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14.謁見

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 ベネスの指示によって慌てて謁見の間を出て行く側近達。


 ケヴィンはこうなることも想定済み。


 その辺の情報は事前にベネスから集めており、今日謁見の間に取り巻きである王族派の貴族達が来ること、サンドエルが金貨の数を誤魔化すことを知っていたのである。


 そしてサンドエルが懲りずにケヴィン達を再び教育しようと企んでいることも……


 ケヴィンは高窓の清掃用に作られた通路をゆっくり見上げ……

 周囲を見回しながら気配を察知していく。

 その行動を見たサンドエルが顔を強張らせていると……


 ケヴィンはリッチ達へと見向き「隠れている者を捕らえよ!」と指示。


 リッチ達は杖を立て魔法を発動。

 柱の影や死角から突如魔法陣が現れ淡い光を放つ。


 空間が歪み、現れる深い闇。

 現実とは思えないほど深く、濃い、その闇の中から姿を見せる漆黒の蛇。

 その異形ともいえる醜貌。

 それはまるで生物が抱える醜さ、汚さを凝縮させたようにも見え、現実離れした何かであった。


 突然目の前に現れたソレ。

 その現象に暗部の者達は視界を奪われ、経験したことのない密度の恐怖が襲う。

 人の持つ本能が咄嗟に身体を動かす。

 そのほんの僅かな瞬刻。

 狙い済ましたように飛びかかっていく。

 隅々まで響き渡る悲鳴と怯えの声音。

 静寂な空間を裂くその音と、脳裏に深く刻まれていく目の前にある狂おしい恐怖。


 暗部達は次々と無力化されていった。


 間髪入れずにそれらにむかう黒騎士。

 その巨体からは想像出来ないほどの異常ともいえる速さ、そして軽快な動きを見せた。

 潜んでいた者達の頭を鷲掴みにしながらそのままケヴィンの下へ。


 ケヴィンは玉座に腰を落とし、腕を組んだまま暗部達の捕縛をじっと待っていた。

 静観しているようにも見える姿。

 しかし彼の表情は身が竦んでしまうほどの憤怒に染まっていた。


 サンドエル、そして貴族達はケヴィンの表情を見て凍りつく。

 彼らは身体が硬直し言葉が出なかった。


「サンドエル!」


 ケヴィンが放ったその一言。

 たった一言で空間全てを掌握し、生命を握り潰されるような重圧を与えた。

 殺気を含む声音。

 その声は思考することすら許さないほど脳を揺さぶり、聞くもの達を震えさせた。

 それはまるで心臓を握られたような、処刑台の前に立たされたような感覚。

 その声は極度の恐慌へと落とし入れていく。


「これは、どういうことだ?」

「ぅ……ぃ……」

「信用してもらう為に時間が欲しい?その結果がこれか?」

「ケ、ケヴィン将軍、申し訳なかった。どうやら儂の知らないところで、臣下達が勝手に動いていたようだ」

「あー、面倒くせぇ。もういい!」


 ケヴィンが立ち上がり……

 皆の視線が集まり緊張が走る。


 彼はニヤリと笑うと……

 彼の前に大きな魔法陣が現れた。


 魔法陣はその中心部に瞬く間に光を収束させていく。


 目を開けられないほどの眩い光に照らされて、謁見の間は光と影、明と暗の二色が、全てを飲み込むように覆い尽くしていく。


 幻想的な光景。

 その反面で死の瞬間を見ているような光景。


 ――刹那、光の束がサンドエルに向かって放たれる。


 まさに一瞬だった。

 光の束は瞬時にサンドエルへ迫り、彼の頭上を通過し背後の壁を撃ち抜く。

 撃ち抜かれた壁の中央部は二メートル程の大きな穴が空き、壁の断面は赤く溶け、ゆらゆらと黒煙が昇っていた。


 ケヴィンの使用した魔法は普通に考えればあり得ないような威力、速度、そして規模であった。


 普通ならばサッカーボールほどの大きさの魔法を放てれば十分に凄いといえるだろう。

 しかしケヴィンの放った魔法は二メートル程の常識を超える大きさ。

 防ぐことの出来ない速度。

 厚く堅強な壁を貫通するほどの威力。

 その全てが常識から外れていた。


 そんな絶望的な状況に誰もが言葉を失い、自らの死を覚悟せずにいられなかった。


 楽観と見くびり……

 その結末が現在の状況でもある。


 サンドエルとその取り巻きの貴族達はケヴィンのことを楽観視していた。

 ケヴィンは召喚され間もない。

 故に数を揃え死角から狙えば圧倒出来る。

 例え不可思議な攻撃をしてきても、彼を抑えつけることが出来るだろう。

 そう考えていた。


 しかし実際には……

 王城を埋め尽くす竜。


 災害指定されている魔物達の大軍。

 常識外れの魔法。


 サンドエルと貴族達は現実を突きつけられ、唖然とした表情を浮かべる。




