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15.エレイン商会

 15


 ケヴィン達が城を出ると多数の竜達が彼らを出迎える。巨大な竜が整列し主人を待つその姿、圧巻の一言であった。


 それを見たハルナは興奮し、勢いよく竜達に駆け出していく。

 ハルナにつられて、お子様組の三人が後を追う。


 竜に近づき躊躇なくペタペタと触り、両手を広げ抱きつくハルナ。


 アイシャはそれを見て「ねぇ、竜好きなの?」と訊ねると、ハルナは「うん!だってすごくカッコイイもん!」と笑顔で応える。


 ハルナの無邪気な笑顔にアイシャは恥ずかしそうに「そう?」と応え、続けて「ねぇ、乗ってみる?」と訊ねた。

 するとハルナは「――乗れるの?乗りたい乗りたい!」と飛び跳ねて喜びを露わに。


 そのやり取りを聞いていたソフィが「ズルイのです!私も乗るです!」と言うと、続けてリヴが「僕も、僕も」と騒ぎ出す。


 騒ぐ二人を見て、アイシャが呆れた顔で「分かったわよ!そこの右足から乗りなさい!」と言い、三人ははしゃいで竜に乗り上がっていく。


 四人はなんとか大きな竜の背中に上がると、彼らを乗せた竜は、バタバタと大きな翼を羽ばたかせ、ゆっくりと宙に浮き上がる。


 ハルナが目を輝かせ「うわぁ、凄い凄い!」と興奮しながら手を叩き喜び、ソフィは「浮いてるのです!飛んでるのです!」と目を丸くする。


 そんな二人を乗せた竜はそのまま上空へと飛んでいき、ゆっくりと城の周りを旋回。


 それをケヴィンとエレインは地上で見つめていた。


 そう。

 お子様組の三人とハルナはケヴィン達のことなどすっかり忘れ、竜に駆け寄り、瞬く間に空へと飛び立ってしまったのである。


 ポツンと残された保護者達。

 まさか自分達がいることを忘れて飛び立つとは思ってもいなかった。


 ケヴィンは空を見上げながらため息をつき「行っちまったな」と呟くと、エレインが「本当、あの子達ったら、よく暴走するわよね?」と呆れた顔を浮かべる。


 その言葉に身に覚えがあるケヴィンは苦笑いを浮かべ「あぁ、同感だな。楽しそうにしている時は特に危険だ」と応え、エレインは納得した表情で「そうね現に今こうして、私達のことなんかを忘れて、空に飛んで行っちゃったし」と空を見上げる。


 リヴ達が戻ってくる間、ケヴィンは竜達に労いの言葉をかけ、ディーケイは転移魔法で行進に参加した魔物達を見送っていた。


 そうしてしばらく待っていると、四人を乗せた竜が帰ってきて、地上に降り立つ。


 初めて竜に乗ったハルナとソフィは、興奮した様子で感想を話し合う。

 すっかり仲良しになったハルナとお子様組。


 それからケヴィン達一行は竜達に別れを告げ、飛び立つ竜を見送り、皆で馬車に乗った。


 日暮れまで時間があったので、宿に行く前にエレインの商会に寄って行くことに。


 エレインの店は大通り沿いにある大きな三階建ての建物で、店構えはお洒落なカフェを想像させるような外観。


 木製の大きな扉を開くと落ち着いた色合いで統一されたインテリア。そして綺麗に陳列されている商品。

 一階は食料品、生活用品、美容品の売り場になっており、奥にはテーブル席が用意されていて、紅茶を飲みながら、店員と話をしている婦人が三組。


 店内は多くの女性客が買い物に来ており、賑わいを見せていた。


 ハルナとお子様組がいち早く店内に入り、ハルナがお子様組に商品の説明をしながら案内していく。


 残された四人はゆっくりと店内を見て回る。

 ディーケイは時折、商品を手に取ってブツブツと独り言を言っていた。


 ケヴィンは綺麗な店内に驚きながら「なんか凄いなエレイン!高級ブランドの店に来ているみたいだ」と言うと、エレインは微笑みながら「ふふっ、閣下。雰囲気だけです!商品は庶民的なものばかりですから」と応え、目を輝かせ店内を見て回るケヴィンの反応を楽しんで見ていた。


 一階を回り終える頃にはケヴィンは買い物カゴが満杯になるまで商品を購入。

 購入したものは、石鹸にシャンプー、コーヒーにティーカップ、香水に髭剃りなど毎日使うものばかりである。


 一階で買い物を済ませたケヴィン達四人は二階に上がると、二階は魔術道具を中心とした商品が並んでいた。


 ハルナとディーケイが製作した冷蔵庫や洗濯機、そして魔導コンロなどの商品の他に、冒険者向けのアイテムや武器なども置いてある。

 

