少年、才ある者なり
【=少年、才ある者なり=】
魔法貴族の中で三番目に位の高い『ノアルド家』。代々、王の護衛官や軍の隊長格に付いてきた腕の立つ家系だ。
そこに長男として生まれたルシャ。
後に、最強の魔法使いとなる少年である。
「ルシャ。今年から、武術世界大会のジュニアに参加しないか?」
12才の誕生日に、父上から突然言われた。
武術世界大会は、フォルグド全土にいる強豪達が年に一度コロシアムに集結し、ただ一人に与えられる世界王者の称号を手に入れるために腕を競いあう大会の事だ。
ジュニアは、12〜16才が参加するもので、一般は、17才〜参加できる。
小さい頃からよく父上と一緒に観戦しに行っていた。それに俺がでる?
「やっと12才になって出場できるようになったんだ。
お前なら余裕で上位にいけるぞ。
…いや、優勝も目じゃないな!ノアルド家の名をもっと世界に轟かせるのだ!はははは!」
父上は若い頃、一・二度武術世界大会で優勝したことがある。
正直、頭より腕が立つ。
だから、武術の方に力を入れているのだ。外交などの仕事にも、もう少し力を入れてほしいが、俺だって腕の方にしか自信がないから人のことは言えない。
ジュニアは一般に比べて、かなりレベルが低い。
例年の大会を見ているかぎり、自分でも上位にいけるだろう。
もしかしたら本当に優勝できるかも・・・とか馬鹿な発想をしたが、そんなこと考えていること自体弱い証拠だ。自分の腕に自惚れるなんて。
俺はまだまだ未熟だ。出場はもう少し後でいい。
そう思っていたのだけど・・・
父上がすでに勝手に俺をエントリーしていた。
父上・・・。
ノアルド家の名を背負って大会に出場するのだから、それなりに結果を残さなければならない。
てわけで、あと一ヵ月後に迫った今は猛特訓の日々だ。
学校に行く前と、帰ってきた後のランニング・筋トレ・父上の大会への心構えを聞かされる・父上の特訓などなど、結構きつい。
そして、父上の大会への心構えを聞かされるのが一番きつい。
「・・・というわけだ。絶対自分から仕掛けるなよ。相手の動きをみてから動け。
わかったかルシャ?」
「はい・・・父上」
耳にタコです。
うとうとしながら父上の話を聞いていると、部屋のドアがノックされ、母上が入ってきた。ヘルプ。
「あなた。ルシャをそろそろ寝かせてあげないと可愛そうだわ。
ルシャ。こっちに来なさい」
父上が母上に頭が上がらない事は知っている。
これで解放される!と思いきや、父上は意外にも粘った。
「まだ話し終わっていない。あと10分でおわるから、ちょっと待っていなさい。
ルシャ、座りなさい」
いや、もういいです。とも言えない。
俺はどうも自分の思っていることを言葉にするのが苦手だ。
小さい頃から(今も十分ガキだが)、強くなるための訓練をしてきた。その時、一番注意されることが、戦いの最中に感情を表してはいけないということだ。
感情をだせば、次の自分の行動が相手に伝わりやすくなってしまうから。
俺は器用じゃないから、戦いの時だけ感情を殺すとかができなかったため、普段も無表情であまり喋らなくなった。
そして、今に至る。
「ルシャ、嫌なものは嫌だといわなきゃだめよ?
お父さまが大会にでるのではなくて、あなたが出るのだからね。
体を壊したら大変だわ」
母上はそういいながら俺の背中を押し、部屋から出してくれた。
まだしぶとい父上に一言を残して母上も一緒に部屋を出た。
「あなたも早く寝なさい」
目が恐いよ母上・・・。
そんなこんなで、大会前夜。
父上から日々プレッシャーを与えられていたためか、眠れない。
素振りでもしようかと思い、剣を手にして部屋を出ようと戸を開けた。
すると、戸が何かにあたりゴツンと音がしたではないか。
何かと思い、見てみたら妹たちがひっくり返っていた。
「なにをしてたんだ?ドレスが汚れるぞ」
軽く笑って、抱き上げてやる(笑えてたかどうかわからないが)。
俺の二人の妹はかわいい。まだ10才と7才だ。
下の妹リシュがなんでか抱きついて泣きはじめた。
「おにいさま!あしたは、大会にいっちゃだめ!リシュとおうちにいて!」
何事かと思い、上の妹レーシェに尋ねたところ、どうも父上がいらんことを妹たちに吹き込んだらしい。
大会に出たら俺が大怪我するかもしれないってことを言われたようだ。
父上・・・。
とりあえず、妹をなだめる言葉を探した。
「リシュが応援してくれればおにいちゃんは、誰にも負けないよ。
でも、リシュが泣いてると心配して怪我しちゃうかもしれない。
だから、泣いちゃダメだよ」
結構、思っていることをすんなり言えたと思う。リシュもそれで泣き止んでくれた。
・・・うん。
明日は、うまくいきそうな気がしてきた。




