偶然
「いってきまーす。」
「ああ。いってこい。」
私は普段通り登校しているはずなのだが…。
ジー。
またあの視線だ。
「おい。いいから隣を歩け。そう見られては居心地が悪い。」
「さいですか。」
小走りで氷綺が隣にやってくる。
この男は蒼永氷綺。
美しい海のような水色の髪の毛にまるで氷のように冷たい瞳のイケメン野郎だ。
私のことを姫と呼び、私を守ってくれる人だ。
一緒に歩くのはいいが会話が続かない。
昨日知らされた悲劇の物語のことで気になることがあったので聞いてみよう。
なぜかあの話は自分にとって未来を決めるような気がして。
「なあ。昨日の物語。少女は魔法使いとしてはかなり優秀だったのだろう?」
「優秀っていうか。最強だね。」
「ならその九代目の私にも魔法が使えたりするのか!」
目をキラキラさせ幼い女の子のような瞳の梓奈の姿に氷綺は苦笑する。
「残念だけど。姫に魔法は使えないよ。」
「なぜだ?」
「昨日の話。少女は鎖に繋がれていたっていったろ?どうやらその鎖には魔法がかけられていたみたいで、魔法が使えないんだ。」
「なんだー…。」
ションボリしていたが何かに気づいたように顔をあげた。
「それはおかしくないか?」
「?なにがだい?」
「だって昨日の話を聞く限り魔法使いは少女しかいなかったように思ったのだが、その鎖の魔法は一体誰がかけたというのだ?」
氷綺は驚いた。それは自分も考えていた物語の謎の一つなのだから。
「そのとうりだ。だけど随分昔の話だから正確にはわからないんだけどね。」
「そうか。ならもう一つ。私はいままでファントムに襲われたことが無かったのにどうして今になって襲われるようになったんだ?」
「ファントムに襲われるようになる。っていうか姫としての力が目覚める時は必ず十六歳の誕生日を迎えてからなんだ。」
「十六歳?では少女は十六歳で死んだのか?」
「いや十一歳だ。だからなんで十六歳なのか。十六と言う数字になにが関係してるのか。よく分かってない。」
「全然分かってないじゃないか…。」
「それを言われると痛いねー。」
のほほんとして答える。
あれだ。こいつはよくわからない奴だ。
クールだと思えば柔らかくなったり。
普通のテンションから急にダラけるようにのほほんとしたり。
わからん。
そうして学校についたのだ。
「でわまたな。」
「どこいくの?」
腕をガシ!と掴む。
「どこって。それは自分の教室だが…。」
「なにがあるかわかんないでしょ?」
「と言ってもお前は違う教室だろう?それにいつまでも一緒と言うのもおかしいだろうが…。」
「そうか。なら校長を脅してーーー」
「おいこら何をするつもりだ?」
そこで時計をみると後五分もなかった。
「わ、私はもう行くからな!絶対に校長先生に気概を加えるなよ!」
そう言って教室へと走った。
でもなぜだろうか?
氷綺の顔がションボリしていたような気がした。
それからも氷綺の視線を感じたが何事もなく放課後になった。
・・・
・・・
・・・
「今日は何も無かったな。」
「本当にそうかな?実はファントムがさっきまでいたりして。」
「な!そうなのか!」
「いや、嘘だけど。」
「むー。」
簡単に騙される梓奈をみて氷綺は心配になった。
護衛とはファントムからの話だったがこの姫はそこらの男にすぐ騙されてついていきそうだ。
そちらの面でも考えるか。
「もう家が見えている。ここで大丈夫だ。」
「いや、最後まで送るよ。心配だから。」
「お、お前は私の親か!」
もう行くからな!と梓奈は走って家に行くのを氷綺は見送った。
絶対に姫だけは守ってみせるから…。
・・・
・・・
・・・
夜になり隣の家の屋根から姫を監視する。
正直寒い。
真冬真っ只中なのだ。寒くないわけがない。
どうやら姫は風呂に言ったらしい。
姫は長風呂なのだ。一度入ったら一時間は入ってるだろう。
そう思って屋根から飛び降りる。
寒いしまだ夕飯を食べていない。
腹が減っては監視もできぬ。という家の教えだ。
寒い夜風のなかコンビニへと向かうのだった。
「なあ、姉ちゃん遊ぼうぜー。」
「ちょっと飲むだけだから。」
完全に酔ってしまっている中年男性に絡まれる美しい女性を見つけた。
「るせーな。いかねーっていってんだろ。」
わーお。見た目とは違って凄い口悪い。
それでも酔っていて聞こえてないのか先ほどと似たようなセリフで女性にまとわりついた。
流石に大変だろうと思い口を開く。
「おい。迷惑っていってんだよ。早く散れ。」
睨み冷たく言い放つと二人とも酔いが冷めたように血相変え逃げていく。
さて、コンビニに向かうかと思ったが不意に袖を引っ張られる。
「わりーな。助かったよ。」
「いえ。当然のことをしたまでです。」
では。と言い残そうとするが首の襟を掴まれた。
「なあ。この後暇か?」
「いえ。コンビニで夕飯を買おうとしたところですが…。」
「あ、そう。じゃあお礼。家まで来なよ。夕飯ぐらいご馳走するよ。」
「いえ、結構でーーー」
「いくよー。」
「ちょ!」
そのまま無理やり連れて来られたのだが…。ここって…。
「たでーまー。」
「お帰りなさい。母う…え?」
「こ、こんばんは?」
そう。姫の家だったのだ。