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第22話 これでも吟味して選んだ拠点なのです

白粉の一件は、これにて一旦終幕です。

ルゼルヴェの屑っぷりが、さらに露見する回になっています。

「さて最後に、旦那様が一番気になってるだろう健康を害する鉛中毒についてですけど。

 国が所有している鉱山、そこで働く方々の健康を調べるのも良いですね。

 多いのは肌荒れ、貧血、神経障害、白粉を使われた人々と比較すると、結果も出てくるかと。

 旦那様の白粉で気になることは、これくらいでしょうか?」


「……ああ、そうだな」


 フルールがツラツラと説明すると、難しい顔をしてルゼルヴェは同意する。

 これらの情報をもってどうしていくのかは、ルゼルヴェ次第だろう。フルールの領分ではない。


 ――歴史の中でも、規制されるまでは長かったし、密輸もあったしねぇ。


 鉛入りの白粉が流行したのは、他の品物よりも白さを極め、伸びや肌馴染みが良いなど利点が多かったからだ。

 化学が進み、他にいい製品が出来た。けれど規制が確立されるまで、そういった健康被害は裏でも度々起きていた。暗殺に用いられることもあった。


 もう一つ、鉛入りの白粉は重いという特徴もあるにはある。そこは、計量の文化が定まってないので伏せておく。


 ――お化けかぼちゃの重さ当てとか、好きだったなぁ。


 前世の習慣を記憶が引き継いだからか、フルールはおおよそのグラム数を、目視と感覚で合わせることが出来る。

 作る物の均一性が保たれているのは、割合計算とその癖のお陰だ。


「では旦那様、他には何か望まれて?

 用がお済みでしたら、どうぞお引き取りくださいな。

 ……カームとガルド、道案内は終わったでしょう。貴方たちは、これからどうすることになったの?」


 ルゼルヴェから視線を外して、フルールは二人にそれぞれ訊ねた。

 すると二人は揃って、ルゼルヴェを見ていた。


「……フルール、まさかこのまま、ここに住むつもりか?」


 針のむしろ、そう表現出来そうな状態のルゼルヴェが、言いづらそうに話題を微妙に変えてきた。


「ええ、はい。私の家ですからね。引っ越しも視野にはありますけど」


 玄関の扉が壊れているが、直せば良いだけの話だ。押しかけ強盗の対策は必要だろうが、すぐに次に移り住めるほど無計画ではない。

 フルールはしれっと質問に答える。ルゼルヴェへのご機嫌取りなどする気はない。


 ――山があって、森があって、湖があって、ほどよい田舎で探して決めた場所だもの。


 さらにはラベンダーの丘陵地もあるのだ。引っ越すとなれば、ここより良い立地を探さなければならない。


「家の状況が分かっているのか?」


「扉が壊れていて、風が入ってきますわね。冬でなくて良かったです」


 ルゼルヴェに目も合わせずフルールはあっさりとそう言った。何食わぬ顔で、ハーブティーのお代わりをカームに頼む。


「……君は、侯爵夫人だぞ?」


「形だけですわ。ここでは、ただのフルールです。旦那様の名を穢すことはしませんから、心配されなくて結構です」


 ツンと答えるフルールを前に、盛大にため息を吐いてルゼルヴェは頭をかいた。


 ――怒鳴ったり、出ていったりしないのね。


 クラッカーにチーズを乗せて、フルールはパクリと食べると、そうルゼルヴェに対して評価する。

 ルゼルヴェは、何も手をつけていない。ずっと、フルールの話を真面目に聞いていた。

 今もそうだ、フルールの煽りに対して困ってはいるが怒ってはいない。それだけでも、人として見直しても良いところだ。


「在宅時に襲われていたら、どうするつもりだったんだ」


 ルゼルヴェをのらりくらりと躱し続けていたフルールに、彼は事実を突きつけた。本題だと言わんばかりに。

 確かに世間的に見れば、冷遇された侯爵夫人が刃傷沙汰になったと外聞が悪いかもしれない。

 普通ならスキャンダルも良いところなのだが、すでに三年後、白い結婚での離縁が視野に入っている状況だ。

 人の口に乗るのが、遅いか早いかの違いでしかないとフルールは思う。


 ――二度目の人生よ、身も心も優美に死んでやるわ。


 これ以上、フルールの価値を貶める行為は重ねたくない。そうハッキリと意思を込める。


「走って逃げれませんから、潔く花を散らしますわ。汚れるつもりはありませんので」


 フルールは全てを受け止め姿勢を正し、まっすぐに答えた。


「――っ」


 その発言に、ルゼルヴェだけじゃなく、ガルドとカームも、ヒュッと息を呑んだ。


「ああ、誤解なく。貴族だからとか見映えや見栄ではなく、本当に走れませんの、私。

 逃げるなんて、まず無理ですわ、そうなると取る選択肢は一つでしょう?」


 馬車の事故で傷物と呼ばれる一つ、フルールは足の健に後遺症を抱えていた。

 普段は歩行に問題はないが、それでも人よりも転けやすく、走ることはもう出来なかった。


 ――身売りも、辱しめも、ごめんだわ。


 三人の視線から逃れるように、ハーブティーに口をつける。何をそんなに驚いているのか、フルールには分からない。

 突き抜けた爽やかさが、どろりと苦い思いも溶かしてくれる。


「……君の考えはよく分かった。ガルドとカームは置いていく。それから、もう一人……フィアビリテ」


「なに、呼んだ?」


 少しの沈黙の後、ルゼルヴェは表にいた護衛の一人を呼びつけた。

 スラリとした長身の、仕草からして貴族と分かる男が中へと入ってくる。ルゼルヴェに対し、フランクな態度で用件を聞いていた。


「フルールに付け、ガルドと共に護衛を命ずる」


「旦那様!?」


 フィアビリテはそれに何も言わず、にこりと礼をとるだけだ。フルールはすぐさま非難の声をあげた。

後二話ほど、すれ違い夫婦の衝突、修復(?)にお付き合いください。

明日はちょっと変則で、7時10分と21時10分の二回更新で、夫婦回の着地をしたいと思います。

明後日から、スローライフ再開で毎日7時10分に戻したいと思います。

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― 新着の感想 ―
いやぁ、修復しちゃダメでしょう。 チャラ男っぽい新護衛君のスタンスは不明だけど過干渉になりそうだし、スローライフの妨げにしかならないと思う。 それを正論で抑えつけるか感情に訴えるか分からないが変な説…
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