ゆっくりと彼が歩いていると、奥から近寄ってくる小さな影。
その小さな影の正体は兎人族のユウ。
ケヴィンが初めて魔物達と会った時に、薬草をくれた幼女だ。
ユウはケヴィンにテクテクと駆け寄り、おもいっきり跳び跳ねてケヴィンの胸元に飛び付いていく。
ケヴィンは飛び付いてきたユウを慣れた感じで受け止め、腕の中に彼女を収める。
そしてユウは何事も無かったように「まおーさまおはようございます」と彼の腕の中で挨拶。
ケヴィンもまた何事も無かったように「おう、おはようユウ!」と返していく。
ユウはそのまま身体をよじ登り、肩に腰を下ろし肩車の体制で身体を密着させる。
ケヴィンはユウを肩車しながら「なぁユウ、今日はサリと一緒じゃないのか」と尋ねる。
サリはユウといつも一緒にいるゴブリン族の幼女の事だ。
ユウは顔を震わせ「サリはきょうジュジューのひなの」と応え、その言葉にケヴィンは「ん、今日は料理班に行ってんのか」と何の躊躇いもなく反応していた。
そんな話をしながら歩いていくと、奥の現場で家の外壁を塗っている巨人族が声をかけてきた。
「ケヴィン様〜!見て下さいよ、これ。大分上手く塗れるようになったんですよ!」
「おー!上手いな、ドリーがやったのか?上出来じゃないかよ!たいしたもんだ!」
「グヘヘ、ケヴィン様に褒められちまった!」
「ちょっとケヴィンさん!あんまり褒めないで下さいっす!ドリーのやつ、昨日なんか調子に乗って、窓まで全部土で塗り固めちまったんっすよ!本当信じられないっす」
「親方〜その話は言わないでくださいよ!」
「駄目っす!ドリーも手を休めないでドンドン塗っていかないと、間に合わないっすよ!」
「了解です親方〜!ではケヴィン様、ゆっくり見ていって下さいませ!」
「おう、頑張れよドリー!」
木材を軽々と肩にかけ作業に戻っていくドリー。
彼に親方と言われていたのはエレインに紹介してもらった商業ギルド長の息子シェル。
赤茶の髪にしっかりとした身体つき、現場にはあまりいないような穏やかな顔つきの青年だ。
シェルが屋根の上を飛び跳ねながら移動し、ケヴィンの元へと降り立ち「おはようっす、ケヴィンさん。おっ、ユウもおはようっす」と挨拶をし爽やかな笑顔を見せる。
ケヴィンは「ん、おはようシェル」と返し、続いてユウも「おやかた、おはようっす!」とシェルを真似て挨拶をする。
「順調に進んでいるみたいだな」
「いやいや、ケヴィンさん!そう見えるだけっすよ!ケヴィンさんとディーケイさんのアイデアを取り入れてたら現場としては大変っす!確かに画期的で実用的なものばかりだから勉強になるっすけど、初めてのものが多くてこっちは苦労するっす!」
「はははっ、そうかそうか。楽しそうでなによりだなシェル!」
「その反応、間違えてるっすよケヴィンさん。いや確かに楽しいですけど、本当楽しいですけど、って、ケヴィンさん!たまには私の愚痴も聞いてくださいっす!」
「ん、愚痴とクレームの担当者はディーケイが務めているからな!あいつの仕事を奪うことはさすがに出来んだろ?」
「もう、それ。胸張って言うことじゃないっすよ!」
冗談を交えながら打ち合わせを始めるケヴィンとシェルの二人。
ケヴィンはシェルの報告を聞きながら、現在の問題点を洗い出していく。
しばらくその場で打ち合わせをしていると、現場の奥からディーケイが姿を現わす。
「マスター、ご報告があります」
「ん、どうした?ディーケイ」
「はい、先程マティスさんのところに行きましたら、昨夜三組ほど諜報員が宿に現れ内部に侵入して来たそうです。すぐに警備の者達が駆けつけたので何事も無かったという話ですが、内容が内容でしたので取り急ぎマスターにと思い、ご報告に来ました」
「おう、有難うなディーケイ。諜報か……まぁ、何事も無かったのが幸いだな。よし、マティスに状況を確認しに行くか。付いて来てくれディーケイ」
「了解ですマスター!」
ケヴィンはそう言うとユウを地面に下ろし、シェルにユウを頼んで建築現場を後にした。
◇◆◇
マティスの経営する宿、リヴィアの雫に着くとロビーのソファでマティスとハルナが話をしていた。
ハルナの姿を見て目を細めるケヴィン。
