16.嘘と暴露
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マティスの宿、リヴィアの雫に着くと夕食の準備が整っているという。
一行が案内された部屋は、一カ月前に訪れた中庭を見渡せる和室だった。
部屋に入ると室内を分けていた襖が外されており、二十四畳の室内に大きなテーブルが二つ。
各々座布団に座る。
お子様組の三人はテーブルの上に置いてある豪勢な食事に目が釘付けだ。
テーブルに並べられている料理はハルナには馴染みの深い鍋料理、鳥肉の唐揚げにだし巻き玉子、チーズハンバーグ、そして味噌汁にご飯までもが用意してあった。
テーブルには箸とフォークが用意してあり、ハルナがお子様組に箸の使い方を教えていく。
お子様組が待ちきれなくて騒ぎ始めたので、皆で夕食を食べ始めると、箸の使い方に苦戦するソフィが「この棒、食いにずらいのです!」と眉をひそめると、アイシャが「こんなのこうして、ぶっ刺せばいいのよ!」と言いながら、ソフィの皿に入れてある唐揚げを、箸で刺して口に入れる。
ソフィが怒りながら「何するです!返すのですアイシャ!」と言うと、アイシャは目を細め「んー美味しい!」と知らん顔。
二人がいつもどおりに言い争いを始め、ハルナが慌てて二人を宥める。
ケヴィンはその様子を横目に見ながら、躊躇なく箸を手にとって、鍋、唐揚げ、ご飯、味噌汁、ハンバーグ、ご飯のローテーションを組んで食べ進めていた。
ハルナはケヴィンが上手に箸を使っていることに気づき、ケヴィンの前に座るエレインの隣に座り込んで、じっとケヴィンの箸使いを見つめていた。
ケヴィンはハルナの視線に構うことなく食事をしていたが、その視線が気になってきて「なぁハルナ、あんまり見られると食いずらいんだけど」と言い味噌汁を啜る。
それに対してハルナが「ケヴィンさん、箸の使い方。上手すぎですよね?私よりも上手ですもん!」と応える。
ケヴィンはハルナの言葉に、顔を強張らせ「そうか?気のせいじゃないか?」と応え、エレインがクスリと笑いながら「閣下、恐らくハルナには近いうちにバレてしまうと思います。だって閣下がつけた魔物達の名前、そのまんまなんですもの」と言及。
ケヴィンは苦笑いを浮かべながら「あー、うっかりしてた!ずっとアッチにいたから気にしなかった」と言い、頭をかく。
ハルナは何のことを言っているのか、分からないような表情。
それを見てケヴィンは箸を置いて、ハルナとマティスを見据えて話を始めた。
「ハルナとマティスには内緒にしてたことがある。まぁ、一カ月前はそれが重要な役割があったから言わなかったんだけど、この状況までくれば、もういいだろう……ケヴィン・モス・マクドウェンディ。マクドウェンディの将軍で次期皇帝。あれ、嘘だから!」
「「えぇぇぇ〜」」
「うふふ、ハルナったら。注意して聞いていればあなたの知ってる名前よ」
「えーと、ケヴィンモスマクドウェンディ、ケヴィンモスマクドウェンディ……え?!モス?マクド?ウェンディ?あっ?!これってハンバーガーショップだ!あ、ウェンディーズは行ったことないや。え、え、嘘?嘘。だったらケヴィンさんもエレインさんも同じ世界から来たってこと?」
ハルナはケヴィンとエレインの話に、驚きの表情から嬉しそうな表情へと変化させ、隣に座るエレインの腕を掴み、勢いよく揺らしながらエレインに訊ねていた。
エレインは優しい眼差しでハルナを見つめ「黙っててごめんね、ハルナ。でもこうでもしなければ、私達殺されてたかもしれなかったの」と言いながらハルナの頭を撫でる。
ハルナはエレインの腕に甘えるようにしがみつき「ううん、それはいいの!だってエレインさんは私のことを考えてくれて、城から連れ出してくれたんだもん!だから色々考えてくれて、話せなかったんでしょ?」と真っ直ぐにエレインを見つめて応える。
ハルナの応えにエレインは顔を真っ赤に染め、視線を逸らし顔を隠すように俯く。
「ははっ、珍しくエレインが照れてる。皆、エレインが照れてるぞ!」
「もう、閣下!茶化さないでください!って、そうだ!バラしちゃたんだ」
「もう皆の前では演技はいいだろう。まぁ、俺はいつもどおりにしてたけどな」
「えっ?!ケヴィンさんのアレは演技じゃなかったんですか?私、お城で初めてケヴィンさんを見た時、魔王が召喚されたのかと思ったんですよ?えっ?ということは……アレが演技じゃないとなると、ケヴィンさんには魔王の素質があるんじゃ――」
「――あーハルナ?その辺は深く考えないでくれ!ハルナにまで魔王なんて思われたら、本当に魔王扱いされてしまうような気がするからな!」