 二階も大勢の客たちで賑わっているが、こちらは比較的男性客が多い。


 奥に進むと、ハルナがお子様組三人を相手に冷蔵庫の前で熱く語っていた。


 ハルナが冷蔵庫からジュースを取り出して、三人に配ると「冷てえのです!」「これ凄い!」「うん!美味しい!」と好反応。


 その反応に気を良くしたハルナ。


 キリッとした表情でテレビショッピングさながらの口上を並べ、

「今なら、なんとミニ冷蔵庫が付いて、お値段なんと金貨一枚で買えちゃいます!残り三台しかありません!」

 と子ども相手にたたみかけていた。


 ケヴィンはエレインに見向き、

「なぁエレイン。ハルナのやつ、子ども相手に実演販売して、セット販売と限定販売でたたみかけてんだけど」

 と言うと、エレインが呆れた顔で、

「なんかごめんね。ハルナはああいう子なの。調子に乗るといつもこうなるのよ」

 と応える。


 そんな話をしていると、ハルナを見ていた客たちから「それ買うぞ!」「あ、俺も俺も!」「ハイハーイ!ウチも買います!」とすぐさま手が上がった。


 ハルナは満面の笑みを浮かべ「お買い上げありがとうございます」と深々とおじぎ。


 ハルナを見ていたお子様組の三人が、パチパチと拍手を送り、目を輝かせていた。


 エレインは微笑みを浮かべながらハルナを見つめ、それから視線をケヴィンに戻し「閣下、コーヒーでもいかがですか?」と訊ねる。

 ケヴィンはすぐに反応し「――頂こう!さっきコーヒー買ったんだけど、久しぶりに飲みたくてウズウズしてたところだったんだ!」と応えた。


 ケヴィンの子供のような反応に、エレインは楽しそうに笑顔を浮かべる。


 四人で奥のテーブル席に座ると、店員が席にコーヒーを持ってきた。


 白いカップに注がれた真っ黒な液体。ケヴィンとエレインには馴染みの深いコーヒー。

 ケヴィンはまぶたを閉じて、久しぶりにコーヒーの香りを楽しむ。


 対してディーケイとマティスは恐る恐る口にし、目を見開いて驚いている。

 どうやらコーヒーは二人の口にあったようで、ゆっくりと味わって飲んでいた。

 

「――はぁ、やっぱりコーヒーはいいな!それにしても、凄い大繁盛じゃないか!」

「それも閣下やマティス、ディーケイのおかげです。本当に有難う御座います!」

「いやいや、俺なにもしてないぞ」

「閣下、そんな事ありません!三人がいなければこの店自体なかったんですよ?」

「そうか?まぁ、いいんだけど。ところで、エレインとマティスに相談があるんだ。今後の計画が進んでいくと、城の兵士達が大量に解雇されるだろ?その兵士達を商売に利用できないかなと思ってさ」

「そうですね、兵士が大量に余ることなど滅多にないことですし、それが利用できれば面白いと思います!」


 エレインはマティスの言葉に唇を弾きながら思考を巡らす。

 それからじっくりとケヴィンを覗き込むように見つめ、


「閣下、すでに考えていることがあるようですね?閣下の案お聞かせ願いませんか?」

「ん、相変わらずエレインは凄いな!無表情を貫いてたつもりだったんだけど。そうだな、ちょっとアイデアがあるんだ。兵士達が解雇されると、王都を巡回する兵士が少なくなって、街の治安が悪くなる。まぁ、この辺は当然の流れだよな。商人や住人達は不安になり、今までそれほど気にしなかった、安全な環境というものに目を向けることになるだろう。そこで警備会社を作るんだ。解雇された兵士達を雇って、警備会社と契約している店舗や家を中心に街を巡回させる。兵士達にしてみれば、今までやっていた事だし教育に時間はかからない。契約しているところを回るから、今までよりも効率的に動けるはずだ。なぁ、これってどう?商売になりそうか?」

 

 ケヴィンの話を聞いたマティスは目を輝かせ「いい案ですね!商売人ならば契約を結びたがるでしょう!」とケヴィンの出した案に興奮気味に反応。


 それに対してエレインはニヤリと笑いながら「閣下、まだ続きがありますよね?」とケヴィンがまだアイデアを持っていることを見抜き、ケヴィンに訊ねる。


 ケヴィンはエレインの洞察力に眉を上げ、諦めの表情を浮かべながら、エレインの質問に応える。


「ははっ、流石だなエレイン!まぁ、エレインの言うとおり、この話には続きがある。警備契約をしている店舗には、ディーケイが作った防犯用の魔術道具を置いて、侵入者が店や家に入れば、近くを回る兵士達が駆けつけられるようにする。それから店舗や家の屋上を借りられるところは無料で警備して、その代わりに屋上にゴーレムを置かせてもらう。置かせてもらう場所が多いほど、緊急自体があった時、ゴーレムが駆けつけ易い。そうすれば、警備体制も万全だろ?まぁ、やってる事は前の世界の警備会社と同じことなんだけどな」

「閣下、その話。凄く良いです!乗ります!乗らせてください!」

「ケヴィンさん、私もその話とても良いと思います!是非参加させてください!」

「あー、何か俺が警備会社やるような空気になってるけど、俺、やんないよ?二人にアイデアを出しただけ。でも協力はするから二人がやるならどうかなと思って話をしただけだぞ。俺は港作ったり、町を作ったりしたいから、今は警備会社まで手が回らないし」

