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1 届かなかった弟の想い

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 よろしくお願いします

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 目が覚めたらいい匂いがする。

 人様には見せられない大きなあくびをしながらソファーから起きあがる。


「お母さん、毛布ありがとう。今日は何?」

「今日は親子丼。毛布はサトル」

「へー」

「あんたパンツ出てたよ」

「マジ?」

「それ見てサトルが毛布掛けてった」

「あちゃー」


 どうやら学校から帰ってきた後スマホで遊んでいたらそのまま寝ていたみたいだ。それもパンツを出して。

 そしてその姿を母親と弟のサトルに見られたらしい。


「なんでお母さんがしてくれなかったの」

「パンツ出して寝てたあんたが悪いんでしょ」


 それはそうなんだけど、同じ女として助けてくれもいいじゃない。


「で、サトルは?」

「お風呂」


 まぁ、いつも通りか。部活帰りだからね。でもバツが悪い。


「先に食べる?」

「食べるかな」


 仕事から帰宅していない父親とお風呂から出てこない弟を待たずに先に夕食を始める。

 十九時前に父親が帰宅した。そして弟もお風呂から出てきた。弟はいつもと同じで私の右隣に座り、四人になって食事をする。

 でも四人そろったからといって家族団らんってほどにぎやかにはならない。会話もあるけど各々食事を進めてる感じ。

 食事中に毛布のお礼を弟に伝えたかったけど、なかなかタイミングが掴めなかった。

 そしていつものように一番に食べ終えた弟が、ごちそうさまと告げて自分の部屋に向かった。それでも私はスマホをいじりながらダラダラと食べ続けた。


 私の食事が終わるころには、父親はお風呂に行っていて、母親は後片付けをしていた。

 そしてテーブルの上に残っていたものを冷蔵庫に入れてからダイニングをあとにした。

 二階にある自分の部屋に向かうけれど、階段の手前で二階から降りてくる足音がした。同じく二階に部屋がある弟が降りてくる。

 階段ではすれ違えないから、一階で通り過ぎるのを待っていると、弟が階段の途中で私に気づいて止まった。

 なんとなく「最近はどう?学校になじめた?」と声をかけたら、


「お母さんかお父さんに何か言われた?」

「えっ、何も言われてないよ。なんかあったの?」

「何もないよ。ただいきなり変なこと聞いてきたから」


 確かに変かもしれない。親父臭いセリフだったなと自分でも思った。だから「ごめん」と伝えると、「学校は普通。何もないよ」と弟は言葉を返してきた。


 弟が私と同じ高校に入学して三週間が過ぎた。来週にはゴールデンウィークになろうとしている。

 部活は小学校からのサッカーを続けている。

 いまさら学校で何かあるとは思えない。

 だから「好きな子はできた?」と話を替えてみた。

 そうしたら「そんなのいないよ」と返されたので「中学からとか気になる子はいなかったの」と続けて聞いてみた。

 すると真剣な目つきで「いるよ」と返事をされた。

 興味が湧いた。弟の恋愛話は聞いたことがなかったから。ずっとサッカー一筋だと思い込んでいた。


「なになに、どんな子?」

「普通の人」

「今どこまで進んでるの?」

「なにもないよ」

「なにも進んでないの?」

「そうだよ」

「なんで?」

「なんでって、無理だから」

「なんで無理なの?とりあえず告っちゃえばいいじゃない」

「ダメだってわかってるから」

「ダメだったらダメであとで考えればさ」


 お姉ちゃんが恋愛相談に乗ってあげるよって雰囲気で話を続けていたが、衝撃的な言葉を耳にした。


「俺が好きなのは姉ちゃんだから」


 視線が合っていない告白を受けた。

 いやいやいや、それはないって。それはヤバイって。


「いやぁ、なんて言うか、気持ちはうれしいけど、それはダメだよ」

「わかってるよ、そんなこと。言われなくってもダメだって」

「まっ、きっといい子見つかるよ」


 焦って話を切りあげようとしたけど、


「そんな簡単なことじゃないよ。俺だっておかしいことぐらいわかってる。ずっと姉ちゃんのこと考えてたから。姉ちゃんの代わりなんていないよ。姉ちゃんは本当に好きになったことがないからそんなことが言えるんだよ」


