少年、表舞台へ
【武術世界大会ジュニア予選=少年、表舞台へ=】
大会当日。
今日は一次予選だ。
本戦に参加するには、四次予選まで勝ち進まなければならない。また、参加人数がやたらと多いため、大会は二週間もかかるという。
とりあえず、本戦には出場できると思う。なぜなら、大半のジュニアの参加者が戦いに関してド素人だからだ。
記念に出ておこうと、なんの準備もしない状態で出場する奴が目立つ。
過去すでに二回連続で本戦に勝ち進んだことのある人と前年優勝した人は、シード権がもらえて本戦から参加できる。
俺も本戦からがいいな・・・。
父上のコネとかないのかな?とか思ったり。
そんなよからぬことを考えながら俺が父上と一緒に受け付けで、エントリーナンバーの入った腕輪を受け取っていると、周りがいきなりざわつきはじめた。
その中から聞こえてくる話し声。
「あれが、ノアルド家の後継ぎ?やけに大人びてるわね。12才でしょう?」
「無表情だから大人びてるように見えるだけよ。背も高いし。
でも、現当主は筋肉質で見るからに強そうだったけれど、あの子は細身で弱そうね。
大丈夫なのかしら」
「あれがノアルド家かぁ。
目つきが悪くてちょっと恐いけど、ひょろっちぃから楽勝だな。ね、お母さま☆」
最後の奴、対戦相手にあたったらそんな口叩けないようにしてやる。
俺は、周りがジロジロ見てくるせいで、その場にいづらくなり、すぐに人通りの少ないところまで移動した。
さっきとは打って変わって、風の音ぐらいしかしない場所。
でも、静かすぎるのも良いとは言えない。余計なことを考えてしまうからだ。
先程の騒ぎのことを思い出していたら、急にプレッシャーに押し潰されそうになった。
「一回でも負けたら父上と母上の顔にドロを塗ることになる。
優勝しないと・・・」
意味がない。
もちろん簡単に負けるつもりはないし、剣を扱うのも嫌いじゃない。
でも、背負っているものが大きい。この地位から逃げ出したい時だってある・・・。
こんな風にかなり弱きになっている時だった、ふと視線を感じ、そちらに視線を向けてみると、そこには少女が一人立っていて、自分と目が合うとにこっと笑った。
銀髪で紫の瞳だから、同じ魔法貴族のようだ。
まだリシュと同い年ぐらいの子供で、その容姿は、そうだな・・・可憐?と言うんだったかな。
髪を後ろで一つのお団子にしてあるようで、すっきりしている。
迷子になったのか?周りには保護者らしき人物がいない。
「お母さんとお父さんは、どうしたの。
はぐれちゃった?」
少女の近くで腰を下ろし、声をかけてみた。
俺は目つきが悪いから恐がられるだろうか・・・。
しかし、そんな心配をよそに、少女はきょとんとした顔で口を開いた。
「ルシャさまぁ?」
質問の答えになっていない。
思わず「え?」と言ってしまったら、もう一度名前を呼ばれた。
「ルシャさまぁ?」
どうやら俺がルシャなのかどうか確認したいらしい。
だから、「そうだよ」と答えてあげた。
すると、少女はまたにこっと笑い・・・
「ルシャさま、お痛しないようにがんばって一番になってくださいっ。
ルシャさまならだいじょーぶっ」
と言って駆け出して行ってしまった。
なんだったんだろう。
あっという間のことだったが、俺は、応援してくれる人がいることに安堵を覚えていた。ノアルドとしてじゃなくて、ルシャとして応援してくれているように感じたからだ。
応援してくれる人がいるならその人のためにがんばろう。
父上と母上のために俺は戦おう。
負けた後のことは、負けてから考えよう。
いくぞ、俺。
「かかってこーい!ママ見ててぇ☆」
「がんばってルノちゃん!かっこいいわよぉ!」
腰が引けてるぞ『ルノちゃん』。
最初の対戦相手はマザコンなんだかしらないが、礼儀のなってない小太りな貴族だ。
試合開始前の挨拶もろくにできないのかよ。
「・・・よろしくお願いします」と、自分は挨拶をしておいた。
が、興奮気味で耳に入らなかったらしく「どうした!僕が強そうでびびってんのか!?」とか吠えだした。
この場は地位が関係のないところだが、ここまでバカにされるとイラつく。
ふいに、父上もイラついてるかなーと思い、観客席の方をちらっと見てみた。
案の定、黒いオーラを放っていた。
そして父上は、俺の顔を見て、顎を斜め上に上げた。これは、戦っている最中に父上が出すと言っていたサインだ。
たしか意味は・・・
『やっちまえ』
いやいや、まて。早いだろ父上。
父上とアイコンタクトをとっていたら、『ルノちゃん』がおたけび上げて俺に突撃してきた。やたらと鈍かったから、ひょいっとかわしてしまう。
相手はその拍子で顔面から地面に突っ込んで場内からは笑いが起こった。
『ルノちゃん』は鼻血をだしながらも、俺に二・三度攻撃してきたが、全部かわしておく。
その意気込みは買うけど、早さはどうにか改良してほしいものだ。
もう一度父上を見てみたら、顎をくいくいっと二回上に上げた。
意味は『早くやっちまえ』だ。
視線を『ルノちゃん』に戻したら、また俺に攻撃してきた。
まだ始まってから2・3分しかたっていないが・・・まぁいいか。
俺は攻撃をかわし、相手の後ろにまわって剣を柄から抜かずに振り上げた。
「うぎゃっ!」
さすが『ルノちゃん』。期待どおりの倒れっぷりだ。肩を強くど突いただけなのに失神してしまった。
「しょ、勝者ルシャ=ノアルド!」
よし。
俺は審判と、倒れた『ルノちゃん』に会釈をしてから観客席へ向かおうとしたが、突然場内にリシュが入ってきた。
「お兄さま〜☆」
あ、あぶ、あぶない。倒れた小太り貴族につまずくぞっ!
というか、どうやって入ってきた!?
「あぶないっ。リシュ」
「お兄さま☆」
レーシェもやってきた!
「れ、レーシェ。どうやって・・・」
次から次へとなんだと言うんだ?
「ルシャさまぁ〜」
今度はだれだ!観客席へ目を向けたら、試合前に会った少女が俺にぶんぶん手を振っていた。
見ていたのか・・・。
何の反応もしないのもどうかと思ったから、小さく手を振り返してみる。
そしたら、「お兄さまのお友達?」とレーシェに尋ねられた。
「いや・・・うん」
適当に答えてしまった。
この時、俺はまだ知らなかったのだ。
あの子が俺にとって『友達以上』の存在になるなんて。




