フクの去勢手術あれこれ
帰宅して自室のドアを開けると、ベッドで寝そべっていたらしきフクがぴょこんと飛び上がった。
パタパタとあたしのまわりを旋回し、スンスンと匂いを嗅いで、そして首を傾げる。
「きゅー?」
「みんなはね、少しの間お泊まりなのよ。」
あたしはフクの鼻先を軽くつついて、苦笑した。
「きゅ?」
「まぁ、わかんないよね。」
避妊手術、それは恐ろしいことに切腹手術である。
今日さっそく実行で、全員無事終わるまで病院で待機してきたわけだが、その後お腹の傷がそこそこくっつくまで4日間の入院だそうだ。
てゆーか4日でいいのか。
退院してきて、家で何かの弾みでぱかっと傷口開いたりしたらとか想像したら恐すぎるんですけど。
いや、抜糸は退院後またしばらく経ってからだったか。
自分がまだ手術とかしたことないから、体を内蔵レベルで切るとかめちゃくちゃ恐い。
ごめんよ、みんな。
置いてきた3匹に想いを馳せながら、肩にのって来たフクの喉を撫でる。
さすがに、フクを動物病院に連れていくことはできなかった。
獣医師を前に羽は隠しきれないし、羽を隠したところで何と言う種類のトカゲた言い繕うか思い付けなかった。
てか、そもそも騙せたとして、爬虫類の去勢ってやってるのか。
あれ? そもそも爬虫類の生殖ってどんな感じ??
卵...卵を? 産む前? 産んだ後??
そんな有り様である。
結果、私のスマホの検索履歴が、
爬虫類 去勢
とか、
爬虫類 生殖
とか
爬虫類 交尾
とかでいっぱいになったわけで。
なんとなく、嫁入り前の娘としてはビミョーな気分なわけですよ。
爬虫類の去勢手術について見つからなかったし。
それは見つからなかったくせに、爬虫類は単為生殖ができるなんて記事見つけて熟読しちゃったし。
そっかー、処女懐妊かー。
まぁ、メスの話だからうちには関係ないやね。
...
...
...
「...ん?」
フクを肩にのせたままベッドに移動して来ていたあたしは、至近距離のフクをまじまじと見つめる。
「フク...」
「きゅ?」
「あんたってさ...」
「きゅー?」
ただただ小首を傾げるフクだが。
そういえば、確かめたことなかった。
なんだかよくわからないけど、勝手にオスだと思い込んでいた。
こいつ...性別、何だ??
しばらく見つめ合うあたしとフク。
何か不穏なものを感じたのか、じわり、とフクが後ずさるのを、すかさず両手で捕まえる。
「!? ...!?」
助けを求めるようにキョロキョロと顔を動かしながらじたばたするフクの両手を抑え、腹の辺りをまじまじと見る。
...よくわからない。
鱗ながらぷくんと柔らかそうな腹だ。何もない。いや、何もないわけないか? こいつも排泄してるわけだし。
仕方なく片手を離してお腹をまさぐろうたすると、その隙をついてフクがあたしの手から逃げ出した。
「ちっ...」
こっちだって恥じらいを忍んで頑張ろうとしたのに。
ぴゅーっと逃げていったフクは、本棚の最上段に隠れてこちらな出方をうかがっている。
「ま、いいか、また今度で。」
そして。
あたしの検索履歴に、更に
爬虫類 生殖器
とか、
爬虫類 雄雌の見分け方
とかが加わるのであった。