「――ちょっと閣下!何ですか?港とか、それに町とか聞こえたのですが?そちらも詳しくお願いします!」

「――そうですよ、ケヴィンさん!必ずお力になりますから!教えてください!」


 港や町の話を聞いたエレインとマティスは、身を乗り出しケヴィンに詰め寄る。


 二人が勢いよく立ち上がったこともあり、テーブルの上にあるコーヒーが溢れてしまう。


 ケヴィンは苦笑いしながら興奮する二人を宥め、席に座らせた。


 落ち着きを取り戻し、話を聞くエレインとマティス。


 ケヴィンは二人に今後の計画を話をした。


 港や町の話はまだ先の計画なので時期が来たら二人に手伝ってもらう約束を交わす。


 そして警備会社の方は、エレインとマティスですぐにでも準備を始めることとなった。

 防犯システムの概要や、使用する魔術道具、ゴーレムや侵入者を兵士達に知らせるシステムなど多岐に渡って話し合う。


 そんな話をしていると、お子様組とハルナの四人が席にやってきて、三階にある衣服を一緒に見て欲しいと言う。


 お子様組はケヴィンの返答を待たずに手を引いて三階にある衣服売り場へと促される。


 その様子は休日のお父さん。


 エレインはケヴィンの意外に面倒見のいい一面に、クスクスと笑いながらケヴィン達の後ろを歩く。


 ケヴィンは奥にあるテーブル席に座ると、お子様組が衣服売り場からお目当ての服を持ってきて、ケヴィンにどっちがいいか聞いてくる。


 ケヴィンはディーケイによって鍛えられたスルースキルを使いながら、適当なところで相槌をうち、持ってきた服を何となく選んでいく。


 お子様組が持ってきた服は、どれもケヴィンには馴染みのあるものばかりで、エレインがデザインしたものであった。


 興味を持ったケヴィンは店内を見て周り、自分用にスーツにワイシャツ、トレーニング用のウェア、それに作業服を購入。


「閣下、スーツやトレーニングウェアはわかるのですが、作業服は必要なのでしょうか?」

「あー、これ?まぁ、あっちで農作業しなきゃならないからな」

「なるほど、だからディーケイが大量に種が必要だと言ってたのですね。でもあの量を閣下達だけで育てるには大変かと思いますが?」

「まぁ実を言うと、人手は足りているんだ。何故か知らんがウチに続々と魔物達や獣人達が集まってきててな。集まってくるのはいいが、このままいけば食料が足りなくなる。それに色々と他の事情もあって、とりあえず畑でも作ってみようと思って」


 ケヴィンはそう言いながら購入した作業服を身体にあてがい鏡を見る。


 どことなく楽しそうなケヴィンの姿を見て、エレインは思考を巡らす。


 ケヴィンとは出会って間もない。

 言うなれば、実際に会うのは召喚された日と今日で二回しか会ってない。


 しかし出会った日の出来事は彼女にとって余りにも強烈であり、今まで経験した事がない濃密な時間だった。


 圧倒的に不利な状況にも動じず、有利な立場を作り出したケヴィン。


 戦力を整える為に、王都を出てトレーニングを重ね、想像以上の力を身に付け、そして多くの魔物達から慕われている。


 ディーケイを通じケヴィンとは連絡を取っていたが、久しぶりに再会したケヴィンは初めて会った時の印象とは大分変わっていた。


 ディーケイからおおよその話は聞いている。


 毎日の異常とも言える過酷なトレーニング。

 それに加えて、港作りと街作りを始めているという。

 そして彼は食料自給の為に農作業をするというのだ。


(本当にケヴィンは面白い人ね。今まで会ってきた大企業の社長達なんか目じゃないわ。

 彼は一体何を目指しているのかしら)


 幼少の頃から母親に付き添い、多くの経営者を観てきたエレインにとってケヴィンの行動や思考は興味深いものばかりだった。

 それに竜やエルフ、魔族や魔物達から慕われるというのも彼女には理解出来ない。


 同じ日に召喚されたはずなのに、話を聞く限りではケヴィンの方が充実した日々を過ごしているように思える。

 そう考えたエレインはケヴィンの行動に惹かれ、彼に訊ねた。


「あの、閣下。その畑作り、ご一緒させて頂くことは可能でしょうか?」

「ん?いいけど、結構大変だぞ?足腰なんか使い物にならないくらいになるけどいいのか?」

「えぇ、構いません!閣下の作る畑は何か面白そうですし」

「そうか?ならディーケイと明日の朝に集落に行く約束してたから、準備だけはしておいてくれ!」

「畏まりました。宜しくお願いします!」


 頭を下げるエレイン。

 彼女の表情は晴れ渡るように明るく、愉しげであった。


 それからお子様組の買い物を済ませ、ケヴィン達一行はエレインの店を後にし、本日の宿リヴィアの雫を目指す。






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