ソファに座っているハルナの姿は全身黒づくめの衣服を着用しており、黒いローブに黒いショートパンツ。身につけている防具類なども真っ黒な素材で出来ている。
その全身に纏う衣服類は、悪役のイメージそのものであり、とてもじゃないが年頃の女の子が着るような服ではないことは確かだ。
目をこすり、改めてハルナを見る。
目に写るのはやはりハルナであり、彼女は手を振って和かな笑顔を見せている。
ケヴィンは戸惑いながらソファに座る二人に歩み寄りハルナに声をかける。
「おはよう!」
「「おはようございます」」
「なぁハルナ。その世紀末覇者みたいな格好、どうしたんだ?」
「エヘヘ〜格好いいでしょ!私がデザインして作ったんですよ!……悪を許さず、悪を滅す、勇者ハルナ、ここに見参!」
「うんうん、最高に格好いいですね!さながら黒の勇者というところでしょうか!」
「いや、勇者っていうよりはどう見ても悪いことしてる奴の格好だろ」
「もうー、ケヴィンさん分かってないですね!これからの時代はこういうのが流行りなんですよ。ケヴィンさんのも作りましょうか?」
「ん、俺は……いいかな。あっ、そうだ!マティスが防具やら新調したいとか言ってたな。マティス、ハルナが作ってくれるってよ!良かったなぁ!」
ケヴィンはそう言いながら、マティスの背中をバシバシと叩く。
その言葉にマティスは大きく目を見開き、ケヴィンに身を寄せて小声で「ちょっとケヴィンさん、何という無茶振りをしてくれるんですか!」と呟き、ケヴィンは肩を震わせながら「ぷっ。に、似合うと思うぞ?」と応えた。
二人がそんなやり取りをしてる中、ハルナはガサゴソと鞄の中を漁り、そこからメジャーを取り出し立ち上がると「じゃあマティスさん、早速測ります?」と言い、目を輝かせ真っ直ぐな瞳でマティスを見つめる。
一瞬、マティスの中で時が止まる。
その間、彼の持つ全脳細胞がトップギアで活性化し最善の策を模索していく。
一呼吸、いや二呼吸ほど遅れてマティスは、「いや、やっぱりよく考えたらハルナさんが着ている服は、勇者召喚された方々のような特別な人にしか似合わないですよ!ね、ケヴィンさん!」
と応え、口元にいやらしい笑みを浮かべケヴィンへと視線を送る。
その言葉にケヴィンがすぐさま反応。
マティスに身を寄せ「こら、マティス!せっかく躱したのに、また呼び寄せるような事言うな!」と呟き、マティスは苦笑いしながら「し、仕方ないじゃないですか!ぶつかったら軽い怪我じゃすまないですよ?」と返す。
そんな話をしている彼ら二人には、ハルナが暴走している猛牛のように見えていた。
『暴走した猛牛は止まらないわよ』
二人の頭にはその言葉浮かぶ。
それは過去に暴走するハルナを見ながらエレインが言ったものであり、暴走した猛牛の恐ろしさというものを二人は身を持って体験していた。
ケヴィンはすぐに対抗策を練った。
そしてハルナへと見向き、
「あー、ハルナ。お子様組の三人なら似合うんじゃないか?ほら竜にエルフに魔族。イメージにぴったりだろ?」
と提案。
彼が出した答えは、此処にはいない三人のお子様組に丸投げをするという、何とも大人気ない対抗策であった。
ハルナはケヴィンの応えにコクコクと頷きながら「うん、なるほどなるほど。良いですね、ケヴィンさん!センスあるじゃないですか!」とケヴィンの提案を褒めちぎる。
満足気なハルナの表情。
それから彼女は手に持っていたメジャーを鞄の中にしまい、ゆっくりとソファに腰を落とす。
その姿を見て深く息を吐き出し、安心した表情を浮かべるケヴィンとマティス。
そして落ち着いたところでケヴィンは当初の目的を思い出し「あっ、こんな話をしに来たんじゃなくて、諜報が侵入して来たんだろ?」とマティスに尋ね、マティスは疲れた表情で「そうなんです!詳しくはいつものところで話しましょう」と席を立つ。
読んで頂き有難う御座います。
畑作りから班分けのパートは書きたかった部分のひとつです。まぁ、もっと上手く描ければ良かったのですが……
次話からは。
とりあえず次話からの展開と、その次の展開までお付き合い頂ければ幸いです。
――皆さまへのお願いです。
ここら辺の話もエタりながら書いてました。(笑)
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