と、少し声大き目な声で言われたからムキになって、


「私だってなんども付き合ったことがあるから好きになるってことくらいわかるよ」と返してしまった。


 すると弟は、


「じゃぁ、なんでなんども付き合うんだよ。好きだったんならひとりだけじゃないのかよ」

「それは……」

「俺は姉ちゃんだけでいいと思ってる。結婚もダメ。子供もダメ。なにもできない。でも姉ちゃんと一緒にいられるのならそれだけでいいと思ってる。結局姉ちゃんは本当に好きになるってことがわかってないんだよ。……なんで姉ちゃんなんだよ。なんで同じ家に生まれたんだよ」


 返す言葉を見つけられなかったら、弟が「もういいよ」と私の脇を通り過ぎて、母親のいるダイニングに消えていった。

 少しほっとした半面、今の会話が両親の耳に入っていないか心配になった。

 そして二階の自分の部屋に逃げるように入って、弟との会話を振り返る。

 姉と弟だって。漫画みたいだ。信じられなかった。今までそんなそぶりもなかったのに。

 これからどうやって顔を合わせたらいいのか考えてたが、その必要性は全くなかった。


 弟からの衝撃の告白を受けた次の日の朝、顔を合わすことはなかった。

 避けたとか、避けられたとかではなかった。単にサッカー部の朝練で一時間も前に登校していたから。

 それでも弟のことが気になる。

 いつものように朝食を摂っている母親に「サトルは?」と聞いてみた。

 すると「もう行ったよ」と言い、いまさら何を言っているの?みたいな顔をされた。そして「何かあった?」と聞き返されてドキっとした。

 だから「昨日、彼女とかいるかって話したら、いないって怒られたから」と本当のような嘘のような話をした。

 そうしたら「そうなんだ。でもあんまりからかっちゃダメだよ」と諭されて、両親の耳には入っていないんだと安心した。

 そして朝食を終えるころに起きてきた父親に挨拶をして登校した。


 学校ではずっと弟のことが頭から離れなかった。当然だ。

 それなのに昼休みに教室から出たら、元カレが待っていた。

 要約すると謝るから、やり直そうと言う話しだった。

 どうせヤリたいだけなんだろうと思ったから、もう終わったことだからと丁寧に拒絶した。

 今週は女難?男難?の相でも出てるのかと憂鬱になった。


 放課後は部活に入っていないから、友達との話次第で帰宅時間が変わる。今日は何もなかったからまっすぐ帰った。

 だいたいは私が一番先に帰宅する。一六時三十分ころには家に着く。次にパートを終えた母親が十七時三十分ころ。部活を終えた弟が十八時三十分ころ。で最後に父親が十九時ころだ。これがいつもの流れ。

 だから弟と顔を会わせ難かった私は自分の部屋にこもった。

 帰宅してからずっと自分の部屋にこもっていたら、スマホにご飯ができたと母親から連絡が入った。

 一階に降りてダイニングに向かうとすでに弟が食事をしていた。

 普段通りだった。会話の少なめな夕食。たぶん子供が大きくなったらどこの家も同じような光景だと思う。

 そして今日も一番に食べ終えた弟が自分の部屋に向かった。

 いつも通りだった。


 でも変化は起きた。


 週末の土曜日、弟は朝から部活に向かった。お昼前に帰ってきて一緒に昼食を摂った。そして出かけていった。帰ってきたのは十九時過ぎだった。

 明けて日曜日も弟は朝から出かけた。部活でもないのに。そしてお昼に戻ってきて食べたあと、また出かけた。そして十九時過ぎに帰ってきた。

 週末はずっと家にいなかった。きっといたくないんだろう。避けているんだと思った。


 月曜日の夕方、一番遅くに帰ってきたのは弟だった。

 次の火曜日も同じく、弟が一番遅かった。それでも二十時までには帰ってきていた。

 少し心配に思った父親が弟と話をしたらしいが、先輩に付き合ってるだけで悪いことはしていない言うことらしい。

 私は弟とは顔を会わせ難かったため、その話しの場にはいなくて、後になって教えてもらった。


 そして四月末に私は十八歳の誕生日を迎えた。

 夕食に遅れて帰ってきた弟におめでとうと言われたが、今までで一番素っ気ない言葉だった。





お読みいただいてありがとうございます


今後の励みになりますので星を付けてもらえるとうれしいです


目安として


たいへんよくできました…星5つ

よくできました……………星4つ

できてはいます……………星3つ

つぎはがんばりましょう…星2つ

もっとがんばりましょう…星1つ





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