 ケヴィンは壇上を飛び降り、サンドエルの座る玉座へと歩み始める。


 カツーン……カツーン……


 一定のリズムを刻む足音。

 まるで不気味な音にすら聞こえてくる。


 サンドエルはすぐに玉座を降り、地面に頭を擦り付け土下座の体制をとりながら、


「申し訳ない、どうか許してくれ!この通りだ!」

「お前、馬鹿なのか?前回と同じこと繰り返して猿でもこんな酷くねぇぞ?それにこの場所に雁首そろえてやって来たお前らもだ!どうせお前らのしょうもない権威でも見せつけて、上からの立場で俺達を駒にでもしようと考えてたんらだろ?本当くだらねぇ。我が国と戦争を始めるってことだな?よし!皆、手始めにこいつら全員皆殺しだ!いいな、一人も逃すんじゃねぇぞ!」


 ケヴィンの声に、黒騎士達が一斉に剣を抜く――


「――待ってくれ!ケヴィン将軍!話し合おう、どうやら誤解があるようだ!」

「はあ?今さら何言ってんだよお前。信用するかは行動次第だって前にも言ってるだろ?それに次は無いと忠告したはずだ!」


 そこにエレインが微笑みながら、

「閣下、猿以下の頭では私達の言葉を理解することが難しいのかもしれません!この状況の中で、誤解などと馬鹿なことをほざく位ですので。その男が戦争をしたくないと言うのであれば、もう言葉だけでは信用出来ません。ならば誓約――精霊契約で命をかける位しか、もう無いのではありませんか?」

 と提案。


 その言葉に貴族達が反応。

 彼らはサンドエルへと振り返り、誓約するように必死に懇願を始めた。


 ケヴィンはその様子を見ながら顎を撫で、

「そうだな、それしか方法はないか。ま、俺は今すぐ戦争を始めてもいいんだけどな!」

 と言うとニヤリと笑みを浮かべる。


 サンドエルは頭を下げながら「敵対の意思はない!誓約で儂の命をかける。だから戦争はしないでくれ!頼む」と言うと貴族達の顔が和らいでいく。


 その言葉を聞いたマティスは、鞄の中から“事前に用意していた誓約書”を取り出し、土下座しているサンドエルの前に置く。

 それからソフィに見向いて「後はお願いします」と声をかけた。


 ソフィは楽しそうに「やっと私の出番なのです!」と言いながらサンドエルの方へと歩いていき、魂を縛る精霊契約をサンドエルに結ばせる。


 ケヴィンはその様子を見ながら「それで、お前らはどうするんだ?」と王族派の貴族達に言い放つ。


 急に話を振られた貴族達が動揺する中、出番のなかったアイシャがソフィに対抗心を燃やし「マスター、せっかく集まっておりますので、私がこの者達を殲滅します!」と無理矢理自分の出番を作ろうと前に出る。


 それを聞き、貴族達が慌てて誓約すると言い出す。


 マティスが事前に準備していた誓約書。

 この誓約書の内容にこそ、あり得ないような文言が盛り込まれている。


 例を挙げると『王または貴族達の関係者が敵対行為をとれば誓約により契約者の魂を捧げる』というような言葉が並び、但し書きとして『ケヴィン達が関係者、敵対行為と判断すれば全てにおいて誓約に適用される』と、えげつない内容となっていた。


 要はケヴィン達が『王の関係者で今のは敵対行為』と判断すれば王そして貴族達を容易く殺せるという内容だ。


 そんな内容の誓約書でも彼らはサインするしか選択肢はなかった。


 甘い考えでケヴィン達を駒にしようと企み、呆気なく見破られ、想像を超える力を見せられ、命を落としかけている。

 今後のことなど関係なく、助かるのであれば誓約書にサインをするしかなかった。


 これで少なくともサンドエルとここにいる貴族達から生命を狙われたり、敵対視することもないだろう。

 

 ケヴィンはサンドエルを見据え「それで魔王軍の脅威というのがあれば協力してもいいが契約金は年間軍事費の五割だ!」と言い放つと、サンドエルは憔悴した顔で「少し時間をくれないか?金額が金額だから」と弱々しく応え、うなだれる。


 ケヴィンはその姿を見てほくそ笑む。


 彼が協力すると言っているのは、あくまでも魔王軍の脅威に対して。

 そして成功報酬ではなく契約金。

 サンドエルはその辺を理解していない。


 このような状況でもケヴィン達が遺跡を探してくれると考えているのだろう。


 魔王軍に占拠されたとでもいうのだろうか?

 ケヴィンが遺跡に住んでいるとも知らずに。

 それにサンドエルの目的は叶うことはない。

 何故ならその宝具はケヴィンの左手につけられているのだから……

 



 それからケヴィン達一行は、不足分の金貨を回収して謁見の間を後にした。

 ケヴィン達が出ていくとサンドエルそして貴族達は蒼白した顔で力なく床に座り込み、虚ろな瞳で床を見つめていた。

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