第7話 石鹸の完成とドライフラワー
石鹸が固まるまでの数日、フルールは家と町の外を往復し採取をしては、試行錯誤を繰り返していた。
とってきた泥を何度も洗って、汚れやごみを入念に取り除き、綺麗な状態にして乾かした。クレイパウダーの出来上がりだ。
採取した植物、買ってきたハーブの香りや安全性の検討も同時進行している。
天井や窓辺に、乾燥するために干した植物がぶら下がっている。
コンコンコン。
扉を叩く音がして、ガルドが扉を開ける。
「フルール、客だ」
来客が訪れるようになって、ガルドはさらにフルールに対し、砕けた言葉へと自然に変えてくれた。
お陰で、町では良いとこのお嬢様が何かを始めようとしてる、くらいの軽いノリで受け入れられていた。
「こんにちは、フルールちゃん。またいつもの貰ってもいいかい?
今日は良い肉を持ってきたよ」
「あら、アンジュさん。こちらこそ、いつもありがとう。じゃあ容器を預かるわ」
肉屋を営むアンジュから容器を預かって、フルールは小走りに二階へと上がる。
――今日の夕飯は楽しみね。
包みの肉はずっしりと大きかった。肉好きのガルドが喜ぶだろう。
石鹸が完成するまでの間の繋ぎとして、小麦粉と塩、ハーブでドライシャンプーを作った。
それで髪の汚れを事前に落とし、ハーブ酢を水で割った簡易リンスで髪を整えるのだ。
すぐに作れるこれらは、フルールだけでなくカームやガルドも使っている。
パサついていた髪は日に日に艶やかになり、カームはすっかりフルールの顧客第一号になっていた。
結果、町での買い出し担当のカームが広告塔となり、ご夫人たちから美の秘訣を教えて欲しいと言われるようになった。
今住んでいるのは小さな町で、レシピを口伝していくより作って渡した方が効率が良い。
『これで、お金を取るのはまだ早いと思うのよ』
また試行錯誤の段階だからと、フルールは困った。
悩んだ末に相談したら、最初が肝心だからと二人に押しきられた。
結果、材料費に色をつけたちょっとした物々交換のスタイルに落ち着いた。
最初に窓口をカームに任せたところ、大きな反発もなく、町の人に受け入れられている。
そして人から人へと噂が広がり、常連客に至っては、こうして直接家に訪れるようになった。
二階の空き部屋が在庫置場になるほどには、もう店として機能しつつあった。
――毎日が、充実してるなぁ。
大きめの保存容器に入ったドライシャンプーと簡易リンスを、それぞれアンジュが持ってきた器に入れると一階へ戻る。
「お待たせ、いつもありがとう」
「やだねぇ。こっちが世話になってるのに、また頼むよ。
新しいのが出来たら、ちゃんと教えとくれよ。フルールちゃんもカームちゃんもお肌が、みるみる綺麗になってるの知ってるんだからね!」
「ごめんなさい。まだ試行錯誤をしてて、量が作れないから……。
目処が立ったら知らせるわ」
カームはあれ以来、泥洗顔も抵抗なく使っている。
肌の再生サイクルは約一ヶ月。本当の効果が現れるのは、まだ先だ。
それでも日々の乾燥とダメージ、汚れを改善したのもあって、二人の肌の状態はとても良い。
「ガルドは使わないの?」
「生産の余裕が出来てからでいい。今でも盛況なんだから」
アンジュを見送りながら、ふとガルドに聞いてみた。
すると彼は表情を変えず、そっけなく返してくる。これは、こちらを気遣ったものと今ならば分かる。
ドライシャンプーを普段使いするガルドの感想を基に作られた粗塩入りのシャンプーは、男性に人気となっているほどだからだ。
けれど、泥を使った品物に関しては、入手方法とその後の手間を知っているせいだろう。
性能検証には付き合っても、普段使いを彼はしなかった。
「じゃあ、今日の固形石鹸は安心して使ってね」
乾かしていた浅めの木箱を取り出してテーブルに置く。白い部分を叩けば、コツコツと乾いた音が室内に響いた。
ます目に包丁で切り込みを入れ、一つ一つバラバラにする。割れ目から、ふんわりとハーブの香りが鼻腔をくすぐった。
そのうちの一つを、ガルドへと手渡した。
「そこらにある石鹸と違うな」
ガルドは不思議そうにしながらも固形石鹸を受け取る。匂いを嗅ぐと、くるくると回して石鹸の全体を見つめていた。
そのまま、洗い場の方へと彼は歩いていった。早速、試してくれるらしい。
フルールは木枠から固形石鹸を全て取り出す。その中でも、見目の良いものと悪いものとに分けた。
――専用のトレーが欲しいな。取りにくいし無駄に割れちゃう。
細かい欠片や粉は、もったいないので集めて小瓶へ入れた。
見目の良いものは、一つに集めて布でくるんでおく。
「石鹸として使えた。肌に優しい感じがする」
「じゃあ、あげるわ。それ、体や頭にも使えるから」
簡潔に使用報告をしにきたガルドに、フルールも笑顔で答えた。
「フルール、これすごいね! 臭くなくて、いい匂いがする。それにモコモコ泡立つの。
ちょっと髪の毛キシッてするけど、さっぱりするし、その後のリンスでさらさらだよ!?」
買い物から戻ったカームが早速洗髪に使い、鼻息荒くガルドの分まで使用感を語ったのは、夕食前のことだった。