ケヴィンの言葉にハルナは残念な表情を見せながら「えーカッコイイじゃないですか」と言い、頰を膨らませる。
それからハルナは、自身が考える魔王のカッコイイ台詞を演技を交えレクチャーを始める。
同士であるディーケイがそこに加わり先代魔王の実話を元に演劇のようなものが始まり、三人は強制的に見せられていた。
程なくしてハルナはディーケイとの共演を終えると、思い出したように「そうだ!ケヴィンさん、何で箸の使い方そんなに上手なんですか?」と首を傾げる。
ケヴィンは唐揚げをつまみながら「ん?出身は日本だからな、まぁ色々あって国籍はアメリカに移したけど」と言い、ご飯をかき込むように食べ始めた。
その応えにハルナとマティスが再び驚きの声を上げるのであった。
マティスは目を見開いて「ケヴィンさんとハルナさん……祖父の母国の人が祖父の大好きだったこの部屋で、こうして一緒に夕食を食べる機会があるなんて!奇跡みたいな話だ」と言い、感動していると。
エレインは呆れ顔で「まったく、マティスは相変わらず大袈裟なんだから。こんなのこれから沢山あるわよ!ね、ケヴィン?」と言い、ケヴィンに見向くとケヴィンは味噌汁を啜り「そうだぞ!これから各ギルドに警備会社、それに教会の立ち上げと孤児院の設立、やる事は山ほどあるし、俺達はある意味運命共同体みたいなもんなんだから」と言い、だし巻き玉子を口に入れる。
それを聞いたエレインとマティスは、テーブルに手をついて身を乗り出す。
「――ちょっとケヴィン!教会って何?聞いてないわよ!」
「そうですよケヴィンさん!私も初耳です!今回は詳しく教えてくれるんですよね?」
「ん、あれ?俺、さっき言ってなかったっけ?まぁ、教会に関しては今後の計画に関係することだから、後で詳しく話をするよ。それよりも、あったかいうちに食べた方がいいんじゃないのか?めちゃくちゃ美味いぞ」
「あ、お口に合ってなによりです、ってそうじゃないんです!……はあ、もう、教会のこと後で教えてくださいねケヴィンさん!」
「もう、ケヴィンって結構マイペースなところあるわよね。それにしても、あの子達、そろそろ止めた方がいいんじゃないの?」
エレインはお子様組を見据え、半目を開きながら止めるよう促す。
彼女の視線の先には戦闘さながらに超高速で料理を奪い合う三人の姿。
ケヴィンはそれをチラリと見て「いいんじゃない?よく見る光景だぞ」と言い、漬物を口に入れご飯を食べる。
ディーケイもその言葉に続いて「そうですね、一日一回は必ずあります!」と当たり前のように応えていた。
そのお子様組のテーブルでは、チーズハンバーグを奪い合っていた。
「リヴはいっぱい食べすぎなのです!男の子はおっぱい、いらないのです!」
「えー、だって美味しいんだもん!僕、もっと食べたいんだけど」
「いえ、たとえリヴ様でも今回は駄目です。私にはマスターの為に、おっぱいを大きくしなければならない使命がありますので!」
「アイシャの胸はもうそれ以上大きくならないので諦めるのです!代わりに私が乳料理をたくさん食べておっぱいを大きくするです!」
「何言ってるのよソフィ!あなたのママも胸小さいんだから、ソフィこそ大きくならないわよ!」
三人が言い争いをしている中、スラ吉が目を盗み体の一部を触手のように変形させ、チーズハンバーグを掴み、パクリと身体の中に入れていく。
スラ吉がチーズハンバーグを食べ、プルプルと震えピョンピョン飛び跳ねる。
それを見たリヴが「あー、スラ吉がハンバーグ食べちゃった!」と残念そうに皿を見つめる。
ソフィが怒りで小刻みに震えながら「おのれ、スラ吉!仕方ない、こうなったらスラ吉ごと食べるしかないのです!」と言い、アイシャが「そんな事しても大きくならないわよ!」とすぐさま反応。
三人が騒がしく言い争っているのを見ていたハルナが、
「ねぇ、皆は乳製品が好きなの?」
「そうなのです!内緒だけど、乳で出来た料理を食べるとおっぱいが大きくなるってエレインが言っていたのです!」
「内緒の話なら言っちゃ駄目じゃないの?」
「そこは大丈夫ですリヴ様。エレインが言っていた内緒とは、おっぱい体操という秘術のことなので問題ありません!」
「へぇ秘術か、なんかカッコイイね!」
「あー、そ、そういうことだったんだ。それなら食事の後にミルクセーキを用意するから、今回はそれで我慢してくれる?」
ハルナがそう言うと、三人の言い争いはようやく収まり、食事に戻る。
内緒にしていた話をあっさりと暴露されたエレインはピクピクと顔を引きつらせながら「今の話、聞かなかったことにしてくれると、助かります」と力なく呟くと、ケヴィンとマティスそしてディーケイはコクリと頷いた。