第一話
「ねえ、聞いて聞いて」
トレードマークのシュシュで結わえたポニーテールをゆらしながら教室にかけこんできて、おはようも言わずに私と里美の席に来た朱莉はそう口火を切った。
「すっごい体験しちゃった」
「おはようくらい言ったら?」里美がメガネを上げながらいう。
「あ、おはよ。で、ゆうべさ…」
朱莉が続けた。
しかたがない、私と里美は顔を見合わせたあと、朱莉のほうを見た。
「寝てたら、ベッドから落ちそうになったのね。それであわてて、床に手をつこうとしたの。そしたら次の瞬間、なぜか下の部屋に移動してて。で、暗いから灯りつけようと思ったの。それで、部屋の入り口にあるはずのスイッチ探してたら、突然、毛むくじゃらの手が私の手をつかんで『テイル』って言ったの」
「何それ。キモ」と里美。
「で、どした?」と私。
「え?って手をひっこめたの」
「うん」
「そしたら次の瞬間、自分のベッドの中にいたの…瞬間移動じゃない?これって」
「夢オチ」と里美。
「だね。夢」と私。
「夢じゃないよ。毛の感触もあったし、声も聞こえたし」と朱莉。
「夢で会話する事あるでしょ」と里美。
「そうだけど」朱莉は不満そうだったがHRが始まったので話はうやむやで終わった。
翌朝、眠そうな顔をした朱莉が登校してきた。
聞くと昨夜も同じ体験をしたと言う。
「昨日と全く同じなのよ。感触も声も」
「同じ夢を見る事だってあるでしょ?」と里美。
「うん…」
翌日から三日間、朱莉は体調を崩したということで学校を休んだ。
月曜、担任から朱莉が居なくなったという話を聞かされた。
家の人によると、日曜の昼になっても起きてこないからと、心配して部屋を覗いたら居なくなってたという。
心当たりや連絡があったら先生に伝えるよう、と言って話は終わった。。
「朱莉どうしたんだろう?」と私。
「だね。私達にも何も言わないなんて変」と里美。
「悩みとか聞いてないもんね」と私。
「強いて言えば、このまえ言ってた『夢』?」と里美。
「続けて見て気持ち悪がってたけど悩むかな?」と私。
「だね」と里美。
翌朝、登校してきた里美が言った。
「私も見た」
「何を?」
「朱莉が見たのと同じ夢」
「うっそ」
「ホント。朱莉が言ったのと同じだった。毛むくじゃらの手と『テイタ』」
「『テイタ』?『テイル』じゃなく?」
「厳密に言うと『ッテイタ』。テイタの前に何か言ってる風の」
「何とかテイタねえ」
翌朝、登校してきた里美は、昨夜も見たと報告してきた。
「朱莉と同じになっちゃうのかな?」里美は寝不足の顔でつぶやいた。
翌日から二日間里美は学校を休み、月曜の朝、里美も行方不明になったと聞かされた。
朱莉の時と同じで、日曜の昼に家族が里美の不在に気づいたという。
一番仲が良かった私は、心当たりがないか尋ねられた。
私は二人が同じ夢を見たらしいこと、気味悪がっていたことを伝えたけれど『偶然だろう』で片づけられてしまった。




